“いのち”の長さは誰が決めるの?
妻夫木聡×26人の子どもたちが考える“いのち”について。
この作品を観てが~んと一発パンチをくらった気がします。それだけ大事な問題定義を与えてくれた作品でした。生き物を飼うということを、どれだけの多くの人が真剣に考えて、そして責任を持って育てているのか?今や途中で育てることが出来ないと放○して、捨てられる動物がいます。飼うのなら、責任を持てよ!!なんてね。
さてこの映画は実際にあった実践教育を元に作られたお話です。「食育」や「いのちの授業」が叫ばれる前、総合学習時間もまだなかった1990年、大阪の小学校の新任教師がはじめた実践教育が、日本中に波紋を投じました。それは“ブタを飼って、飼育した後、自分たちで食べる”というものでした。「Pちゃん」と名づけられたブタは、32人の子どもたちに愛され、家畜ではなくクラスの仲間になっていきました。
食べるか、食べないか。2年半の飼育の後、子どもたちの卒業を控えて、Pちゃんの処遇を巡って大論争が展開されました。
テレビでの放送が多くの反響を呼んだ!賞も受賞。「可愛そうだ」、「それは教育ではない」という批判的な声も。しかしその一方、教師の情熱と子どもたちが自ら考えて真剣に事態と向き合う姿に心を打たれ、支持する人もいた。
その一人が、本作の監督・前田哲監督である。10年以上前に見たドキュメンタリーの感動を胸に秘め、動物や草木はもちろん、人間の命についても、改めて考えることが必要とされている今、この新任教師が挑んだ試みを多くの人に伝えたいと映画化に挑んだのである。
そんな経過があったのですね。いやほんまに凄いです。ドキュメンタリーは未見ですが。今回のこの作品もなかなかどうして、フィクションとは思えないくらいの感動でした。オーデションで選ばれた26人の子どもたちの真に迫る演技には正直驚きです。Pちゃんの世話に四苦八苦しながらも、手塩にかけて育てていきます。皆一致団結しながらのPちゃんの世話は、きっと大人じゃできないかもしれません。
そして妻夫木君演じる星先生も、子どもたちと一緒に悩みながらPちゃんの世話をします。
時々Pちゃんは逃げ出すことも・・・・。皆で探しまわります。やっと見つけたPちゃん、学校に連れて帰ります。いつも皆で協力しあいます。
Pちゃんの糞は結構くさいです。鼻をつまみながら掃除をします。食事の世話もしなければいけません。給食のおばさんから、残飯をもらいます。時にはそれぞれの家から食事の残りを持ってくることもあります。体も洗います。水をかけて洗います。Pちゃんの住む場所も、皆で作りました。
雨の日も風の日も、皆でPちゃんの世話をします。もうPちゃんは6年2組のクラスメイトでした。
26人の子どもたちに手渡された脚本は何と、セリフの部分が白紙で、結末も記されていないものでした。スタッフや大人のキャストには通常の脚本が配布されてました。つまり撮影現場には、「子どもの脚本」と 「大人の脚本」が存在していました。そして大人たちは余計な情報を与えないように注意深く接したそうです。
180日間の撮影期間、26人の子どもたちはモデルの32人のように、ブタを飼育しながら、「ブタ肉は食べるけど、Pちゃんは?」ということを力の限り考え、結末を知らないからこそ、自分たちの素の思いや考えをカメラにぶつけて答えを見つけようとしたのだ。そして26人の結論は出た。
「食べる13人、食べない13人」、真二つに別れた。そこから熱い議論が始まった白熱して大粒のを流し、つかみ合いのけんかをしたこともあった。撮影での演技は、子どもたちの授業体験となる。
春・夏・秋・冬と26人の子どもたちと星先生はPちゃんの世話を頑張ります。そしていよいよ子どもたちの卒業の日が近づいてきました。卒業後のPちゃんをどうするべきか?という選択に迫られます。再び皆で話し合いをすることになるのでした。
二つの選択肢が提案されます。
①下級生にPちゃんのお世話を引き継いでもらう。
②食○センターに送る。
再び激論となります。食べる、食べない、ということで話し合ったときのように皆真剣に考えます。
卒業式まであとわずか、なかなか結論はでません。投票することになりました。結果は下記のように別れました。
①下級生にPちゃんのお世話を引き継いでもらう。→13人
②食○センターに送る。→13人
また真二つに別れてしまったのです。
※実はPちゃんのお世話をしたい!と3年生のクラスが手をあげてくれていました。そこで3年生の子どもたちにも飼育の仕方を教えたんですが・・・・。想像以上に大変だと皆は感じたのです。
そこでまた議論をすることに・・・・・。
食○センターに送ると言った子どもたちは、その状況を見て任せるということは、難しいと考え、無責任なると思ったと。だからこの食○センターへ送るということがいいと判断した。
一方、下級生に任せてと思った子どもたちはPちゃんを大事に育ててきたのに、平気で処分できない、生きているのを見てしまったものは食べられない、他にも色々な思いで、生かしてあげたいという意見があった。
Pちゃんの今後という最後の議論は、教師は関係なく子どもたちで議論していたそうです。
素晴らしいことですね。Pちゃんのことを思う真剣さが、26人の子どもたちの心の中に、芽生えたんだと思いました。
そして、星先生はPちゃんの今後について、子どもたちから意見を促されました。星先生の一票がPちゃんの今後が決まるわけです。
悩みます。26人のこどもたちの気持ちにどう判断すべきか?他の先生たちに、意見を聞くことになりました。校長先生はこう言いました。「最終的には貴方が決めることです。貴方が始めたことは、貴方が責任を取るべきことです」と・・・・・。
そして星先生は皆の前で自分の意見を述べます。その結果とは?
撮影風景です。
それは、「自分たちは生き長らえるために、この命を食べていることをしっかり教えること」だと。星先生はその思いで意見を話します。
真ん中の方がこの原案者、黒田恭史さんです。右は前田哲監督、そして左は教師役初挑戦、妻夫木聡君
原作本は「豚のPちゃんと32人の小学生」、黒田恭史著
撮影現場
主役のPちゃんとなる豚は生後1ヶ月の幼ブタから、約120kgある10ヶ月の大ブタまで11頭が用意された。製作チームの中に調教担当の吉田信治さんを中心とした養豚部が結成された。メンバーはブタの体調が崩すなど万一の事態に備えて、用務員室に寝泊りし、縁起をかついで“ブタ○ち”をしながら、ブタとともに生活をしたそうだ。
子どもたちも当番を決めて世話をしたそうだ。廃校となった小学校を借りて子どもたち、キャスト、スタッフが毎日登校し、そして実際にブタを飼育した。作品に携わりながら全員が学びながら挑んだ本作。
子どもたちの痛いほどの真剣な瞳、言葉、そして強い思いは“いのち”、“食”、“教育”に改めて目を向ける今だからこそ、私たちの心を揺さぶるのだ。
久々に感動した作品でした。あえてブタという育てるのが困難な動物をしかも学校で飼育するという画期的な試みは、子どもたちに“いのち”がどれだけ尊いものだということを教えてもらったのですね。食べられてしまうPちゃんへの子どもたちの悲しみ、さぞ辛いだろうけど、やはり生きるためには食ということと直視しなければならないと26人の子どもたちは実感したに違いない。ブタはそのために存在するものだということも。