みるみる会員が勤務校でベン・シャーンの「解放」の対話型鑑賞を行いました。
昨年の秋から「情報」の提供を行う実践について取り組んでいますが、今回の実践も情報を提供したものです。情報を提供するからこその深まりもみられます。じっくり読んでみてください。
対話型鑑賞 実践記録
ベン・シャーン『解放』2年2組
2013.4.24
★「作品名」「制作年」を提示
★最初に全員に発表させた
T1:それでは、今日の作品はこれです。この作品の中で何が起こっているでしょうか。ここから何を発見しますか?○○があります、○○に見えます、とか、○○がこうだからこうなんだと思います、とかでもいいです。今日は全員一回は発表してもらいたいので、順番に言ってみましょう。では順番にこちらから。
S1:人が3人います。
T2:人が3人、(指しながら)1,2,3人いますね。
S2:風が強く吹いている。
T3:風が強く吹いている、それはどういうところからそう感じましたか?
S2:ぶら下がって、飛ばされそうになっているから。
T4:この人物たちが何かにぶら下がっていて、吹き飛ばされていそうだから、風が強く吹いているということですか。
S3:右の人がこう飛ばされているから風が強いと感じる。
S4:後ろに建物が見えるけど、結構ぼろぼろになっている。
T5:(指しながら)ここに建物があるが、ぼろぼろになっている。
S5:後ろに白や青い色が、流れるようになっているので、風が強く吹いているように見える。
T6:人が飛ばされそうになっているからというのと、バックの色やタッチから風が強いと感じるということで、同じ風でも違うところに注目してくれました。
S6:後ろの建物がぼろぼろで斜めになっている。
T7:ただ、ぼろぼろじゃなくて斜めになっている。
S7:建物の上の方が壊れている。
S8:台風が来ている。
T8:ただの風じゃなくて、台風の風。台風の中で何をしているんでしょうね?
S9:晴れているけれど、風が強い。
T10:風は強いけれど、台風というほどでもないということ?
S10:なんか絵がおかしい。
T11:どこがおかしい?
S10:あっちの人はコートがこっちにたなびいて左に吹かれているのに、右の人は反対側に飛ばされている。
T12:なるほど、(指しながら)この人はこちらに動いているのに、こっちの人はこちらに傾いている。四方八方にここを中心に傾いている。それはどうしてなんだろう?
S11:人が何かにつかまっている。
T13:確かに。3人ともつかまっています。さっきからこの人物たちが何かにぶら下がっていたり、つかまっているといってくれましたが、他には何かありますか?
S12:地面に水たまりがある。
T14:地面というのは、ここですか?ここに水がたまっているように見える。
T13:下にぐしゃぐしゃになっているのは、あれはゴミに見える。
T15:じゃあ、ここにこんなにゴミがたまっているんですかね?
さあ、いろんなものが出てきましたが、そろそろ組み合わせて考えてみたらどう?あれとあれがどうなっているから…なんていう風にね。
S14:人の顔が白い。
T16:どの人のこと?3人の顔色のことを言ってくれました。とっても白い。拡大してみよう。(電子黒板の操作で、顔だけクローズアップした。わ~怖い、という声)
顔が確かに白いね。どんな表情だろう?
S15:何か、ぼ~っとしている。
T17:どんな気持ちなんでしょう?
ぶら下がっているとか、飛ばされそうって話が出ました。下に水があるかもしれない、建物が壊れている、こんなところでこの3人は何をしているんでしょう。他に何かありますか?
S16:後ろにがれきがある。
T18:さっき、ごみって言ってくれたこれのこと?これががれきということ?がれきってどんなものなんでしょうね?
S16:家が崩れた。
T19:ここの家が崩れたということですか?
S16:別のものも。
S20:だったら、この建物だけじゃなくて、立っていた建物が崩れたがれきということですか?がれきってわかりますか?東北大震災の時のニュースで見たり、つい、先日も中国の四川で大地震がありました。あの時の映像とか見ていたら、思い浮かぶかな。あんな風に建物がくずれたがれきがあったんじゃないか、ということですか。
S17:左の人物を拡大してください。
T21:はい。これですか?
