ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

今朝の弥山さん 遠くに見える山が雲出ずる国のシンボル的な山である

2013-01-16 23:01:50 | 対話型鑑賞
今朝の弥山さん

昨日は中学3年生を対象に対話型鑑賞を行いました。学期に1回以上は実施したいと考えているので、3年生は受験を控えていることもあり、気忙しくなる前に行いたいと思い、3学期早々のタイミングで行うことにしました。

見せた作品は、明治学院大学教授の山下裕二先生が薦めてくださった、雪舟の「慧可断ぴ図」です。この断ぴの「ぴ」の字がなかなか変換できなくて困ります。ひらがなでご容赦ください。

この作品は、3年生くらいになると、墨で描かれている、いわゆる水墨画ではないかという推測が立ち、そうなると時代は鎌倉とか室町だろうということになります。社会科の学習の成果です。こうゆう教科の学習が活かされるのもこの対話型鑑賞の優れたところだと思います。美術で制作は苦手という生徒でも、社会科が得意だと、認められる場面が出てきます。扱う作品によっては、理科の学習が活かされることもあるので、このスタイルの鑑賞が好きだという生徒は多いです。

で、描かれている人物は、日本人らしくないという見方をします。特に、白い服の男(達磨大師ですが、生徒はそんなことは知りません)は肌の色や髭や眉毛が濃いことから「インド人」とか「イスラム系の人」とか言います。着ている衣装から「インド人」と言う生徒が多いのですが、これって、ビンゴです。生徒ってすごいですよね。そしてまた、それを気付かせる雪舟の画力もすごいものです。

そしてもう一人の人物については、日本人か、そこら辺の人、中国人?と言った意見になります。着ている服がお坊さんのようなので、仏教に関係ある人だと言います。これもビンゴですね。実は慧可ですが、生徒は、慧可と言う人物も知らないでしょう・・・。

ここで肝心なのが、この慧可の左手に見える手が、ちょん切れている(切断されている)ことに気付くことです。しっかり見ないと気付きませんが、しっかり見るように言うと、1人くらいは気付きます。で、発言してくれると、驚きとともに、「なぜ???」という「はてな」マークが大半の生徒の頭に浮かびます。で、どうしてなのかの意味を必死で考えます。必死でつじつまの合う解釈をしようとします。そこがすごいです。

そうして生徒が導き出す解釈は様々ですが、白い服のインド人にお坊さんの格好をした男の人が自分のちぎれた手をくっつけてもらおうと頼みに来たところだとか、白い服の男の人の手が無くて、お坊さんが探してきたところだとか、そんな解釈をします。でも、中には、「自分で自分の手を切った!!」と考える生徒も出てきます。この生徒、どうしてそう考えたのか、理由を書いていないので、聞いてみる必要があります。しかし、絵を見ただけで、「慧可断ぴ」の事実に迫っていくことができるのでしょうか?これが、本当に不思議であるし、でも、すぐれた作品の優れたるゆえんなのかとも思います。

1時間(50分)の授業で、語りつくすことはできないですし、評価をするとなると、生徒個人に記述させることも必要になってきます。残りの時間を見ながら、記述に要する時間を確保するために、話題が盛り上がってきたところで、対話型鑑賞を打ち切り、見えている絵の描かれているこの場面でいったい何が起きているのかについて各自の解釈を記述させます。この記述の時間はすごいですよ。生徒はものも言わず、必死でシャーペンを走らせます。メッチャ、静かで、シャーペンのカタカタ、コツコツといった音だけが美術室に響きます。静寂の中で、脳が必死に稼働しているのが伝わってくるようです。

解釈を書いた後に、鑑賞授業の感想を書いてもらいますが、「脳が疲れた」と書く生徒がいます。「久々に頭を使った」と言う生徒もいます。そして「みんなの話していることを聞いて、自分の考えをまとめることができた」とか「人の話を聞くことは大事だと思う。友達の言っていることを聞いて、自分も自分の考えをまとめることができた」などと書きます。これが、対話型鑑賞の重要なポイントです。前回も書きましたが、一人では考えもつかないような考えに、仲間がいることで至ることができるのです。そして、不思議なことに、生徒一人一人の解釈は似ているようで異なります。そこもまた、大切なところだと私は思っています。この活動を通す中で、一人一人の考えの違いを認めることができ、また、違いの大切さや、違いに気づくことにも意味があると思っています。

対話型鑑賞は作品を鑑賞し、仲間の意見を聞きながら、生徒一人一人が自分なりに作品を読み取る(解釈する)ことで、作品について考え続けることのできる素晴らしい活動だと思います。

昨日の生徒の感想の中に、「この絵に秘められた意味があるはずで、そのことについて知りたい!!」と書かれているものがありました。このように作品に対する強い思いを持たせることのできる鑑賞活動は、これを置いて他にはないと私は思っています。生徒の知的好奇心や欲求を掻き立てる優れた教育活動だと思います。
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