ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

3年生で実践した松本竣介の「立てる像」の生徒の解釈と感想をお届けします!!

2016-01-28 17:04:57 | 対話型鑑賞


ひとりで実践をするので、鑑賞風景を画像に残すことができません。すみません。

2学期末に松本竣介の「立てる像」を3年生で鑑賞しました。その時の生徒の「解釈」と「感想」をお伝えします。

解釈
この絵の背景の地面は茶色や黒のくすんだ色をしていて、空襲か空襲による火事で焼けただれてしまったんだと思います。建物(背景の)も無残に壊れていて元の形もいまいちよく分からないような状態になっています。
建物をあそこまで破壊することができるのは空襲の他には無いと思いました。そんなところから戦争中の様子を描いたものだと考えました。背景の空は灰色で雲も多いので、曇り空なんだろうなと思いました。空の色が灰色だということで絵の雰囲気も少しどんよりとした感じになっていると思います。もし、空が青空だったらもう少し晴れやかな雰囲気になっていると思います。空がどんよりした灰色だから立っている少年の雰囲気もどこか物悲しそうな雰囲気になっていると思います。この絵をみて、主人公?の少年の様子が寂しそうだけれど単に寂しいだけなら、もっとうつむいたり座り込んだりしてもいいのに、この絵の少年はまっすぐに地面に立っています。
戦争でいろんなものを失って(辺り一面焼け野原だから、住んでいた家も焼けてしまったのかも?)「悲しい」という感情もたしかにあると思うけれど(顔の色が全体に暗いところから)、一方で焼け野原で立ち上がって、これから頑張って生きていこうとする意志もこの絵から感じられました。
表情は遠くを見る感じに辺り一面の焼け野原を見渡してボーゼンとした感じになっています。でも、口元は引き締まっているので、どんなことにも耐えて、のたうちまわってでも生き抜いてやるという決心も表情にあらわれていると思います。
この絵は背景に無残な建物の残骸があることと、どこか悲しそうだけれど何かを決心したような表情から戦争の悲惨さと、そこからはい上がって生きてやるという意思があらわれているのではないかと考えました。(女子)

先生の言われたことや周りの意見をきいて、この作品は戦争の時の絵だと思いました。まわりが茶色や黒とかで描かれているので、焼け野原だと思ったからです。(金ボタンを付けて黒い服を着ていたので学ランだから若い男)。少年は左手でにぎりこぶしをつくっていたので戦争にいけなくてくやしいという気持ちもあったと思います。でも、左手はこぶしをつくっていなくて手の力がぬけているかんじだったので戦争が終わって安心しているのかなと思いました。少年の顔がまゆげが逆ハの字になっていて口が引き締まっていて色が暗い感じの色になっていたので悲しいことやつらいこと(絶望している)があったのかなと思いました。
少年は斜め上を向いていて、目が上の方をむいていたから遠くをみていると思います。この少年の目線の先にはたぶん背景と同じような感じになってしまった自分の町があるのかなと思いました。これらのことから自分の町を守れなかった悔しさと戦争が終わって安心していることが分かると思います。
この作者は戦争で大切なものをたくさんなくしてきたと思います。だから戦時中に早くこの戦いが終わってほしいと思って、この絵をかいたと思います。上記に少年の目線は自分の町と書きましたが、それだけではなく、これからのことに希望をいだいているというのもあると思います。この絵は絶望の中にも希望があるということが伝えたいのかなあと思いました。(女子)

戦争の時代だと思った。全体的に黒に近い色であったり、どんよりした感じがしたので戦争の時代だと思った。この男の人は作業服を着ているので、たぶん私たちと同じくらいか高校生くらいだと思う。大人は戦争に行っているけれど、子どもは作業をしたりしていると本に書いてあったので、そう思った。
この男の人が見ているものは、焼け野原だと思うけど、この人の中には固い意志があると思います。怒り、苦しみ、光、不安など、どうしようもないこの状況に立ち向かっていっているような気がします。手が左手は握りしめているようだけど、右手はダラ~ンとしています。たくさんの異なる気持ちがぶつかりあっていると思います。先生があとから言われて、なるほどと思ったことがあります。耳が不自由だったということです。耳が不自由だからみんなと一緒に戦えない。自分は役に立てないだという、不甲斐なさがどこか悲しげで、でも、キリッと意思のある顔から感じました。男の子が異常に大きく描いてあるのは1人の人として、二度と戦争はしたくない、してはいけないという決意の大きさだと思います。(女子)

