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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

プロジェクトA(V)

2009-08-06 18:40:50 | 映画(は)
評価点:80点/1983年/香港

監督:ジャッキー・チェン

これこそ、まさに香港エンターテイメント。

水上警察のドラゴン(ジャッキー・チェン)たちは、陸上警察といつもいがみ合っていた。
水上警察の頭を悩ませているのは、香港近海に現れる海賊たち。
いっこうに収拾できない様子をみた署長は、近海の警備をイギリス軍に任せ、水上警察を陸上警察に組み込んでしまう。
そんな中、指名手配中の男があるレストランに現れたと知って、押し入る。
そこに居合わせたのは、こそ泥のフェイ(サモハン・キンポー)だった。

この作品も、今更感が強い。
何度も再放送されている作品なので、思い入れが強い人も多いだろう。
僕は、子供の頃ずっと繰り返し観ていたが、最近はさすがに飽きてしまって十年以上見直していなかった。
だが、この辺りで見直しておくのもいいだろうと考えて、レンタルしてみることにした。

何の批評もいらないくらいに、おもしろい映画だ。
ここのところ暑い日や、長雨の鬱陶しい天候が続いているので、一気にその鬱憤を吹き飛ばすために、是非どうぞ。
若かりし頃のユン・ピョウは、やはりかっこよい。

▼以下はネタバレあり▼

この作品について、何を書けばいいの? と言いたくなるくらい、僕にとっては当たり前の作品だ。
ジャッキーは、僕にとって漫画の「ドラゴンボール」のように、身近にあり、僕を育てた作品だと言える。
特に香港で活躍していた頃のジャッキーは、毎日のように観ていた作品もあった。
その中で、「プロジェクトA」は、もっともジャッキーらしい映画の一つだろう。
一つは、ジャッキーが目指すアクションの原型、あるいは典型がここに見受けられるという点。
今ひとつは、ジャッキーが、香港という土地を、中国と英語という二つの自治、アイデンティティに挟まれた境界として強く意識して物語を組み立てているという点だ。

ジャッキーと、先になくなってしまった伝説のカンフースター、ブルース・リーと決定的に異なっている点は、シリアスとコメディという路線だ。
まあ、そんなこと、今更という感じではあるが、そこは決定的だろう。
そして、ジャッキーがカンフーを映画として魅せることに成功したゆえんはここにある。
僕が大好きなジェット・リーがなかなか良作と巡り会えないのは、この路線のせいかもしれない。

やるときはやるが、どこか抜けている、エリートになりきれない、憎めないキャラ。
その人間性溢れる人物造形が、ジャッキーの原型だ。
現在では、それがあまりにも同工異曲なので、飽きてしまった感は否めないが、このキャラはすばらしい。
できそうなのに、そのアクションは絶対にできない。
痛いというリアクションを取りながらも、相手をどんどんなぎ倒していく。
だからこそ、クールに決める二人のリーとは違って、感情移入できる余地が多分にある。
怖いくらい強いはずなのに、一対一や、ガチバトルはあまり見せない。
後半の最後の最後までとっておいて、サモハンやユン・ピョウたちとチームを組んで戦う。
敵の動きにも不自然さがなく、かっこよすぎる。

それまでは、といえば、椅子を使ったり、棒を使ったりして、イリュージョンのように多彩な技を魅せる。
文字通り、魅せるのだ。
だから、この作品を観た後、小学校の校舎に突っ立っている旗棒をみると、どうやって登るんだろうとか、階段やベランダを観るとここでジャッキーならどんなふうに戦うだろうとか、考えてしまう。
それはまさに文学における異化効果そのものであり、現実まで浸食する影響力なのだ。
超人たちのアクロバティックなアクションを描いた「ヤマカシ」にも似ているかもしれない。
それは、人間性ある喜怒哀楽をすぐさま表すキャラクターであるからなせる技だ。

そして、陸上と海上の警察がともにいがみ合っている姿そのものが、当時の香港という土地のアイデンティティそのものだ。
イギリス領としての香港、そして中国としての香港。
この両者の難しいアイデンティティという民族意識そのものを、この映画が示している。
舞台はイギリス領の香港ではあるが、流れている物語性は、中国の古典的な物語の典型だ。
もちろん、コメディのパターンも、我々日本人にはどこか懐かしい印象さえ受ける。
海賊と癒着する警察も、どこか憎めないこそ泥のフェイも、すぐに目先に走ってしまう警察官の同僚たちも、どこか懐かしい。
それは、公開からずいぶん時間が経っているからではないだろう。
おそらく、当時の観客たちも、そう感じていたに違いない。
漢文のどこかに出てきそうな、そんな物語なのだ。

そこに、ジャッキーの香港という土地への思い入れを感じることができる。

下手なアクション映画を見るくらいなら、人間の知恵と肉体を使った「A計画」を見るべきだ。

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