私のふるさとは奈良の吉野。花の吉野山の方じゃない、吉野杉の吉野です。
深い深い緑の木々に囲まれた村です。家業も材木業で、弟が後を継ぎ、
木材不況の中ぎりぎりがんばっています。彼は息子に木偏に杉の字”彬”
という字を入れた名前をつけました。
これからの季節、嫌われ者のスギ花粉に囲まれて育ちましたが、当時は
花粉症の存在することさえ知りませんでした。
そのためか、杉にはいろいろな思い入れがありますが、杉にも色々
あるようです。日本の杉はJapanese Cedarと言います。檜はCypress。
これはヒマラヤ杉でしょうか。杉と言いつつもマツ科のようですが。
母の住む多摩プラーザの公園にある堂々とした大木です。
数年前、”天使が堕ちるとき”という英国の女流作家トレイシー・シュ
ヴァリエの小説を翻訳出版しました。”真珠の耳飾りの少女”の原作者
として知られている作家の作品です。約1世紀前の英国、女性の自立が
言われ始めた時代、その次代の狭間でもがき苦しみ非業の死を遂げる
ヒロインと希望に満ちた未来へ踏み出すその娘を描いた、ある意味歴史
小説です。様々な人の日記から成る構成で、舞台が墓地ということもあ
り、一見陰気な感じの地味な小説ですが、当時のロンドンの様子や人々
の生き様も知ることができ、興味深い読み物になっています。残念なが
ら、あまり売れませんでしたが。
その中にレバノン杉というのが出てきます。大仰で形式ばった墓地の
うちで、この大きなレバノン杉だけが本物に見えると、ヒロインが考え
る場面があります。この杉もヒマラヤスギと同じ仲間のようですが、今は
絶滅危惧種だそう。縄文杉などと同じく、その古さびた静かなたたずまい
が人々に畏敬の念を抱かせるのでしょうか。