S17:左の人が緑の人を助けに行こうとしているように見える。
S22:それはどこからそう見えますか。
S17:緑の人が、赤い棒から降りられなくなったから、この人が助けようとしている。
T23:なるほど。確かにここに赤い棒がありますね。高いですね。
S18:3人とも、ブランコみたいに、ぶら下がって、ブラブラして遊んでいる。
T24:なぜ遊んでいるように見える?
S18:なんとなく。
T25:こういうので遊んだことないですか?
(ない、ない、と口々に)
これね、私が小学生のころ、小学校とかにもあったんですよ。真ん中に棒が立っていて、鎖が5つくらいぶら下がっていてそれにつかまって、ビュンビュン回って遊ぶという「回旋塔」という、遊具がありました。もしかしてそんな風に遊んでいるのかもしれない?
最近、危ないからって撤去されて、どこの小学校にもないんだけど、昔はね、振り飛ばされるんじゃないかってつかまっているのがスリルがあって面白かったです。
S19:やっぱり赤い棒を中心にロープにみんながつかまって回っているように見える。
T29:始めに風が吹いているっていう意見があったけど、それじゃあ四方八方に風が吹いていておかしいっていう意見がありましたが、もしこの棒を中心に回っているのであれば、遠心力でこんな風に外側に飛ばされそうになっているのも説明がつくかもしれないね。
S20:水害があったみたい。
T30:それはどこからそう思うんですか?
S20:地面に水がたまっていて、ロープにつかまっている3人が水につからないようにロープに上って逃げているみたいに見えるから。
T31:この人たちは、水につからないように逃げているように見えるそうです。全員が意見を言ってくれたね。じゃあ、ちょっとまとめてみます。風が強く吹いている場所、家が傾いていて、ごみにも見える、がれきがたまっていて、赤い棒が一本立っていて、3人の人物が風に飛ばされていそうになっているのかもしれないし、遊具みたいなものにつかまって遊んでいるのかもしれなという意見が出ました。
さあ、この状況でいったい何が起こっているんでしょうかね?
ちょっと今日は特別に情報を与えます。この作品が描かれたのは1945年です。(黒板に書く)
建物や風景や人について言ってくれたけど、この人物を詳しく見てみましょうか。
どんな気持ちなんでしょうかね?ここはどこの国で、どういう状況なんでしょうか?今度は挙手して言ってみましょう。
さっき状況については、下に水があるから水害なんじゃない科とか、台風が来て、この人たちは救助されているんじゃないか、この人が困っているから助けにいこうとしているんじゃないか、とかありました。この人物、もっと詳しく見てみて想像してみよう。この人物は顔が白いという意見がありましたが、その他には?
最初、見たとき、みんな、え~って声をだしたけど、なんで?どういう印象を受けたの?
S20:3人が洋服を着ているから、アメリカか、ヨーロッパの方だと思う。
T32:洋服だから。日本人の私たちも洋服着ているけど?
S20:1945年で、戦後のそのころは日本は着物みたいなのを着ているから。
T33:描かれた年から考えてくれたんですね。他には?
S13:付け加えで、奥の建物はコンクリート製なので、日本ではない。
T34:なるほど。建物の素材に気が付いてくれたよ。コンクリート製だから日本じゃなくて西洋だろう、ということ。アジアなら、木や土や竹などで作られることが多いでしょうね。これは何の建物だったのかな?建物から国を想像してくれたね。他に発見したことはないですか?
S8:真ん中の人物の顔が疲れているように見える。
T35:疲れている以外に何か発見がある?
S18:おばあさんみたい。
T36:何歳くらいだと思う?
S5:10歳くらい
T37:10歳というと、子どもだけど、老婆のようになんだか疲れたように見える。じゃあ、どんな気持ちなんだろう?
S17:不思議なのは建物が斜めになっているのに、なぜ赤い棒は斜めじゃないんだろうか。
T38:なるほど、この建物は斜めに倒れかけていますね、なのに、赤い棒だけはまっすぐですね。垂直にまっすぐなものはこれ以外にないね。何もかもが、人物さえも斜めになっていますね。それだけでも異様な感じがするかな。どうしてだろう?何を表しているのかな。なぜ作者はこんな風に描いたのだろう?
S10:赤い棒の後ろにあるがれきは、何かの建物が壊された後だと思う。
T39:壊された(・・・)跡?何が壊されたんだろう?
