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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

論考「進撃の巨人」

2021-06-11 20:06:13 | 不定期コラム
その通りです。
世間の流行に乗っかった、軽薄でミーハーなmenfithです。

さて、私は連載初期の段階から「進撃の巨人」を知っていた。
連載当時から熱心なファンで、毎号雑誌で読み込んでいた、という人ではない。
むしろ最初の1巻を読んで(無料だったか、マンガ喫茶だったか)、「これはない。」と思って無視し続けてきた。
理由は絵が下手すぎた、ということと、一つの疑問が物語の破綻であると感じていたからだ。

だが、知人から「絶対読んだ方が良い、menfithさんなら絶対ハマる」と言われて半信半疑でKindleに全巻ぶち込んだ。
そして、6月9日というこの日まで結末を待ち遠しく思っていたわけだ。
だから、軽薄であり、ミーハーであることは認めよう。
私が悪かった、と。


▼以下はネタバレあり▼

【100年間守られ続けた壁】
私が破綻であると感じていたのは、巨人を守る壁という設定だった。
近代的な兵器がないという設定のはずなのに、壁だけが立派でそびえ立つ。
そういう設定が破綻であると感じていた。

物語はその壁が壊されるというところから始まる。
これまでずっと壊されていなかった壁が、いまになってなぜ壊されるのか。
そして1巻の最後には、主人公であったはずの少年エレンがあっけなく殺される。
激動の展開だが、私に言わせればそれは不自然な設定で、説得力もなければ蓋然性も感じられなかった。

だが、絵の下手さはともかく、そういった設定の不自然さは物語の中盤で次々に必然に変わってくる。
すべての書いても生産性はないので、100年という時間の妙について記しておこう。

このマンガは、あらゆることが必然的に起こったと思わせるつながりがある。
その一つが、100年間という時間だ。
この100年は、ちょうど現実で言えば第一次世界大戦が起こる直前の100年に相当する。
要するに、今から200年前から100年前の話というわけだ。
この時間は、産業革命が起こり、市民革命が起こり、あらゆる技術が革新的に進化した。
それまでの100年の進化とは比べものにならないほど、劇的な変化だった。
作者は、このことを知っていたのだろう。

だから、壁の外の世界は劇的に進化した世界であり、壁の中は中世の世界で生きている。
映画「ヴィレッジ」にも通じる歴史の断絶がある。
この100年でなければ、この物語は成り立たなかった。
エレンたちが住むパラディ島は、100年間歴史が止まってしまった世界なのだ。

そして100年間で歴史が進んだ外の世界では、ついに巨人という最強の兵器を超克するための技術を手に入れたと確信できる進化を遂げていたわけだ。
だから100年であり、だからエレンが生きる時代に始祖奪還計画は敢行された。

言うまでもないが、この設定がこのマンガの命になっている。
(それがわかるまでに時間がかかりすぎて投げ出す読者が出るのも無理はない(自己肯定))


【壁の内も、壁の外も】

このマンガのテーマは暴力である。
物語の後半で明かされる壁の外の世界も、巨人の侵攻に苦しむ壁の中の人々も、みな暴力にいそしんでいる。
弱いものが殺され、強いものはより強いものに挑み自分たちが生きる世界を広げたいと考えている。
それはあらゆるレベルで繰り広げられて、対人関係でも起こり、国と国でも起こっている。

巨人という設定はあるものの、巨人とは関係がない次元でもその争いは起こっている。
わかりやすく対立をつくるための装置であったとしても、そこにある暴力の根源は、巨人にはない。
登場人物たちは、徹頭徹尾、つねに争い続けている。
時に、「心臓を捧げよ」と猛々しく鼓舞したり、仕方がなかったと肯定したりするが、結局行われているのは他者を蹂躙することであり「地ならし」のエレンと何ら変わることはない。
終幕で、地ならしを敢行するエレンに人々は恐怖と怒りを覚えるが、しかし、同じことを自分たちが行っていたと言うことに誰も気づかない。
自分たちは違う、自分たちは正しい、と自己肯定、自己防衛している人間たちは、地ならしの意味を理解することができない。

地ならしに対して立ち向かい、エレンを止めようとしたミカサらの調査兵団たちであるというのは計算された展開だろう。
パラディ島の調査兵団らも、マーレ側のピークやガビの戦士らも、皆「相手の立場に立ったことがある」者たちばかりだ。
自分たちが行ってきたことが、相手も同じように考え「どうしようもない暴力」に身を投じてきたことを知っている者たちだ。

だからこそ、地ならしに対して畏怖や恐怖、怒りを覚えるだけではなく立ち向かい、支持することもせずに止めようと行動することができたのだ。
超越論的な視座を持っていたのは、エレンだけではない。
相手の立場に深く立ち入ったことがある、エレンの蛮行を止めに行ったものだけが、自己を相対化することができていた。
もちろん、だからこそ彼らはエレンを止めようと行動できた、ということなのだ。


【暴力によって浮き彫りにされた形と、永遠の時間】

だが、33巻まで読んでいたとき、私は気になっていたことがある。
それはマンガのセオリーである一つの感情が欠落していたということだ。
それが恋愛の要素だ。
いや、愛の要素、といってもいい。

