毎年恒例、「ロケットの聖地」 内之浦宇宙空間観測所の施設特別公開が今年の秋も開催されました。
内之浦宇宙空間観測所 施設特別公開
今年は特に、7年ぶりの新型ロケット・イプシロンの打上げからまだ2ヶ月ほどしか経っていないので、イプシロンの打上げで噴射炎に晒されて焼き焦がされた発射場周辺の施設設備がそのままの状態で残っている非常に貴重なタイミングでの開催となります。
現地でイプシロン打上げを見守った宇宙ファンとしては、これは絶対に見逃せない!
という訳で、前日から泊りがけで内之浦に行ってきました。
イプシロン誕生直後の2013年内之浦宇宙空間観測所 施設特別公開レポートです!
2013年11月10日(日曜日)
どういう訳だか毎年、秋晴れとはいかず雨が降る事が多い内之浦の施設特別公開。今年も朝から小雨がぱらつく中での開催となりました。
今年は一般見学者は内之浦総合グラウンド駐車場に誘導され、そこからシャトルバスで宇宙空間観測所まで送ってもらいます。
シャトルバスの到着したM台地ロケット組立室は、既に大勢の見学者が詰めかけています。
地元・肝付町のゆるキャラ「いて丸」くんがお出迎え。
Mロケット組立室で目を引いたのがこれ。
ちょっと新幹線の先頭車を想わせる流麗なフォルム…
イプシロンロケットのフェアリングのプロトタイプモデル(試作試験品)です!
2つに分離した状態の、片割れが置かれていました。
フェアリングの中に潜り込んで見る事も出来ました。
かなり狭いです。こんな狭い空間に衛星「ひさき」は詰め込まれて、宇宙へと旅立ったんですねぇ。
少し雨脚が弱まったようなので、組立室からロケット発射装置のあるM台地へと出てみます。
M台地の一角には、産業廃棄物置き場のようになっている区画があったのですが、雨ざらしで打ち捨てられているガラクタのようなこれらはよく見るとMロケット発射装置がイプシロン打上げに対応するために改修された際に発生した先代のM-Vロケット打上げ用の機器類、すごいお宝の山です!
M-Vの第1段ロケットの根本を支えていたランチャのポッドもあります。
これ、鉄道の工場一般公開イベントの時のようにマニア向けの廃棄物オークションで放出したら、かなり人気が出るかも!?
…あ、でもどこかのアブナイ軍事国家の手に渡って兵器に開発転用される危険があるかもなぁ
こんなものもM台地に置かれています。イプシロンの第1段と第2段の継ぎ手部分のプロトタイプモデルのようです。
その横の芝生には、イプシロンロケットのフェアリングの片割れも放置中。
この横に、現在組立室で展示中のもう一方の片割れが並んで置かれていたみたいですね。それにしてもロケット関連の施設では、とんでもないシロモノを平気でそこらに置きっぱなしにしてるなぁ(笑)
Mロケット整備塔の手前には、イプシロンの第1段ロケットを運んできた台車と思われる物体がブルーシートをかけた状態で置かれていました。
ちなみにこれって…
6月に内之浦宇宙空間観測所まで搬入される途中の山道の国道で第1段ロケットを積んだまま立ち往生して、動けなくなってしまったんですよね。あの時は心配したなぁ。
(→イプシロンロケットの1段目、内之浦の国道上で立ち往生…)
Mロケット整備塔の壁には、「M型ロケット発射装置」の銘板が。
イプシロンが打上げられるようになったので「E型ロケット発射装置」に改称されるのではないかと思っていたのですが、今でもM型ロケットの名称が残っていました。
新しい銘板も横に追加されています。
なるほど、M型ロケット発射装置改修(イプシロンロケット対応)という扱いになるんですね。
いかにも事務的な処理の結果という感じですが、そのおかげで名機Mロケットの名称が今も残っているのはちょっと嬉しい。
Mロケット発射装置の、ロケットランチャも間近で見ることが出来ます。これが、イプシロンの打上げで噴射炎に晒され焼き焦がされたランチャの基部です!
全体をざっと高圧水噴射で水洗いしただけの状態のようですが、高熱で焼かれたせいか表面の塗装が剥がれて、過去にM-Vロケットで打上げられた衛星たちの開発コードネームのペイントがうっすらと浮き出て読めるようになっていました。
驚くべきことに、実際には打上げられなかった月探査衛星「LUNAR-A」も読み取ることが出来ます。いつでも打上げられるように、ペイントまで完了していたんですねぇ…
ロケットランチャの海側には、噴射炎を受けるデフレクターが。
イプシロンからはデフレクターに新規で追加設置された煙道が見えています。
ここで、天候が回復したので整備塔の大扉を開いてランチャ旋回の実演が行われることに。
ランチャ旋回は内之浦宇宙空間観測所 施設特別公開の一番の見どころイベントです。これは必見!
整備塔内に収納された、黒焦げのランチャ本体が姿を現しました!!
続いて、ランチャがゆっくりと旋回して外に出てきます!!
ランチャの下部に設置された、ロケット位置を嵩上げするための箱状の設備が頭上を通過していきます。
凄い迫力です!!
イプシロンの打上げから実に2ヶ月ぶりに、ロケットランチャが空の下にそびえ立ちました!
イプシロンが翔び立った時、そのままの姿です!!
