みるみるの会8月例会 海とあそぶアート展
美術館HP https://www.hamada-kodomo-art.com/
日時:2024年8月18日(日)11:00~11:30
場所:浜田市世界こども美術館
作品:「ウミプラウミプラプラ」 小山一馬 2024
参加者:来館者1名 みるみる会員3名 美術館関係者1名
ファシリテーター:津室和彦
はじめに
盆近くの日曜日で,同じ展覧会の前回7月例会よりも多くの来館者で賑わっていました。また,美術館が用意しているワークシートを手に,家族で真剣に解答している人も多く,「絵をみてお話ししませんか。」と声をかけるのもためらわれるような状況でした。
前回も参加された男性1名と会員3名,石見美術館の学芸員1名の計5名の鑑賞者で,小さく集まって鑑賞を開始しました。
縦40cm横30cm程度の小さな作品のため,それぞれが腰を屈めて近づいて見る時間を少し長めに取りました。
1 鑑賞者の主な発言とファシリテーターの発言(〇=鑑賞者 F:ファシリテーター)
◆小さいからこそ 惹きつける
〇貼ってあるものが全部ちっちゃい。
〇縦・横きれいに並んでいる。
〇ひとつひとつの小ささと,作品全体としての小ささも気になる。
〇具体的な形があるものとわからないものがある。
〇プラスチックのものばかり。
F:タイトルには「ウミプラウミプラプラ」とついていますが,全部プラスチックなのでしょうか・・。
◆小さいことの意味は?素材はゴミなのか?
F:海で見つけたちっちゃなプラスチックを使った作品だということですが,そのことから考えられることは?
〇作家が自ら海岸で拾ったものを素材としている。
〇分解されにくいプラスチックごみ,環境問題というキーワードがあった。
〇鮮やかな色は,もともとの色か?脱色したものに着色したものか?風化したものをそのままにしてあるものもある。
〇プラスチックは2億年後くらいまで残るという話を聞いたことがある。警鐘を鳴らす意味があるのでは。
〇小さい素材から,マイクロプラスチックの問題を考えてしまう。作品も小さい。
〇小さいから生き物の口にもはいるし,浜の砂の中にも混じりやすい。
〇この作品に使われている素材をすべて集めても,手のひらに乗るくらいの量だろうけど,浜にはいくらでもあると考えられる。
〇1つだけ人間の形をしているものがある。そのことで,プラスチックごみを人間が作り出している,われわれ人類の行いと関連があるものだという見方に,自然となる。
〇ストローの断片や薬のPTP(プレス・スルー・パック)シートなど,人の営みによって生まれたものだ。
F:色鮮やかだが自然のものじゃないし,自然に還りにくい。そのことを感じさせるために着彩もしたかもしれない。身近なものでもあるが,自然の中ではマイクロプラスチックという害のあるものになってしまう。
F:(プラスチックを)放出してしまったとかするべきでないのにしてしまったとかいう発言がありましたが,じゃあこの作品はよくないもの,よくないことを表しているのでしょうか?
※ブース全体が,海洋ゴミを用いた作品で構成されていることから,環境問題を意識した作品なのではないかという前提めいた感覚は,鑑賞者が皆抱いていたかもしれません。細かくみていくことで,鮮やかなものと色褪せたもの,小さな人型,ひとつだけの貝など,小さいことや海洋ゴミについての様々な見解が語られました。
◆小さいものを並べていることに意味がある
〇ぱっと見,すごくきれいだなと思った。
〇ちっちゃく,かわいらしく,ポップ。ポストカードや待ち受けや装飾にも使えそう。
〇楽しかったり視覚的にきれいだったりしたものを集めるなら,全部カラフルなものにする気がする。色褪せたものがあることで画面的にもメリハリが出る。すべてがカラフルな色で表現されていないことに意味があるのかも。
F:色褪せたものと鮮やかなものが混在していることの意味は?
〇鮮やかなものは新しいもの,色あせているものは古いものと連想するので,時間の流れを感じる。
F:環境問題は置いといて,ひとつの作品としてみたときに感じられることとか考えられることはないですか。
〇ごみと思われるようなものを再構成するという表現は20世紀のいろいろなジャンルに見られる。プラスチックの出現時期を考えると,ここ数十年の比較的新しい表現。 ただ表現の仕方としては,博物学的に並べるというのは古い方法を踏襲している。 自然界で2億年残るという話もあるが,それほどもたずに違う形で分解され,また新しい環境がでてくるかもしれない。
F:ちょっと前の時間,ずっとこの先の時間も考えさせられるのですね。
〇小さな,同じようなサイズ感の中に人型のものがあるということは,人間といろんなものが共存しているような世界にも感じる。人間が環境に影響を与えているということを訴えるならば,人間(人型)だけ大きくし真ん中に置くことも考えられる。翻って環境問題とは別の見方もあるかなと思う。
F:やっぱり環境問題がありそうだけれど,それだけではなく,プラスチックは人間が創り出したもので,中でもまだ歴史が浅いものではないか。ずっと残るものかもしれないし,そうではないかもしれないとか。人と,人間が創り出した人工物であるプラスチックとの関りについて,考えられたかと思います。
2 会員等4名との振り返り
F:環境問題的な話にはなるだろうけれど,それだけに終わらないよう,話題を展開していきたいと考えていた。浜辺にはたくさんのゴミ,とりわけプラスチック類が多く,人間の営為が自然に影響を与えているという現代的な問題については,意見が出ると予想していた。そのうえで,プラスチックという素材の特性,並べ方,拾ったものならではの風合いなど,この作品ならではの意味や価値について話し合えるようにしていこうという構想だった。
〇作品の「小ささ」について
・海洋ゴミというと,ポリタンクや家電品のような大きなものを連想したが,作中のプラスチックをすべて合わせても,掌に載るような小ささだった。
〇ゴミを素材としていることや環境問題の視点について
・小さいから捨てていい訳ではない,小さいからこそ訴えるものがあるのではないか。
・次代を担う子どもたちが目にする作品なので,作品から問題点を感じ取って欲しいのではないか。
・そもそも海の漂着物ばかりの鑑賞空間なので,漂着ゴミの文脈から離れるのはむずかしい環境だった。
〇1つの作品として見ることの大切さ
・「色・形・質感」などの造形要素にもっと着目した鑑賞ができるようにファシリテーターの意図的な整理が必要であった。
・「きれい」「並べられている」というような発言を捉えて,造形要素や表現に関する話し合いに移行していくようなファシリテーションができたのではないか。
・「色についてはいかがですか」という問いは投げかけたが,・・・・
3 おわりに
「海とあそぶアート展」という展覧会のコンセプトからも,海洋ゴミという困りごとについての話し合いにはなると予想していました。しかし,作品は,見たところ身近で楽しいものであるし,海で拾い集めたものを作品に仕立てるという作家独自の行動や発想,個性を強く感じてもいました。これら相反したり関連したりするコンセプトや感覚を,鑑賞者から引き出し,多様な考えを交流する場になればと思いながらファシリテーションを進めました。
構成要素が多い(細かくて多数の素材の集合体)作品ではありますが,ミクロとマクロの視点でみることで,様々な考えが語られたと思います。
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