緑陰茶話   - みどりさんのシニアライフ -

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ペットのターミナルケア

2019年07月10日 | 
我が家の愛猫、ミーちゃんのことですが、この度、悪性腫瘍が見つかりました。

1カ月くらい前から、早朝、よく吐くことがあり、ジュレタイプのものなら食べていたのですがカリカリは食べなくなっていました。
糖尿病でしたので、以前から血糖値のコントロールの為、1週間に1度は病院に連れて行っていました。
そこで、そのことを訴えてもいたのですが、胃の状態が悪いのかもしれない、餌は何度にも分けて与えてくださいと言われて、その通りにしていました。

ある時、あまりにも酷い吐き方をしたので、これは何かあると思い、すぐ病院に連れて行ったところ、検査の結果、悪性腫瘍とのことでした。
よく吐き、カリカリを嫌がったのは、悪性腫瘍が腸に巻き付くようにあり、食べ物が腸を通過できなくなっていたからでしたが、開腹してみないと詳しい状態は分からないとのことでした。

医師からは手術以外に助かる方法がないと言われました。
手術の方法は、悪性腫瘍の摘出だけでなく、それが巻き付いている腸も切断し繋ぎ合わせるとのことでした。
ただ手術した場合、長期間の入院が必要であり、また腸の繋ぎ合わせた部分から食べ物が腹内に漏れ出ることもあるとのことでした。

帰ってからネットで色々と調べてみました。
すると、ミーちゃんと同じ症状と状態で手術した猫もいましたが、一時期回復したものの直ぐに悪性腫瘍が再発し、死亡したとのことでした。

我が家では、何十年も前から、ほぼ途切れることなく猫を飼っており、その死に行くさまも見てきました。
獣医師から「治療しますか、それとも安楽死をえらびますか」と問われ、治療を選んで一時期元気になったものの半年くらい後に亡くなった猫もいました。
若い猫で、辛い手術を受けさせて死なせてしまった猫もいました。

ミーちゃんの場合、色々な考え方があるでしょうが、若い猫ではなく高齢猫であり、手術の苦痛や長期間の入院によるストレスを考えると、自宅で出来る限りストレスなく過ごさせ、このまま自然に逝かせることを選択しました。

定位置のミーちゃん専用座布団で寛ぐミーちゃんです。


ミーちゃんが通っている病院は設備の整った大きなペット病院で、勤めている獣医師も6,7名はいるみたいです。
主治医は30歳前後の若い医師ですが、今回、話をしていて思うことがあったので、そのことを書いて見ます。

手術を行わない決定は、その獣医師にとって思いがけないことのようでした。
その医師の表情や口ぶりを見ていて、私は30年くらい前のある医師の言葉を思い出しました。

思い出した医師の名前は既に亡くなっていますが河野博臣医師です。
河野医師は動物の医師ではなく人間を診る医師で、日本におけるターミナルケアの先駆者でした。

ミーちゃんの主治医と話していて、私が思い出した河野医師の言葉は「医師にとって患者の死は“敗北”である」でした。
確かに、そのペット病院でも、モットーとして「私たちは全力で動物の命を救います」と掲げられていて、主治医にとっては手術は当然だったのです。

そういう考え方は特に変なものではなさそうですが、河野医師によればその結果、様々な弊害が現れるというのでした。
何がなんでも助けるという姿勢は、その結果、患者に苦痛を強いて当然にもなります。
無意味な治療を際限もなく続けることにもなります。

河野医師自身、元々は腕に覚えがあり、人を手術するのが大好きな外科医であったということです。
ところがある日、河野医師の2歳になる娘さんが、家の近くの阪急電車の線路で、特急にはねられて亡くなられるという経験をします。
河野医師はバラバラになった娘さんの肉片を拾ったということです。

その事故がきっかけで河野医師は変わったそうです。
(もちろん直ぐに変わったのではなく一時は相当に荒れたそうですが。)
それまではメスを体に入れられる患者の心身の痛みなど考えたこともなかったそうです。

河野医師は当時も、それ以降も一介の開業医でしたが、その傍ら患者中心医療の活動を始め、ターミナルケアの先駆者となり、日本におけるサイコオンコロジーの発起人となります。
私は当時、ある事情から河野医師に私淑しており、神戸市垂水にある河野医師の病院で開かれていた研究会にも月1回3年間ほど通っていました。
それは30年くらい前の話ですので、今では社会全体で終末期医療に関しては格段の理解があります。

ですがミーちゃんの主治医と話していて感じたのは、ことペットに関しては、30年前の人間の医療の問題点がそのままペット医療の現場にあるのではないかということでした。
それは動物の医療の進歩の結果、生かす為に色んなことが可能であることの弊害でもあるのかもしれません。
また高額な先進医療設備を病院が据えることによる病院の経営上の問題もあるのだと思います。

私としてはミーちゃんの今後の生活をできる限り苦痛の少ない穏やかなものにしたいので、そのことでのサポートを医師にはお願いしたかったのです。
ただそれは無理かもしれないと思いました。

ミーちゃんは今はちゅーるのみ食べている状態ですが、病状が進めばそれも食べられなくなるかもしれません。
強制給餌や栄養点滴は安らかな死と相反するものですので、そういうことをされても困るのです。

河野医師は当時「昔は癌患者は食べられなくなって枯れるように死んだが今は最後まで点滴するものだから妙に元気に苦しんで死ぬしかない」と語っていました。
現在では終末期の癌患者にやたら点滴しないようにガイドラインがあるようです。⇒ココ

このガイドラインについて医師が語る「人の体には苦しみを回避するうまいシステムが組み込まれているのかもしれないですね」という言葉は、私は猫や犬も同じだと思うのです。
それが「自然に逝かせる」ということでもあるのです。

ペットのターミナルケアは、動物を飼う人には避けて通れない問題だと思います。
私としてはミーちゃんが最後まで穏やかに過ごせるよう努めていきたいです。