secret boots

ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ハッピー・フライト

2009-01-03 15:48:09 | 映画(は)
評価点:87点/2008年/日本

監督:矢口史靖(「スイングガールズ」ほか)

和製職人群像劇。

鈴木和博(田辺誠一)は、国内パイロットから国際線のパイロットの試験を受けることになっていた。
いつもの優しい教官は、風邪を引いて、厳しいことで有名な原田典嘉(時任三郎)の審査を受けることになった。
一方、CAでは、こちらも国際線は初めてだという斉藤悦子(綾瀬はるか)がドタバタで準備をしていた。
グランドスタッフの木村菜採(田畑智子)は、出会いがない、もう辞めたいと思いながらも、今日も座席変更の手続きに追われていた。
整備士の盛岡龍(中村弘樹)は、出発前の調整に追われ、「勝手なことをするな!」と先輩からどやされていた。
天気予報では台風が迫っているということだったが、問題ないとして予定通りの出発が実現した。
万事うまくいくはずだったが、機内では細かいトラブルが続き……。

「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」の矢口監督作品。
その二つの作品ともに、まだ観ていないという自称映画マニアの僕だが、今回ははじめて劇場で鑑賞することにした。
もっと上映していると思っていたのに、主要なシネコンではすっかり正月映画になってしまったようだ。
いや~アップがいつもながら遅くて申し訳ありません。

この映画は僕が今年観た映画の中でも三本の指に入れたいほど、よかった。
まだどこかの映画館なら公開しているかもしれないので、ぜひ観に行ってほしい。
綾瀬はるかのポジションがようやく理解できた作品でもある。
とにかく職人を思わせるシーンが多く、邦画や洋画という区別を忘れるくらいにできがいい。


▼以下はネタバレあり▼

主演はおそらく綾瀬はるかということになるだろう。
これまでどちからというとムリなタイプだった綾瀬はるかだが、こういった演技や役所なら、きっと長生きできるだろう。
…とそれはさておき、主演が誰かということをあまり意識せずに見た方がおもしろいはずだ。
この映画は群像劇となっており、主演や助演の区別よりも、彼らに共通する哲学を読むことができれば、この映画は十分だ。

その哲学とは、職人である、ということだ。
グランドスタッフの田畑智子にしろ、CAの綾瀬はるかにしろ、こちらが観ていて悲しくなるくらい職人であり、うらやましくなるくらい仕事人なのだ。
この職人ぶり、仕事人ぶりに関しては、仕事をしているあらゆる人の共感を呼ぶだろうし、航空関係に対して興味がある学生や子供たちなら、きっとあこがれを強くするだろう。
航空関係志望でなくても、働くことの難しさと怖さ、そしてやりがいのようなものをきっと感じられる作品になっている。
この映画に好感が持てたのは、他ならないその哲学が見事だからだ。

彼らは悲しいくらいに職人だ。
たとえば田畑智子。
グランドスタッフとして働いてきたが、仕事一辺倒で、本当にこのまま続けていていいのか不安になっている。
結婚もしたいし、自分の時間も持ちたい。
けれど、出会いもないし、いきなり残業などは当たり前の世界で一生過ごせるかどうかもわからない。
それは多くの他の職業でも同じ事なのかもしれない。
だが、彼女はどこまでも「グランドスタッフ」なのである。
空港で送り出し、迎え入れるという職に誇りを持ちながら仕事に取り組んでいる。
だから、荷物を渡しそびれると、ダッシュで追いかけたり、後輩の面倒をよくみたりする。

普段は全然働かない岸辺一徳もまた、職人だ。
機械トラブルがわかると真っ先に行動し、停電には率先して指示を出す。
周りの上司がみなそんなかっこよい人たちなら、どれだけ働きやすいか。

整備士にしても、管制塔職員にしても、操縦桿を握るパイロットにしても、もちろんCAにしても、みな自分の人生に悩みながらも、やっっぱり飛行機が好きなのだ。
その誇りと温かみと、人間性が貫いているために、そしてそれはどんな職業にも共通しているために、共感を生む。
すべてのやりとりや描写が、リアルに、ありそうに描かれているために、展開にムリがない。
まあ、機内でお菓子作りなどはちょっとフィクション性が高いけれども。

起こるトラブルも、手抜きではなく、不運によるものだ、ということも、リアルだ。
どれだけ万全を期していても、どうしても飛べないときがある。
それは飛行機への信頼を揺るがすものではなく、むしろ信頼を増すものだろう。
寸分違わず調整する彼らがいるから、機械的な技術や操作によってではなく、飛行機が飛んでいるのだということを実感させてくれる。
どれだけすごい職人でも、やはり人間なのだ、という鉄のかたまりに対して温かみさえ感じさせてくれるのだ。
転がった正露丸がどうなったのか、気になるところではあるが、彼らがいる限り空の安全が守られているののだと思うと、親近感がわく。

もちろん、それが可能になっているのは、できる限り説明を省いている描写力だ。
また、圧倒的な取材量だ。
だから、この映画が作られていることじたいが、何よりも職人芸なのだと思える。
がっちりタッグがくまれている、というその統一感、一体感がこの映画の何よりの魅力となっている。

DVDが出たら、…どうしよう。
それくらい良い映画だ。

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