それにしても、神々しいまでの黒焦げぶりです。
固体燃料ロケットの噴射炎のパワーの凄まじさを実感する、恐ろしくて痛々しくも実に頼もしい、力強いランチャの雄姿に見とれてしまいます。
ランチャの裏側から見るとこんな感じ。ランチャは見事に焼き焦げていますが、煙道部分は比較的きれいな状態のままであることが分かります。
噴射炎を海側に逃がす煙道の効果が存分に発揮されたことを物語っています。
M台地ロケット組立室クリーンルームでは、内之浦宇宙空間観測所 施設特別公開のもう一つの必見イベント、
イプシロンロケットのプロジェクトマネージャー森田泰弘先生の講演会も開催されました。
イプシロンの翔び立ったその場所で行われた森田先生の講演会、とてもリラックスした雰囲気で楽しいお話をお聞きすることが出来ました。
森田先生も、大仕事を終えた後でロケットボーイの素顔のままに、イプシロン打上げまでの想い出を嬉しそうに語っておられましたよ。
僕としては特に、
「発射台に立ったイプシロンは、位置を地面から嵩上げするための私が“電話ボックス”と呼んでいる箱の上にいるのだが、その様子はまるで自分より大きかった先代のM-Vロケットに負けないように一生懸命がんばって背伸びをしているように見えました」
という言葉が印象的でした。森田先生、本当にロケットのことを慈しみ我が子のように愛してるんだなぁ…
質疑応答コーナーでは僕も質問させていただきました。
Q:イプシロンの第1段ロケットを搬入する途中、山道で輸送用トランスポーターが故障して立ち往生するという出来事がありましたが、今後のイプシロン2号機以降では第1段ロケットの搬入方法については何か改善策を考えておられますか?
A:(森田先生)あ、その件については輸送搬入担当の人がそこでマイク係をしておられますので直接聞かれて下さい。(ええっ!?(笑))
(マイク係をしておられたJAXAスタッフさん)はい、実はこの施設特別公開が終わったらすぐ、トランスポーターの対策を打ち合わせるためにイタリアに向かいます。次回は故障しないよう対策を取ります。
(筆者)それは、急勾配に対応した新しいトランスポーターを準備するということですか?
(JAXA)はい、そうです。新車を入れます。
おおっ!次回から新しい輸送用トランスポーターが使われるようですね!
Q:イプシロン初号機では機体に応援メッセージを刻むキャンペーンを行われましたが、森田先生はイプシロンの機体に刻み込まれたメッセージを直接ご覧になられましたか?
A:はい、もちろん見ています。整備塔の中でも直接読みましたし、全てのメッセージの内容をプリントアウトしたものを受け取っていますので目を通しています。
Q:実は私のメッセージもイプシロンに刻まれて一緒に乗っています。森田先生はどのようなメッセージが特に印象に残られましたか?
A:そうですね、やはり自分の夢がイプシロンと一緒に翔んでいくというメッセージは特に心に響いて、嬉しかったですね。
(筆者)あのキャンペーンは、自分の想いや心もイプシロンと一体となって翔んでいくようで、打上げを見ていてとても感動しました。お手数でしょうが、是非2号機以降でも同様のキャンペーンを続けて下さればと思います。ありがとうございました。
※この森田先生講演会の内容は、一緒に講演会を聴いた岩本塚さんが詳細なレポートを書かれていますのでそちらを是非ご参照ください(岩本さん、ありがとう!)。
→内之浦宇宙空間観測所(USC)特別公開に行ってきた 2013.11.10(岩日誌 2013-11-13)
講演会の会場には、イプシロンゆかりの品々も展示されていました。
内之浦でのロケット打上げを支え続けた縁の下の力持ち、地元婦人会の皆さんから送られた千羽鶴。
子供たちからの応援メッセージと並んで、日本の固体燃料ロケット打上げの伝統である、お酒のラベルのパロディ作品が表紙を飾る性能計算書も!
今回は地元の焼酎「新燃」が元ネタだったようですね。
宇宙研魂は健在なり!!(笑)
秋田県の能代ロケット実験場で実際に使用された、イプシロン発射台の煙道の実験模型もありました。
ここでサプライズが!何と、そのイプシロン発射台の煙道に入れる見学ツアーが急遽実施されることに。
煙道の周辺は、超高温の固体燃料ロケット噴射炎がまともに叩き付けられたせいで海側の通路の舗装の強度が極端に落ちていて危険なため、人数を制限してのグループ見学ツアーとなりました。
ここからイプシロンのロケット噴射炎が吹き抜けたんですねぇ…
煙道の中から上を覗くと、ランチャの下に設置された「電話ボックス」が煙道と見事にきっちりと位置が合って、噴射炎を通す道が形成されていることが分かります。
ランチャが旋回して「電話ボックス」が離れると、煙道の上には内之浦の秋空とM型ロケット発射装置の姿が。
最新型のイプシロンも、これまで数多くの先輩ロケットが旅立ってきたのと同じランチャから宇宙へと翔び立つのですね…
そのことを実感させる、感動的な光景が煙道の上に切り取られた空の下に広がっていました。
日本のロケットの聖地、内之浦は、
世界最高性能の新型固体燃料ロケット・イプシロンをもって、新たな時代を迎えました。
そしてこの先、どんなにロケットが進化を続けても、その土台を支えるのは変わらぬロケットボーイたちの熱い想いと情熱、そしてそれを見守る地元の人たちの温かな心。
そのことを実感して、聖地・内之浦を後にします。
今年もありがとう、聖地・内之浦。
また来年、そして次の打上げの時に来ます!