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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

相棒 劇場版

2008-05-20 22:39:34 | 映画(あ)
評価点:48点/2008年/日本

監督:和泉聖治

ドラマの良さが完全にスポイルされている。

テレビ党に一人のキャスターが首をつられた状態で殺されているのが発見される。
その数日後、特命係の杉下右京(水谷豊)の元に、代議士の警護にあたるようにとの達しがあった。
その女性代議士・片山雛子(木村佳乃)は、右京と面識があり、
半ば何でも屋と化している右京に仕事が回されたのだ。
護衛中、何者かに襲われ、亀山薫(寺脇康文)の機転によって片山は助かる。
その現場に遺されていたメッセージと、キャスターの殺人現場に遺されていたものが、
共通していることに気づいた右京は、
これが連続殺人事件であることを知る。
そして、その被害者の共通点は、あるサイトで「死刑リスト」として挙げられていた者たちだった。

言わずもがな。テレビ朝日が誇る人気テレビシリーズの待望の映画化作品だ。
毎回チェックするというわけではないが、このシリーズはかねてより、結構好きだった。
社会的な要素を組み入れ、事件の発生と解決が、他の刑事物とは一線を画している。
凝った作り、というほどではないにしても、「お?」と思わせる工夫がされている。
水谷豊の奇天烈な演技のマイナス要素を差し引いても、十分面白いドラマシリーズだ。

その映画化ということなのだから、テレビ朝日の気合いの入れようは、すごい。
「徹子の部屋」やそのほか代表的なテレビ番組に番宣に走り、予告編もバンバン流れている。
しかも、その舞台となるのは東京ビッグシティマラソン。
これほどの話題作りは近年まれに見る熱の入れようだろう。

ということで、僕もその熱に乗っかってみたわけだ。
見る価値があるのかと言われれば、ない、と断言しておこう。

▼以下はネタバレあり▼

このサイト(ブログ)の愛読者ならば、僕が結構ミーハーであることは知っていよう。
これだけの話題作、また周りにもこのテレビシリーズが好きな人が多く、
周りに流されまくりの僕は、軽く期待しながら観に行くことになった。

だが、予想通り、期待を大きく裏切る結果となってしまった。

作品の中には、随所に面白い試み、テレビシリーズにもあった「らしさ」がちりばめられている。
だが、この監督、脚本家たちは、最も根本的なこの作品の良さを忘れてしまったらしい。
おそらく番宣に忙しかったことと、取らぬ狸の皮算用に走りすぎた為だろう。

僕がこのシリーズが好きなのは、
「人間性」をしっかり描こうとしているスタンスがかいま見ることができるからだ。
近年話題になっている社会的な問題を取り上げているだけならば、
映画館に足を運ぼうとは思わなかっただろう。
この「相棒」シリーズには、紋切り型の刑事ドラマではない、重さをはらんでいる。
それは「人間性」を描くことを忘れていないからだ。

この映画にはそれがまるっきりない。
もっとも酷いのは、犯人である木佐原芳信(西田敏行)の人間性だ。
彼の動機をさらっと整理しておく。

五年前彼の息子が紛争地域での活動中に現地の武装勢力に拘束され、
政府の努力なしに殺されてしまった。
マスコミは「自己責任」と彼をののしり、世論は彼の無謀な活動への批判一色になり、
そして殺されてしまったのだ。
政府がその人質事件に対し、何もせずに放置したこと、
マスコミが自己責任とののしり、問題の本質を伝えなかったことに対して、
木佐原は復讐することにする。
彼はガンにおかされ、余命半年と宣告されていた。
当時の政府高官が作成したSファイルなるものの存在を知った木佐原は、
その開示を求めて出来るだけ大きな事件を起こそうとたくらんだのだ。

彼の境遇には非常に大きなバックボーンがある。
もちろん、それは現実に起こった大学生人質事件のことに他ならない。
このあたりがいかにも「テレビ朝日」らしいところだが、
現実との整合性についてはここでは触れないでおこう。
少なくとも、犯人の木佐原には大きな悲しみをもつ背景がある。
それは、語弊のある言い方を敢えてするならば、物語としては非常に可能性を秘めた背景だ。
大きな事件を起こす動機として、僕たち観客を納得させるに足る背景だと言える。
だが、劇中ではそれがあまりにも描き切れていない。

たとえば、彼の動機に対して、彼の犯行方法は乖離しすぎている。
なぜ日本政府とマスコミに対しての抗議としての犯罪なのに、
これほど「捕まりにくい」方法を採用したのだろうか。
逮捕を意図的に遅らせるために用意した塩谷(柏原崇)の存在が解せない。
彼にも復讐したかったのは理解できるが、彼の犯行にし向ける必要性はまるでない。
それなら、彼と協力して反抗した、というように話を展開させるべきだった。

東京ビッグシティマラソンとの絡みも解せない。
もし本当に大きな話題にしたいなら、マスコミに対し、脅迫文を送るべきだ。
そのほうが話題になるし、木佐原の目的に沿うはずだ。
こっそり連続殺人に仕立て上げる必要性は全くない。
むしろ杉下が気づかなければ、犯行はきっと誰も連続殺人だとは思わなかっただろう。
そうなってしまうと、捕まることもないわけで、それだとSファイルの存在も永遠に
明るみになることもなくなってしまう。

さらに言えば、青酸カリや、拳銃、爆弾、チェスの知識など、不明瞭な点が多すぎる。
どこでどのように手に入れ、どのように犯行を練ったのか、わからない。
犯人らしさのようなものがないのだ。
確かに映画的に面白いが、それは必然性を伴わなければ、「事件」にならない。
ちょっと杜撰すぎやしないか。

東京ビッグシティマラソンを舞台にしながら、全くそのスケールの大きさを感じさせないのも驚きだ。
話の内容がすごく鬼気迫るはずなのに、全然危機感を共感できない。
それは映像的な説得力=リアリティだけの問題ではないだろう。
そもそもの展開が、ビッグシティマラソンに集約されるようなものではないからに他ならない。
エンターテイメントとしても楽しめる要素がない。

大風呂敷を広げたぶんだけ、マラソンや人質事件が余計に空虚に感じてしまう。
それは、予算や日本の映画という映画後進国であることは理由にはならない。
決定的に、致命的に、根本的に、映画というものを理解していないからだ。
あるいは、映画を撮る能力が著しく乏しいからだ。

話の内容自体は面白いだけに、残念でならない。
こんな安物の映画しか撮れないようだと日本映画は衰退していく一方だろう。

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