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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

ノー・マンズ・ランド(V)

2008-05-21 22:01:55 | 映画(な)
評価点:71点/2001年/ボスニア、ヘルツェゴビナ

監督:ダニス・タノヴィッチ

単純に、おもしろい。

ボスニアとセルビアとの紛争の中、お互いの最前線である中間地帯「ノー・マンズ・ランド」に
ボスニア兵のチキ(ブランコ・ジュリッチ)らが闇にまぎれて侵入した。
しかし待ち構えていたセルビア兵に銃撃を受け、塹壕に逃げた彼以外は倒されてしまった。
銃撃によってボスニア兵が全滅したかどうかを確認するため、
セルビア兵の新米、ニノ(レネ・ビトラヤツ)は上官とともにその中間地帯の塹壕に偵察に向かう。
死体を見つけた上官は、死体に地雷をしかけ、ボスニア兵が死体を動かそうとすると爆発するようにセットした。
それを見ていたチキは、銃を拾い、セルビア兵に向けて発砲、セルビア兵の上官を射殺し、ニノの自由を奪った。
しかし、その後死んだと思われていた、ボスニア兵ツェラ(フィリップ・ジョヴァゴヴッチ)が、目を覚まし、寝たまま動けないという状況に陥る。

戦争映画としてはまれなほど、面白くつくってある。
しかし重く、軽いエンターテイメントではない。
そのバランスがうまい。アカデミー賞を取るのは肯ける、いい映画だ。

▼以下はネタバレあり▼

この映画は、言うまでもなく、当時起こったボスニアの独立戦争を題材にしている。
収束した後は、めっきりメディアに取り上げられることもなくなってしまったが、
民族紛争のある種の典型を映し出した戦争だったといえる。
実際の背景を知らずにこの映画を観るとおそらく意味がわからないと思う。
出来たらそうした周辺状況を知った上で観るべきだろう。
僕は国際情勢の専門家ではないので、詳しいことはここではあえて取り上げないが、常識として知っておいてほしい。

戦争映画ということは知っていたものの、セルビアとボスニアとの紛争をモチーフにしているとは知らなかったので、映画としてはきちんと観られたと思う。
余計な予備知識は映画の楽しみを奪ってしまうからね。

先に述べたように「面白い」と感じたのは、戦争という状況にもかかわらず、結構滑稽な(本人にしてみれば切実だが)問題が題材だからだ。
爆弾を仕掛けていたとき、目が覚めるような予感はしていたが、ものすごい幼稚な仕掛けで問題が起こってしまう。
その後、砲弾を受けた時に起こる「どちらが先にはじめたか」という両軍の論争も子供のけんかのようだ。
しかしこの「子供のけんか」が肥大化し、複雑化したのが戦争であるから重い。
問題は単純で「遊び」に満ちている。
しかし、その問題はとてつもなく重く、大きい。
この映画の鋭さと面白さは、そうしたところにある。
とても狭い世界で、それは殆んどこの「ノー・マンズ・ランド」以外の舞台が、設定されないことでもわかる。
しかし、そこにいる人間たちには死活問題であり、切実なのだ。

この映画はあらゆる意味で、「戦争」の現実を教えてくれる。
先に述べたような両者の水掛け論や、何も出来ない国連、ただ「知る権利」を振りかざす記者たち、
両国間以外にしか通じない言語という皮肉。
そうした凝縮した人間関係や組織対立が非常に巧みに描かれている。
しかもこれみよがしに重たく演出するのではなく、どこか滑稽にそして皮肉を込めて描かれている。

結末に話を移そう。
結局、国連の爆弾処理班もお手上げでツェラは残され、しかも対立していたニノとチキは、銃を取り、殺されてしまう。
この結末は、戦争という問題の深さをあらわしたものだといえる。
つまり、どれだけ「人道的」立場を叫ぶ国連でも、結局は両軍とも「救えない」のだ。
ツェラに残された地雷は、「戦争」という問題そのものを暗示し、その残された問題は「死を待つよりほかない」ことを示す。

解決したと「勘違い」する記者は、ニュースの「需要」がなくなったため、その場から立ち去り問題の当事者である両者だけが残される。
中途半端なジャーナリズムでも彼らの問題を解決することは出来ないのである。

こうした「解除」できない「地雷」は世界にどれだけあるのだろう。
ただ「反戦」を掲げるだけでは全く意味がなく、ただ「正義」を掲げるだけでは悲劇だけを残す。
イラク戦争(果たして「戦争」であるのかも疑わしいが)で、アメリカやそのほかの国が掲げる旗は、「平和」への近道なのか。
この映画はそうした今までの論争に大きな一石を投じている気がした。

映画とは直接関係ないが「ウインド・トーカーズ」とのギャップがすさまじかった。

この映画は殆んど、というか全然、音楽(BGM)がない。
リアリティを出すためとドキュメントタッチにとるためだろう。
しかし下手なノン・フィクション映画よりもよっぽど面白い。

これを書いた時は、ボスニアでの紛争がホットな話題だった時だった。
今ではボスニアとヘルツェゴビナとの紛争について誰も語ろうとしない。
一応の解決を見たというのが国際世論の見方だろう。
しかし、本当にそれでいいのか。
こういう映画がレンタルショップに並んでいるということは、
この出来事を単なるニュースというイベントにしてしまわないために一役買っているのかもしれない。

(2003/04/21執筆)

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