S10:何か新しいものを作ろうとして、機械で壊したんだと思う。
T40:それを聞いて首をかしげているIさん。どうですか?
S20:後ろの建物の上の方が黒く焦げているから、爆弾が落とされたんだと思う。
T41:これが何によって壊されたのか。さっき、何か新しい建物を作るために更地にするために機械で壊した、という意見もありましたが、ここ黒いですね。これは、爆弾が落ちて破壊された、燃えた、ということでした。
S18:下のがれきは戦争でたぶん、そこに町があって、爆弾で壊されてがれきになった。
T42:なるほど。最初、水があるとか台風があったといっていたけど、このがれきやここのこと(建物の上の黒いところを指して)からこれは戦争で、ここにはたくさん家があったのに、爆撃を受けて壊されたあとなんじゃないか、ということでした。
もう一つ、情報を。これは1945年に描かれた、(黒板に書きながら)『解放』という題名がつけられた絵です。これを聞いて、思いついたことはないですか?
S18:その子供たち3人は植民地になっていて、それが植民地がなくなって解放されて、今は楽しく過ごしていますよみたいなことを表していると思う。
T42:じゃあ、やっぱりこの人たちは遊んでいる子供たちだということですか。植民地になっていたところが、解放、つまり戦争が終わったっていうことかな?それで、子どもたちが遊べるようになったといううことですか?、
S20:Kさんの意見に似ていて、戦争や植民地から解放されて喜びのあまりロープに飛び乗って遊んでいる。
T43:じゃあ、すごく喜んでいるのかな?この人たちは。
S20:はい。
S10: 戦争が終わって、ボロボロにされたけど、遊んでいる。
T44:ようやく戦争が終わってボロボロになったけど遊んでいる。じゃあ、解放ということは、戦争が終わって、すっかり平和になったんですか?これは平和になって、やったー!っていう絵なんですかね?細かいところまでよく見て。他にないですか?(しばし沈黙)
S17: 楽しく遊んでいるんなら、楽しい顔をするはずなのに、真ん中の人は楽しくなさそうなのはおかしいと思う。
T45: 楽しくなさそう、怖い、という声が聞こえたけど、いったいこの3人はどういう状況で何をしていて、どんな気持ちなんだろうか?
S24:周りの2人は戦争が終わって、やった~っていう感じだけど、真ん中の人は、まだ、戦争によって傷痕か何かあったんじゃないか。
T47:戦争によって何か傷を負っているかもしれない、何か傷があるかもしれない。どうしてこの人の表情は暗いんだろう。左の人は顔が見えないし、右の人は表情が読み取れないけど、真ん中の人の表情は正面でよく見えるよね。この人の表情から、なんだかそんなに喜んでないみたい、戦争で傷を負っているんじゃないか、っていうことなんだけど、どうしてなんだろう、H君がそれについて言ってくれました。
S18:たぶん緑色の人は、一応解放されたんだけど、また襲ってきたらどうしようとか、そういう不安がまだ少しあったりして、ちょっと顔が楽しそうじゃない。
T48:解放されたけど、もしかして、まだ、何か襲われるかもしれない、また戦争が起きるかもしれないと思って、やったー!って言う気持ちにはなれないということ、まだ不安な気持ちということですか。
S20:緑色の服の人は、戦争中に親が亡くなったりとかして、楽しいけど、なんか表情がつくろえないということになっているのではないか。
T49:戦争があった後だから、これは子どもだということで、親や大事な人が亡くなったかもしれない、だから解放されたからといって、すごく楽しい気持ちにはなれないかもしれない、ということですか。
S13:つかまっていたけど解放されて、故郷に戻ったけどそこがぼろぼろになっていて顔が喜べていない。
T50:どこか収容されていたけど、自由な身になって帰ってきたけどその故郷はボロボロになっていて、遊んでいても晴れた気持ちにはなれないということ?じゃあ、ここは彼らが住んでいたところということですか。
解放という題名と年号から、戦争が終わった年ということから考えてくれました。
T51:この建物ってなんだったんだろう?
S10:マンション。
T52:それはどこからそう思う?
S3:でっかいから。
T53:マンションというと学校や会社と違って、人が住んでいたっていうことだけど、これを見て何か気づくことはないですか?