ミカサとエレンに象徴される二人の関係性は、あきらかに恋心であり、ミカサの行動はすべてエレンへの愛によるものであることは明確だ。
だが、その描写は数えるほどしかない。
(あらゆるところで示唆されているとはいえ、明確に描かれてはいない)

キャラクターがほとんど無性別なのも同じことだろう。
男女の恋愛じみた展開や関係性は、物語でほとんどフォーカスされることがない。
逆にここまで人気を得ながら、それを恋愛の要素を使わずに描ききるということは稀であろう。

だが、34巻にその意味が明かされる(ように読める)。
このマンガのテーマは徹頭徹尾、暴力でありながら、その暴力という実線によって浮かび上がるテーマがある。
それが、愛であるということだ。
それはほとんど描かれていない。
だが、暴力によって縁取られ、一つの像が結ばれるようになっている。

アルミンとジークは邂逅し、「この瞬間のために生まれてきた気がする」と伝える。
エレンとミカサとのたわいもないやりとり、恩人とのキャッチボール、そういった瞬間が私が生きている、という生を実感させる原動力そのものだった、と語り合う。
物語の大半は暴力で埋め尽くされているのに、だ。

ここにその暴力によって描かれていたものが、暴力に縁取られた愛であるということが示唆されている。
私たちは一般論として、愛と暴力を対極に置き、選択を迫る。
愛の裏側に暴力を、暴力の裏側に愛を見出そうとする。
愛ゆえに暴力が生まれ、暴力の理由に愛を見出す。
だが、話はそんなに単純ではない。

彼らの繰り広げられていた暴力には、常に愛が存在し、愛と暴力がほとんど同義であるということが浮かび上がる。
そしてそれらは繰り返されるが、それは決して愛や暴力の喪失、超克という意味ではない。
その瞬間に愛があり、その瞬間に暴力がある。

永遠を保証された平和など意味がない。
巨人のいなくなった世界にも暴力はあり続ける。
ミカサは果たして幸せに看取られて死んだのだろうか。
そのとき、彼女は何を思ったのだろうか。
エレンと同じ場所に埋葬され、その後戦争が起こり、文明がなくなり、地に還る。

パラディ島の生存か、世界の生存か。
パラディ島(エルディア人)の全滅か、世界の全滅か。
そういう二項対立は、愛か暴力かという二項対立を軸に考えた観点だ。
ミカサは巨人の力を完全に失うことを選択し、実行した。
彼女だけは、愛も暴力も知る中間地点にいた。
マーレとパラディ島、という対立から離れたヒィズル国の血統だった。
そしてなにより、ユミルとミカサだけが性的な差別化(男女の恋愛)が明確化されている。

けれども、巨人の力があろうとなかろうと、暴力はなくならない。
本質は巨人の力ではないからだ。
人間という社会的な動物であるがゆえの争いだ。

暴力と愛は選択でも対立でもない。
それが生きるということだし、それが人間の歴史ということだろう。
暴力を根絶する術はない。
たとえあったとしても、このマンガで描かれることはついになかった。
そんな答えはなくとも、私たちは生きていける。
たとえ暴力に満ちあふれた、残酷な世界でも。
「こんなにも世界は残酷だから」という台詞を繰り返しながらも、それでも登場人物たち(私たち)は生きようと思う。
それが、このマンガの描くべきところだった、ということだ。

だが、物語は簡単に【終わって】くれない。
ユミルのようにミカサへの愛を捨てきれなかったエレンは、大樹となって文明が崩壊したあとも根を張り続ける。
その大樹を見つけた少年は、大樹の根をのぞき込むだろうか。
そこでまた、エレンの未練を知り、新しい物語を紡ぐのだろうか。

想いが受け継がれる円環する永遠の時間と、今を生きる私たちの生きる意味(価値)となる永遠の時間。
二つの永遠の時間は失われることがない。
これもまた、この物語にふさわしいエンディングか。


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
書き込みありがとうございます。 (menfith)
2021-06-19 18:13:13
管理人のmenfithです。

日々の仕事に追われて本来の自分を失いかけている今日この頃です。
映画館が再開されても、再会できるのはまだ先ですね。

>irohaさん
書き込みありがとうございます。
知識量はぜんぜんないので、恐縮してしまいます。

細かいところ……。
もうちょっと読み直してからですね。

とりあえず、近所で巨大な木を探して根っこに何かないか確認したいと思います。
返信する
面白いレビューでした! (iroha)
2021-06-17 19:04:56
更新楽しみにしてました。
menfithさんの視点や知識量で読むとどう感じるのかと。こうしてまとめられると、まさしく「壁」の世界だったのだなと。そのA面とB面を全てにおいて表現していたのですね。

レビューが100年間と、漫画のテーマに絞られているのがさすが面白かったです。
あ、でもそれ以外のめっちゃ細かいところも拾い上げてレビューしてくれても良いですよ笑!
アカウント登録してないので、ボタン押せなかったけど「続き希望」ボタンぽちっ
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