評価点:81点/2016年/アメリカ/88分
監督:フェデ・アルバレス
非常に秀逸なホラーらしいホラー。
アメリカ・デトロイト。
かつては興隆した街も、いまではすっかり人がいなくなってしまった。
よくニュースでも言われるように、自動車工場がなくなったいま閑散とした街となった。
その街で、三人組がセキュリティ会社のつてで空き巣を繰り返していた。
そしてまた新しい情報が入り、元軍人の盲目の老人が、30万ドルを隠し持っている、それを狙わないか、という話だった。
3人は周到に下見をしたうえで、午前2時に忍び込む。
仕事は楽に終わるはずだった。
しかし、この老人には秘密があった……。
前田有一の批評サイトに絶賛されていたので、気にはなっていた。
時間があったので、「ザ・コンサルタント」を見ようと思って映画館にいくとなんとほぼ満席。
仕方ないので、上映時間の短いこちらを観ることにした。
ほとんど前評判なしに、映画館にいった。
きっとこの映画は、ネタバレしてしまうと面白さは半減してしまうだろう。
それが幸いしたことで、私は88分間ずっと緊張した状態で過ごすことができた。
なかなかの閉鎖型ホラーである。
▼以下はネタバレあり▼
若者3人には同情の余地がないほど、自分勝手な理由で空き巣に入る。
相手は盲目の退役軍人(スティーヴン・ラング 「アバター」の将校役)。
一人で暮らしている。
交通事故で娘を亡くし、その賠償金が多額であることを知った3人は、「アメリカン・ドリーム」を目指して空き巣に入る。
周りは4ブロックがすでに廃墟となり、だれも住んでいない。
なぜなら、ここはあのデトロイト。
かつて自動車産業で賑わったあの街も、「ロボコップ」よろしく、荒廃した街になってしまった。
そら、トランプも怒るよ。
調子に乗っていたら、その退役軍人はとんでもない身体能力をもったおじいちゃんだった。
暗闇の中正確無比な追跡をしてくる、恐ろしい男だった。
触れ込みどおり、非常におもしろい。
一つは演出の妙だ。
88分という短い上映時間に、すべての「怖い演出」を盛り込んだ。
地下室での追跡劇が良い例だ。
相手は音だけで追跡が可能な元軍人。
こちらは光がなければ満足に進むこともできない。
ましてやここは、元軍人の家。
どんな構造になっているかも分からない。
高感度カメラによる暗闇の追跡劇は、劇中でも最も緊張感が高まるシークエンスの一つだ。
だが、このシークエンスも長くは続かない。
だからこそ、緊張感が持続する。
驚かせたり、音を使ったり、ガラスのヒビだったり、犬の鳴き声だったり。
さまざまな方法でこちらを驚かせてくる。
ホラーの演出としてはお手本のような映画だ。
そして、この映画を支えているのは、意外にもこちらの道徳心だ。
道徳心を利用することで、この映画はホラーとして成立している。
物語は、冒頭どうしようもなかった3人が、「助かってほしい」と価値観が逆転するところに大きな山場がある。
それは、退役軍人が、誘拐犯であり、地下室で娘を奪った金持ちの女性を監禁しているというところが分かるシークエンスだ。
これによって、この軍人が「むしろこいつが最悪だ」というふうに、一気にコペルニクス的転回を迎える。
鬼畜だったのは、3人(この時点では2人だが)のほうではなかったと気づかされるのだ。
3人の自分勝手な考えよりも、自分の娘を奪われたことを、加害者の女性を利用して取り戻そうとするそのゆがみに恐怖を覚える。
それは、私たちが道徳心という物語を背負って生きている(そういう価値観を持っている)ことに依拠している。
だからこそ、おもしろいし、怖いのだ。
もしこれが、退役軍人がやっていることが「大したことない」と感じてしまうような価値観だと、それほど怖いとは思えない。
老人が持つスポイトの演出とか、完全に私たちの、生理的な怖さをついてくる。
そして、物語が勧善懲悪になっているところも、また私たちの倫理観を利用した結末になっている。
独善的な理論を掲げた元軍人は、金を奪われることで懲らしめられる。
金を奪うことに成功し、カリフォルニアに逃れたロッキー(ジェーン・レヴィ)も、軍人が生きていることを知り、背筋が寒い思いをしながら生きることになる。
ここに勝者はいない。
この結末は、「悪いことはできない」という私たちの強力な倫理観に依拠しているのだ。
それだけではない。
アメリカのデトロイト、法では裁くことができない遺恨(遺族の無念)、ロッキーが追い込まれた貧困という事実、様々な時事的な要素も、また物語に引き込む。
それは私たちが失い始めている「大きな物語」をなぞるかのようだ。
それらの要素がそれとなく、そしてはっきりと描かれることで、空き巣の3人にしても、元軍人の強い執念も、「無理がない」と感じさせる説得力がある。
本当に、ホラーのお手本のような映画である。
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