S4:いろんな柄の色が組んである。
T54:いろんな柄の壁紙が貼ってある。マンションというと集合住宅だから、いろんな家族が一つの大きな建物のそれぞれの部屋に住んでいたということよね。だからここに色がいろいろ違う部屋があるっていうことは、それぞれに違う家族や人たちが住んでた、ということ。どうして中の壁紙が見えているんだろう?
S22:半分に割れているから。
T55:こっち側にあった、外側の壁が崩れてなくなっていて中がむき出しになっているんだね。ここには人がまだ住んでいるんでしょうか?
S19:住んでなさそう。
T56:どうして?
S19:こういうところでは住めそうにないから。
T57:そうですね。斜めになって壁がなかったら住めそうにないよね。ここに住んでいる人はどうしたんだろうね?どこに行ってしまったんだろうね?
T58:最後に言いたいという人はいませんか?
作者はいったいどんな気持ちで何を表現したかったのかな?何か発見があったら言ってもらえないかな?どうしてこういう作品を残したんでしょうか?
S20:戦争は終わっても、復興したりするのはすごく大変だし、人がたくさん亡くなるから、戦争は絶対にやっちゃいけないと伝えたかった。
T59:解放されて、こんな風に遊んでいるけれど、ここにあった建物はがれきになって、元の姿とは違うね、人もたくさん死んだかもしれないね、そういう戦争に対する抗議する気持ちを表したかったということを言ってくれました。
今、(黒板の年号と題名を指して)これから戦争に結び付ける意見がたくさんありましたが、決してそれだけじゃないかもしれない。最初に言ったことで、自分が気づいたことや考えたことなどもあれば、この後、ワークシートにしっかり書いてください。
途中、電子黒板で顔の部分をアップしたようですが、このように、ICTの活用は今後の美術教育には欠かせないアイテムになりそうだと感じています。教育環境の周辺整備も今後の課題になりそうです。
益田市立東陽中学校の房野さん、実践ご苦労様でした。私も情報を提供した際の根拠の確認や会話の積み上げがこれからの私たちの実践課題になるのではないかと感じています。よりよいファシリテートを目ざして、6月の研修会も頑張りましょう。
昨年の秋から「情報」の提供を行う実践について取り組んでいますが、今回の実践も情報を提供したものです。情報を提供するからこその深まりもみられます。じっくり読んでみてください。
対話型鑑賞 実践記録
ベン・シャーン『解放』2年2組
2013.4.24
★「作品名」「制作年」を提示
★最初に全員に発表させた
T1:それでは、今日の作品はこれです。この作品の中で何が起こっているでしょうか。ここから何を発見しますか?○○があります、○○に見えます、とか、○○がこうだからこうなんだと思います、とかでもいいです。今日は全員一回は発表してもらいたいので、順番に言ってみましょう。では順番にこちらから。
S1:人が3人います。
T2:人が3人、(指しながら)1,2,3人いますね。
S2:風が強く吹いている。
T3:風が強く吹いている、それはどういうところからそう感じましたか?
S2:ぶら下がって、飛ばされそうになっているから。
T4:この人物たちが何かにぶら下がっていて、吹き飛ばされていそうだから、風が強く吹いているということですか。
S3:右の人がこう飛ばされているから風が強いと感じる。
S4:後ろに建物が見えるけど、結構ぼろぼろになっている。
T5:(指しながら)ここに建物があるが、ぼろぼろになっている。
S5:後ろに白や青い色が、流れるようになっているので、風が強く吹いているように見える。
T6:人が飛ばされそうになっているからというのと、バックの色やタッチから風が強いと感じるということで、同じ風でも違うところに注目してくれました。
S6:後ろの建物がぼろぼろで斜めになっている。
T7:ただ、ぼろぼろじゃなくて斜めになっている。
S7:建物の上の方が壊れている。
S8:台風が来ている。
T8:ただの風じゃなくて、台風の風。台風の中で何をしているんでしょうね?
S9:晴れているけれど、風が強い。
T10:風は強いけれど、台風というほどでもないということ?
S10:なんか絵がおかしい。
T11:どこがおかしい?
