
「ラスト、コーション」を観てきました。
1940年前後、日本占領下の上海と香港を舞台にした
作品で、時代を反映してか、陰惨としています。
傀儡政権の特務機関の責任者・易が抗日メンバーを
尋問、虐待、処刑する様子を感じさせる場面に、
最近読んだ「リー・クワンユー回顧録」の中の拷問に
関する記述が頭を横切り、ぞーっとしてしまいました。
日本も国全体が大きく国粋主義に傾いた時代が
あったことを強烈に思い起こさせられる場面でした。
原作は重慶・蒋介石政府に特務工作機関で活動していた鄭蘋茹と抗日の敵・丁黙邨の
実話を元にして執筆された張愛玲の短編小説「色・戒」。
張愛玲というとチョウ・ユンファが出ていた映画「傾城之恋」を思い出します。
主人公の王佳芝は戦争の激化によって混乱する中国本土から香港に逃れますが、
著者の張愛玲もまた舞台設定と同時期に香港大学に進学し、ロンドン留学の
機会もあったものの、戦争の悪化により学業を断念。上海に戻り、文学創作の道へ進んだ
経緯があります。そして1944年日本の傀儡政権である汪兆銘政権幹部の胡蘭成と結婚。
彼女の半生が投影されている部分も多いのではないか?という印象を受けました。
1943~1945年まで日本軍占領下の上海で一世を風靡した女流作家であるものの
新中国成立後は香港に渡り、その後はアメリカへ。
彼女の作品は禁書扱いとされ、改革解放後にようやく見直されることになった。
そんな彼女の一生も興味深いです。
映画の中で印象に残っているのは、奥様方がマージャンをしながらたわいもないお喋りを
しているシーン。しぐさや目の動きが意味深で、どういう意味が隠されているのかと
見ながらせわしなく頭を回転させていました


それから王佳芝が飲み終えたグラスやカップにべったりとついた口紅。
これも何か意味があるんじゃないかと こねくりまわして考えてしまいました

上海の国民党抗日組織から特訓を受けたものの、王佳芝には今ひとつ工作員としての
信念が伝わってこず、劇団で一緒だった鄺裕民のために流されているだけ、あるいは
「相手を騙す演技」を楽しんでいる、そんな感じを受けました。
鄺裕民についても学生の仲間意識から抜けきれない幼さを感じずにはいられませんでした。
対する易の方は「殺すか殺されるか」の状況に身を置き、冷徹になっているのに、そんな易と
非情な駆け引きなんて出来やしません。処刑場で一列に座らされている姿が痛々しかったです。
王佳芝が使っていた部屋のベットに腰掛けて、22時を知らせる時計の音を聞いていた
易は何を思ったのか、心中を覗いてみたい気がしました。
鄭蘋茹は、劇団四季「異国の丘」の宋愛玲のモデルでもあります。近衛文隆が上海で
恋に落ちた相手。「異国の丘」を見た時は近衛文隆が好青年に映りました。白州次郎に
関する本を色々読んでいたら 文隆がプリンストン大学に留学中、学業がおろそかになって
そんな息子を案じた近衛文麿に相談された次郎さんが面倒をみた話が出ていました。
自分が今まで読んだり、観たりした様々なことがリンクしている映画でした。
公式サイト

こちらのサイトの予告編が上手くまとまっていると思います。⇒Lust Caution
