奈良公園、東大寺、興福寺の辺りはどの季節に訪れても、それぞれに魅力
的です。東大寺の参道や興福寺の五重塔の付近は、観光客と鹿たちでにぎ
わっていますが、一本わきの路地に入ると、すがすがしい静けさで、遥か
昔に時代をさかのぼったような気分になります。池の向こうに見える大仏
殿の屋根のなだらかな線がきれいです。
今回は手向山八幡宮から、東大寺二月堂を訪れました。ここは東大寺守護
のためのお宮です。御神紋が鳩だとかで向かい合った鳩の間がハートの形
になっています。絵馬もこの鳩のデザインで、ハートの部分が赤く塗られ
ていて、なかなかかわいい絵柄です。もちろん、ハートを強調し始めたの
は最近のことのようですが。
手向山八幡宮から少し行くと三月堂(法華堂)があります。大きな二月堂
に比べて規模が小さく、知名度はいま一つですが、東大寺建造物の中で一
蕃古いのだそうです。国宝の不空羂索観音(すばらしい!)が御本尊です。
どんな鳥や魚も捕まえる羂索を持ち、それですべての衆生を救いあげてく
ださる仏様だそうです。その他にも、国宝級の素晴らしい仏様が大勢いらっ
しゃいます。東大寺を訪れた際は必見のお堂です。
菊の香や奈良には古き仏たち 芭蕉
三月堂の横を少し上るとお水取りの行われる二月堂です。木組みが美しい。
二月堂から見る大仏殿の屋根、その向こうの奈良の町や山々の眺望は
いつ見てもすばらしいのですが、この日は抜けるような青空の下でさら
に感動的でした。
釣り灯籠の青銅色が建物の深い茶色に浮かんで古式ゆかしい美しさ。
二月堂から南西方向へ降りてきて、奈良公園へ出ると興福寺のこれも国宝、
五重塔に迎えられます。光明皇后が建立され、15世紀初めに再建されたそ
うです。それゆえ封建時代の手法も採り入れられているとか。そのせいか、
質実剛健なストイックな感じのする大塔です。
西のはずれに、三重塔があります。五重塔よりはだいぶ小ぶりですが、12世
紀の建立で、これも国宝です。
その近くに朱塗りの美しい南円堂があります。9世紀に最初に建てられ、今の
建物は4代目だそうですが、藤原冬嗣の建立になり、藤原氏の氏寺である
興福寺の建物の中で特別な意味を持つそうです。
青空に突き出たそれぞれの塔の九輪、その上の水煙がくっきりと美しく、
時のたつのを忘れ見上げていました。