S10:あっちの人はコートがこっちにたなびいて左に吹かれているのに、右の人は反対側に飛ばされている。
T12:なるほど、(指しながら)この人はこちらに動いているのに、こっちの人はこちらに傾いている。四方八方にここを中心に傾いている。それはどうしてなんだろう?
S11:人が何かにつかまっている。
T13:確かに。3人ともつかまっています。さっきからこの人物たちが何かにぶら下がっていたり、つかまっているといってくれましたが、他には何かありますか?
S12:地面に水たまりがある。
T14:地面というのは、ここですか?ここに水がたまっているように見える。
T13:下にぐしゃぐしゃになっているのは、あれはゴミに見える。
T15:じゃあ、ここにこんなにゴミがたまっているんですかね?
さあ、いろんなものが出てきましたが、そろそろ組み合わせて考えてみたらどう?あれとあれがどうなっているから…なんていう風にね。
S14:人の顔が白い。
T16:どの人のこと?3人の顔色のことを言ってくれました。とっても白い。拡大してみよう。(電子黒板の操作で、顔だけクローズアップした。わ~怖い、という声)
顔が確かに白いね。どんな表情だろう?
S15:何か、ぼ~っとしている。
T17:どんな気持ちなんでしょう?
ぶら下がっているとか、飛ばされそうって話が出ました。下に水があるかもしれない、建物が壊れている、こんなところでこの3人は何をしているんでしょう。他に何かありますか?
S16:後ろにがれきがある。
T18:さっき、ごみって言ってくれたこれのこと?これががれきということ?がれきってどんなものなんでしょうね?
S16:家が崩れた。
T19:ここの家が崩れたということですか?
S16:別のものも。
S20:だったら、この建物だけじゃなくて、立っていた建物が崩れたがれきということですか?がれきってわかりますか?東北大震災の時のニュースで見たり、つい、先日も中国の四川で大地震がありました。あの時の映像とか見ていたら、思い浮かぶかな。あんな風に建物がくずれたがれきがあったんじゃないか、ということですか。
S17:左の人物を拡大してください。
T21:はい。これですか?
S17:左の人が緑の人を助けに行こうとしているように見える。
S22:それはどこからそう見えますか。
S17:緑の人が、赤い棒から降りられなくなったから、この人が助けようとしている。
T23:なるほど。確かにここに赤い棒がありますね。高いですね。
S18:3人とも、ブランコみたいに、ぶら下がって、ブラブラして遊んでいる。
T24:なぜ遊んでいるように見える?
S18:なんとなく。
T25:こういうので遊んだことないですか?
(ない、ない、と口々に)
これね、私が小学生のころ、小学校とかにもあったんですよ。真ん中に棒が立っていて、鎖が5つくらいぶら下がっていてそれにつかまって、ビュンビュン回って遊ぶという「回旋塔」という、遊具がありました。もしかしてそんな風に遊んでいるのかもしれない?
最近、危ないからって撤去されて、どこの小学校にもないんだけど、昔はね、振り飛ばされるんじゃないかってつかまっているのがスリルがあって面白かったです。
S19:やっぱり赤い棒を中心にロープにみんながつかまって回っているように見える。
T29:始めに風が吹いているっていう意見があったけど、それじゃあ四方八方に風が吹いていておかしいっていう意見がありましたが、もしこの棒を中心に回っているのであれば、遠心力でこんな風に外側に飛ばされそうになっているのも説明がつくかもしれないね。
S20:水害があったみたい。
T30:それはどこからそう思うんですか?
S20:地面に水がたまっていて、ロープにつかまっている3人が水につからないようにロープに上って逃げているみたいに見えるから。
T31:この人たちは、水につからないように逃げているように見えるそうです。全員が意見を言ってくれたね。じゃあ、ちょっとまとめてみます。風が強く吹いている場所、家が傾いていて、ごみにも見える、がれきがたまっていて、赤い棒が一本立っていて、3人の人物が風に飛ばされていそうになっているのかもしれないし、遊具みたいなものにつかまって遊んでいるのかもしれなという意見が出ました。
さあ、この状況でいったい何が起こっているんでしょうかね?
