キッチン・トランスレーターつれづれ日記

つれづれなるままに日々のよしなしごとを綴ります。本、風景や花や料理、愛犬の写真などをご紹介。

今年の最初の一冊

2012-01-13 11:18:01 | 
ゾマーさんのこと
ジャン・ジャック サンペ,Patrick Suskind,池内 紀
文藝春秋

      今年最初に読んだ小説は、パトリック・ジュースキントの『ゾマーさんのこと』

      ドイツ物から始まりました。ドイツ語をもう一度勉強して、原書で読んでみた

      いと思うようなすてきな文章の心にじわっと来るお話で、たくさんある挿絵

      がまたとてもすてきです。聞けばフランスでは知らない人のいないジャン・

      ジャック・サンペさんという大変有名な画家・漫画家さんの作だそうです。

      

      主人公は小学校に通い始めたばかりの"ぼく"。その淡々と叙情的に語られ

      る日常の描写がなんとも美しい。原作も良いのでしょうが、池内紀さんの訳

      もまた良いのでしょう。"ぼく"の何の変哲もない日常に、ゾマーさんが入り込

      んできます。ゾマーさんは"ぼく"の村に住み着き、一年365日ただひたすら歩

      きまわります。リュックを背負い長い杖をついたその姿は、朝と言わず夜と

      言わずあちこちで目撃されます。夜も寝ないで歩いているように見えます。

      歩くことが生きること、歩いていないと生きていられないのように。ゾマー

      さんの暮らしを支えていた奥さんが亡くなった少し後、"ぼく"はゾマーさん

      が湖へ入っていく姿を目撃します。助けに行くことだってできたかもしれな

      い。でも、"ぼく"はなぜか動けず、ただ見守り続けました。やがて帽子だけ

      を残してゾマーさんの姿は水の中に消えていきました。

      

      ただそれだけの話です。美しい自然描写や人々の日常の営みの描写、

      みずみずしい"ぼく"の心の動き、その中に一点黒いしみのようなゾマーさ

      んの姿。それも"ぼく"が大人になるのと時を同じくするように消えてしまい

      ます。子ども時代を象徴する幻だったのでしょうか。心に深い余韻の残る

      小説です。

香水―ある人殺しの物語 (文春文庫)
Patrick S¨uskind,池内 紀
文藝春秋


     作者のパトリック・ジュースキントはドイツの人気作家で、映画にもなったベス

     トセラー小説『Das Parfum 香水-ある人殺しの物語』が有名です。ゾマーさん

     とは全く違う奇想天外な怪奇的な物語です。まあゾマーさんも不気味と言えば

     不気味です。そこがジュースキントの特徴であり魅力なんですね。この物語では

     どんな匂いでもかぎ分けられるが、自分自身には全く匂いのない男が香水作り

     となり、至上の芳香を求めて美女を次々と殺していきます。なんとも奇妙な題材

     ですが、これが最後まで一気に読めるおもしろさ!このジュースキント(Sueskind:

     英語で言えばSweetchild)なんて言うかわいらしい名前の作家、絶対に表に出ず、

     南仏のどこかで頑なに存在を隠し続けているのだとか。興味をそそられます。
コメント
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