最近のぼくのヘヴィ・ローテーションの1枚が、前にも記事にしたことのある「コジカナツル3」。
その中でも、アルバムの最後に収められている「マイ・バック・ペイジズ」(註:「コジカナツル3」では『マイ・バック・ページ』と表記されています)には、とことん惚れ込んでいます。
この曲は、もともとはボブ・ディランの作品で、彼の4枚目のアルバム、「アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン」(1964年)に収録されています。
「あの時のぼくはずっと年寄りだった。今のぼくははあの時よりずっと若い」と歌っている曲です。とても抽象的かつ難解な歌詞で、自己批判的なものも含まれているようです。
ディランは、アコースティック・ギターだけをバックに、自分をさらけ出し、訴えかけるように歌っています。
ボブ・ディラン 「アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン」
原曲はトラッド・フォーク風の3拍子ですが、これを多少リハモナイズ(原曲のコード進行の再編)し、8ビートのゴスペル・ロック調にアレンジして演奏したのが、キース・ジャレットです。アルバム「サムホエア・ビフォー」(1968年)の1曲目に収められています。
コジカナツルの「マイ・バック・ペイジズ」は、このキース・ジャレット・ヴァージョンを踏襲しているようですが、キースが内省的に、ロマンティックに演奏しているのに対し、コジカナツルは、よりブルージーに、よりロック色を強めていて、外に向けて膨大な力を発しているかのような、実にエネルギッシュな演奏を展開しています。
キース・ジャレット・トリオ 「サムホエア・ビフォー」
■キース・ジャレット(pf)
■チャーリー・ヘイデン(b)
■ポール・モチアン(drs)
「コジカナツル3」のライナーによると、この曲は、アルバム・レコーディング2日目の最後に録音されたそうです。それまでの録音作業でかなり疲れていた状態での演奏だったようですが、そんなことを微塵も感じさせない、異様な熱気をはらんでいます。三人それぞれが、自分の持てるものをとにかく楽器に注ぎ込むことだけに集中しているかのような、凄まじい演奏です。ほとんど無我の境地に近いものがあるんじゃないかな。そんな気さえするのです。
イントロはベースの金澤英明によるルバートでのソロです。最初の一音から、ふくよかで、深みのある音色に心を揺さぶられます。テーマをモチーフにしたこのソロは、金澤氏の心象風景を見ているようでもあります。すでにもうこのへんで泣けそうになるもんなあ。素晴らしいです、金澤氏。
金澤 英明
インテンポになると、引き続きベースがテーマのメロディーを弾きます。そっと寄り添うように小島良喜のピアノがバックで鳴っている。そのままピアノがテーマを引き継ぐと、それを鶴谷智生のドラムが力強く盛り立てる。
小島氏のピアノ・ソロが、これまた素晴らしい。ブルージーで、パワフルで、しかもとってもメロディック。そのうえ、えも言われぬ優しさにあふれている。とにかく「愛」が一杯に詰まっているような、そんなソロなんです。
バックで支えるベースとドラムは、よりグルーヴィーに、より激しさを増してゆきます。揺るがぬビートで低音をしっかりと支えながらサウンド全体を包み込んでいる金澤氏のベース、燃え盛っている内面があふれ出して止まらないかのような鶴谷氏のドラム。
この三人が一体となって頂点を目指し、突き進んで行くのです。興奮しないワケがない。やんちゃだけれど骨っぽい、そんな三者の息の合った様子は爽快感にあふれ、感動的でさえあります。
「魂がこもっている」、というのは、こんな演奏のことを言うのでしょう。
「名演」と言われているものは数多くありますが、近年では、コジカナツルのこの演奏も文句なしの名演だと言えるのではないでしょうか。
ここ何ヶ月かのぼくの心は、この演奏を聴きたがってやまないのです。
◆マイ・バック・ペイジズ/My Back Pages
■発表
1964年
■作詞・作曲
ボブ・ディラン/Bob Dylan
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■演奏
コジカナツル
小島良喜 (piano)
金澤英明 (bass)
鶴谷智生 (drums)
■収録アルバム
コジカナツル3 (2005年)
■プロデュース
コジカナツル