ちょっと今日は特別に情報を与えます。この作品が描かれたのは1945年です。(黒板に書く)
建物や風景や人について言ってくれたけど、この人物を詳しく見てみましょうか。
どんな気持ちなんでしょうかね?ここはどこの国で、どういう状況なんでしょうか?今度は挙手して言ってみましょう。
さっき状況については、下に水があるから水害なんじゃない科とか、台風が来て、この人たちは救助されているんじゃないか、この人が困っているから助けにいこうとしているんじゃないか、とかありました。この人物、もっと詳しく見てみて想像してみよう。この人物は顔が白いという意見がありましたが、その他には?
最初、見たとき、みんな、え~って声をだしたけど、なんで?どういう印象を受けたの?
S20:3人が洋服を着ているから、アメリカか、ヨーロッパの方だと思う。
T32:洋服だから。日本人の私たちも洋服着ているけど?
S20:1945年で、戦後のそのころは日本は着物みたいなのを着ているから。
T33:描かれた年から考えてくれたんですね。他には?
S13:付け加えで、奥の建物はコンクリート製なので、日本ではない。
T34:なるほど。建物の素材に気が付いてくれたよ。コンクリート製だから日本じゃなくて西洋だろう、ということ。アジアなら、木や土や竹などで作られることが多いでしょうね。これは何の建物だったのかな?建物から国を想像してくれたね。他に発見したことはないですか?
S8:真ん中の人物の顔が疲れているように見える。
T35:疲れている以外に何か発見がある?
S18:おばあさんみたい。
T36:何歳くらいだと思う?
S5:10歳くらい
T37:10歳というと、子どもだけど、老婆のようになんだか疲れたように見える。じゃあ、どんな気持ちなんだろう?
S17:不思議なのは建物が斜めになっているのに、なぜ赤い棒は斜めじゃないんだろうか。
T38:なるほど、この建物は斜めに倒れかけていますね、なのに、赤い棒だけはまっすぐですね。垂直にまっすぐなものはこれ以外にないね。何もかもが、人物さえも斜めになっていますね。それだけでも異様な感じがするかな。どうしてだろう?何を表しているのかな。なぜ作者はこんな風に描いたのだろう?
S10:赤い棒の後ろにあるがれきは、何かの建物が壊された後だと思う。
T39:壊された(・・・)跡?何が壊されたんだろう?
S10:何か新しいものを作ろうとして、機械で壊したんだと思う。
T40:それを聞いて首をかしげているIさん。どうですか?
S20:後ろの建物の上の方が黒く焦げているから、爆弾が落とされたんだと思う。
T41:これが何によって壊されたのか。さっき、何か新しい建物を作るために更地にするために機械で壊した、という意見もありましたが、ここ黒いですね。これは、爆弾が落ちて破壊された、燃えた、ということでした。
S18:下のがれきは戦争でたぶん、そこに町があって、爆弾で壊されてがれきになった。
T42:なるほど。最初、水があるとか台風があったといっていたけど、このがれきやここのこと(建物の上の黒いところを指して)からこれは戦争で、ここにはたくさん家があったのに、爆撃を受けて壊されたあとなんじゃないか、ということでした。
もう一つ、情報を。これは1945年に描かれた、(黒板に書きながら)『解放』という題名がつけられた絵です。これを聞いて、思いついたことはないですか?
S18:その子供たち3人は植民地になっていて、それが植民地がなくなって解放されて、今は楽しく過ごしていますよみたいなことを表していると思う。
T42:じゃあ、やっぱりこの人たちは遊んでいる子供たちだということですか。植民地になっていたところが、解放、つまり戦争が終わったっていうことかな?それで、子どもたちが遊べるようになったといううことですか?、
S20:Kさんの意見に似ていて、戦争や植民地から解放されて喜びのあまりロープに飛び乗って遊んでいる。
T43:じゃあ、すごく喜んでいるのかな?この人たちは。
S20:はい。
S10: 戦争が終わって、ボロボロにされたけど、遊んでいる。
T44:ようやく戦争が終わってボロボロになったけど遊んでいる。じゃあ、解放ということは、戦争が終わって、すっかり平和になったんですか?これは平和になって、やったー!っていう絵なんですかね?細かいところまでよく見て。他にないですか?(しばし沈黙)
S17: 楽しく遊んでいるんなら、楽しい顔をするはずなのに、真ん中の人は楽しくなさそうなのはおかしいと思う。
T45: 楽しくなさそう、怖い、という声が聞こえたけど、いったいこの3人はどういう状況で何をしていて、どんな気持ちなんだろうか?
