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ネタバレ必至で読み解く主観的映画批評の日々!

シカゴ

2008-05-20 22:36:17 | 映画(さ)

評価点:93点/2002年/アメリカ

監督:ロブ・マーシャル

2002年アカデミー賞作品賞に輝いたミュージカル。

1920年代のシカゴ。
ロキシー(レニー・ゼルヴィガー)は憧れのまなざしで、クラブダンサーのヴェルマ(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)の最後の舞台を見ていた。
ヴェルマは、その舞台前に夫と寝ていた妹を射殺、刑務所に送られたのだ。
その1ヵ月後、不倫相手の裏切りに逆上したロキシーもまた殺人者となってしまう。
刑務所に行ってみると、なんと同じ殺人犯棟に憧れのヴェルマがいた。
ヴェルマは刑務所の看守たちと取引し虎視眈々と舞台ダンサー復活のシナリオを描いていた。
それをみたロキシーも彼女のようにダンサーになるため、悪徳弁護士のビリー(リチャード・ギア)に近づこうとする。

元来、僕はミュージカルというものがあまり好きではない。
ディズニー映画などを観ていると思うのだが、そのときの感情を突然歌にされてもとまどってしまう。
だから食わず嫌いに陥っていた。
それが「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を観てから、その嫌悪感や違和感はだいぶなくなって、
一種の感情表現や内的な心情の表出として捉えることができるようになった。

だからミュージカルものとしては殆んど初心者で、しかもこれが観始めてから2作目にあたるということになる。
「ダンサー・イン・ザ・ダーク」でかなりの先入観が剥がれ落ちたので本作は非常に期待して観に行った。

▼以下はネタバレあり▼

観て三十分ほどで、椅子に座っているのが苦痛になった。
こういう種類の苦痛は数回しか経験していない。
一番鮮烈に記憶しているのは「ジュラシック・パーク」だ。
座っていられないほどの興奮。
思わず自分も踊りたくなるほどの興奮。
オスカー像をとった理由が、体でわかったという感じだ。

僕がミュージカルが嫌いな理由の2つ目として、「物語の断絶」がある。
いちいち感情を歌1曲で表現するために、物語の展開上での断絶がおこり、曲のリズムがよくても、
ストーリーのテンポは恐ろしく悪くなってしまうように感じるのだ。
しかし本作はちがう。
徹底的に曲と場面が融合され、歌いながら、登場人物の感情を表しながら物語が進行していくのである。

オープニングで踊る「overture / all that jazz」とロキシーと家具のセールスマンとの情事~殺人という流れとが
完全にマッチングして展開する。
おかげで歌詞と台詞との字幕を交互に読んでいくハメに陥るが、短い間でロキシーとヴェルマのキャラクターと、それぞれの殺人が理解され、
さらにその上、ゼタ=ジョーンズのカッコよすぎるダンス・ショウが観られるのだ。
悦の絶頂と言うほかはない。

しかもそれぞれの映像とリズムがぴったりと息を合わせる。
これほどの興奮は、映画という表現媒体の可能性をみせつける。
ライブ・コンサートにいったときのような興奮と、映画のストーリー性ががっちりと握手しているのだ!

そしてこの映画のすばらしさはそうした表現技術だけではない。
「シカゴ」というタイトル通り、1920年代のシカゴという街が「主人公」なのだ。
日本語でいうならば「下克上」。
まさに「平家物語」や戦国時代の趣(おもむき)である。

主人公ロキシーは、浮き沈みの激しい状況におかれる。
殺人を犯したことから人生の底にいたり、そして監獄の中でヒロインになっていく。
しかし頻繁に繰り返される劇的な殺人事件が、彼女をヒロインから引きずりおろそうとする。
人気を得るために金と嘘を吐き出し、どんどん堕ちていく。
弁護士、ヴェルマ、マスコミ、夫、あらゆるものを利用しつくし、やがて判決を迎える。

あらかじめ2種類用意されている新聞が「無罪」という報せを伝えると街中は一気に加熱するとともに一気にさめる。
それまでヒロインであったロキシーは、いきなり見向きもされなくなってしまうのだ。
そしてまた刑務所上がりの2人がシカゴの街の話題を占拠する。
しかし観客(映画の観客と舞台の観客)の誰もが知っている。
「彼女たちの人気もすぐに廃れるだろう」ということに。

思いっきり華やかでセクシーな格好で舞台を飛び回るのも、
死刑囚がコミカルに描かれるのも、全てはこうしたシカゴという街の色を表している。
歌い手がどんどん変わっていくのにも象徴されている。
「舞台の主人公は常に変わる」のだ。

しかしこう考えたとき、明らかに1人、異質な作中人物がいることに気づかねばなるまい。
それは弁護士ビリー・フリンだ。
彼は常に「旬」な人間をおいかけ浮き沈みしない。
いわばトランプのジョーカー的な存在といえる。
だから彼がつくプレイヤーは必ず勝つのだ。手札がどれだけ弱くても。
まあ、個人的には浮き沈みした方が面白いとおもうのだが。

最高の出来だと称してもいいだろう。
キャスティングも最高にいいし、ボブ・フォッシーの振り付けも言うことなしだ。
でもこれ以上手の施しようがないかといわれると、それは素直には肯けない。

たとえば、ビリーやママ。彼らは少し「強すぎる」気がするし、夫は中途半端なキャラになってしまっている。
また、ロキシーが大金をどうやって手に入れたのかも疑問が残る
(どうでもいい要素といえばそうなのかもしれないが)。

でも許せてしまう。だって純粋に楽しめるんだもの。
ミュージカル嫌いな人も多いだろう。
この映画を本当に楽しめないそういう人は、かわいそうだな、と思う。

それにしても監獄に入れられている囚人の犯行動機が、ほとんど男と女のもつれであるのがおもしろい。
当時のシカゴが実際どうだったのかわからないが、僕の中ではそうとうむちゃくちゃなことになってます。

(2003/05/04執筆)

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