僕はこの絵をみて、この男の人は自分は男であるにもかかわらず、戦地へ行くことができなかったという残念な気持ちと、戦争をしてもいいのだろうかという戦争を反対する思いを両方持っている人だと思いました。なぜなら、この人は左手の拳を強くにぎりしめていて、足も大きく開いて、何か怒りのような思いを持っているようにも見えますが、肩は落ちていて、自分が戦争に行けなかったのを残念に思っているという気持ちもあるように思えたからです。遠くを見ているようなその目線は、きっと、未来のことを考えているのではないかと思います。自分は戦地に行けなくても、行けなかった人の気持ちを、絵に描いて表そう、その時に、自分の戦争に対しての反対の気持ちも一緒に表そうと、そう思って、遠くを見ている、拳を握りしめている絵にしたと思いました。また、この絵にある木が枯れていることから、冬の季節だと思いました。冬という寒い季節であるにもかかわらず、サンダルを履いている姿から、この人は、家を飛び出してきたか、靴を持っていない人だと思いました。
また、この人が大きく描かれている理由とした拳もにぎっている姿から、自分自身の心を大きくさせたいと思っているのではないかなと思いました。戦争の時代には、飯塚さんが言われたとおり、1人1人の命が大切だというよりも、1人1人が戦争に勝つための道具だと思われていたのかも知れません。その中でこの青年は、自分自身が強くならなければならない。こらからの未来と背負っていかなければならないという強い決心をしたと思いました。
また、全体的に暗い色を使うことで、その時代の雰囲気をあらわしていると思いました。きっと、この時代はとても大変な時代で、人々も暗く疲れていたはずです。その中で、この青年は、自分の心を変えようとしていると思いました。(男子)

私はこの絵をみて、真ん中に立っている男の人のくつが草履のようなもので、現代にはあまりこういう服装の人は見られないし、男の人より小さく見える建物はおそらく遠くにあると思って、でも、近くには建物はないけど、土台のようなものが描いてあるし、焦げ茶色に塗ってるので焼け跡なのかなと思ったので、戦時中の場所を描いた絵だと思いました。そして、男の人は右手は脱力したようにダラッと開かれているけど左手は何かを決意したように握られていて、戦争で変わり果ててしまった町をみて、悔しさや悲しさを感じて放心していたけど、その戦争に負けず、これからも生きていこうと決めたという心の切り換えの瞬間なのかなと思いました。さらに、その場をみず、遠くの方をみているので、今の現状に打ちひしがれる気持ちより未来に向かう気持ちの方が大きいと想像しました。
そして、空の色が灰色がかった雲で覆われたような印象を受けさせるし、実際戦時中に描かれた絵だと知って、この絵を描いた作者の気持ちが表れているなと思いました。晴れた青空ではなく、重く沈んだ色は戦争の悲惨さや悲しさが感じられます。(女子)

感想
今回は2回目の鑑賞でしたが、前回よりも内容が難しかったです。この授業をしたら、小さな情報を発展させて考える想像力がつくなと思いました。内容が難しい分、シンプルな絵ということもあり、見やすい絵だったので、いろいろ分かることも多かったです。美術のセンスは無いかも知れないけれど、絵をみる目はもちたいなと思いました。(男子)

やはり、この企画は好きです。しっかりとその絵をみていることができるので、好きです。また、やりたいです。1人でやるより、みんなでやるのが楽しいと思います。(男子)

この鑑賞活動を通して、絵をみながら友だちの考えをしっかり聴くことで自分の考えと比較しながら鑑賞することができました。皆と意見を話し合ったりする中で自分の考えをより深めることもできるし、全く違った視点で鑑賞したりすることができるので、楽しめました。(女子)

今回は自分の思っていた意見と同じ人がけっこういました。自分の思っていたこと以外にも気付いていた人やもっと深いところまで考えた人がいて、この絵のことについてしっかりと考えることができました。他の意見をきいてなるほどなあと思う意見もあって、色々なことを考えさせられるような鑑賞会でした。(男子)

今回は2回目の鑑賞でしたが、前回より内容が難しかったです。この授業をしたら小さな情報を発展させて考える想像力がつくなと思いました。内容が難しい分、シンプルな絵ということもあり、見やすい絵だったのでいろいろ分かることも多かったです。美術のセンスはないかも知れないけど、絵をみる目は持ちたいなと思いました。(男子)

この学年は1クラス37名~40名に及ぶ人数構成で、2年生の時は落ち着きがなくとても対話型鑑賞を行う雰囲気ではありませんでした。3年生の1学期後半くらいから最上級生としての落ち着きが感じられるようになり、また、生徒と私との関係もいくらかは築けた気がしたので実践に踏み切りました。
1作品目はゴッホの椅子です。この時に1作品目からかなり高度な鑑賞ができたので、自信をもちました。
2作品目に松本竣介の「立てる像」はかなり冒険でしたが、3年生の2学期の後半にみせる作品はこれをおいて他には無いと思っているので、チャレンジしました。生徒は自身の現在と重ね合わせながら、戦争に関する知識も駆使して作品を鑑賞していきました。ここに披露したのはほんの数名の生徒のものですが、15歳という年齢が人をどのくらい成長させているのかを垣間見ることの出来る貴重なひとときでした。
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