S24:周りの2人は戦争が終わって、やった~っていう感じだけど、真ん中の人は、まだ、戦争によって傷痕か何かあったんじゃないか。
T47:戦争によって何か傷を負っているかもしれない、何か傷があるかもしれない。どうしてこの人の表情は暗いんだろう。左の人は顔が見えないし、右の人は表情が読み取れないけど、真ん中の人の表情は正面でよく見えるよね。この人の表情から、なんだかそんなに喜んでないみたい、戦争で傷を負っているんじゃないか、っていうことなんだけど、どうしてなんだろう、H君がそれについて言ってくれました。
S18:たぶん緑色の人は、一応解放されたんだけど、また襲ってきたらどうしようとか、そういう不安がまだ少しあったりして、ちょっと顔が楽しそうじゃない。
T48:解放されたけど、もしかして、まだ、何か襲われるかもしれない、また戦争が起きるかもしれないと思って、やったー!って言う気持ちにはなれないということ、まだ不安な気持ちということですか。
S20:緑色の服の人は、戦争中に親が亡くなったりとかして、楽しいけど、なんか表情がつくろえないということになっているのではないか。
T49:戦争があった後だから、これは子どもだということで、親や大事な人が亡くなったかもしれない、だから解放されたからといって、すごく楽しい気持ちにはなれないかもしれない、ということですか。
S13:つかまっていたけど解放されて、故郷に戻ったけどそこがぼろぼろになっていて顔が喜べていない。
T50:どこか収容されていたけど、自由な身になって帰ってきたけどその故郷はボロボロになっていて、遊んでいても晴れた気持ちにはなれないということ?じゃあ、ここは彼らが住んでいたところということですか。
解放という題名と年号から、戦争が終わった年ということから考えてくれました。
T51:この建物ってなんだったんだろう?
S10:マンション。
T52:それはどこからそう思う?
S3:でっかいから。
T53:マンションというと学校や会社と違って、人が住んでいたっていうことだけど、これを見て何か気づくことはないですか?
S4:いろんな柄の色が組んである。
T54:いろんな柄の壁紙が貼ってある。マンションというと集合住宅だから、いろんな家族が一つの大きな建物のそれぞれの部屋に住んでいたということよね。だからここに色がいろいろ違う部屋があるっていうことは、それぞれに違う家族や人たちが住んでた、ということ。どうして中の壁紙が見えているんだろう?
S22:半分に割れているから。
T55:こっち側にあった、外側の壁が崩れてなくなっていて中がむき出しになっているんだね。ここには人がまだ住んでいるんでしょうか?
S19:住んでなさそう。
T56:どうして?
S19:こういうところでは住めそうにないから。
T57:そうですね。斜めになって壁がなかったら住めそうにないよね。ここに住んでいる人はどうしたんだろうね?どこに行ってしまったんだろうね?
T58:最後に言いたいという人はいませんか?
作者はいったいどんな気持ちで何を表現したかったのかな?何か発見があったら言ってもらえないかな?どうしてこういう作品を残したんでしょうか?
S20:戦争は終わっても、復興したりするのはすごく大変だし、人がたくさん亡くなるから、戦争は絶対にやっちゃいけないと伝えたかった。
T59:解放されて、こんな風に遊んでいるけれど、ここにあった建物はがれきになって、元の姿とは違うね、人もたくさん死んだかもしれないね、そういう戦争に対する抗議する気持ちを表したかったということを言ってくれました。
今、(黒板の年号と題名を指して)これから戦争に結び付ける意見がたくさんありましたが、決してそれだけじゃないかもしれない。最初に言ったことで、自分が気づいたことや考えたことなどもあれば、この後、ワークシートにしっかり書いてください。
途中、電子黒板で顔の部分をアップしたようですが、このように、ICTの活用は今後の美術教育には欠かせないアイテムになりそうだと感じています。教育環境の周辺整備も今後の課題になりそうです。
益田市立東陽中学校の房野さん、実践ご苦労様でした。私も情報を提供した際の根拠の確認や会話の積み上げがこれからの私たちの実践課題になるのではないかと感じています。よりよいファシリテートを目ざして、6月の研修会も頑張りましょう。