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宇宙の膨張速度を表すハッブル定数の不一致問題は依然として存在 ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測から裏付けられる

2024年03月24日 | 宇宙 space
今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を使い、計8個の“Ia型超新星”が出現した6個の銀河について、合計で1000個以上のケフェイドの光度と変光周期を高い精度で観測しています。

観測の結果、ケフェイドの周期・光度関係の誤差を数百分の1に減らすことに成功。
これにより、ケフェイドに別の星の光が混入しハッブル緊張が生じている可能性を否定することができていました。

ただ、銀河までの距離は、過去にハッブル宇宙望遠鏡が“Ia型超新星”を観測して求めた値と、ほとんど変わらず…
宇宙の膨張速度を表すハッブル定数の不一致問題が、依然として存在することが確かめられました。
この研究は、アメリカ・ジョンズ・ホプキンズ大学のAdam Riessさんたちの研究チームが進めています。
図1.渦巻銀河“NGC 5468”。ハッブル宇宙望遠鏡の広視野カメラ3“WFC3”とジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”で撮影された画像を合成したもの。ハッブル宇宙望遠鏡でケフェイド変光星が見つかった銀河としては最も遠く、また“Ia型超新星”も出現しているので、両方の天体を使った距離測定の校正に利用できる重要な銀河となる。(提供:NASA, ESA, CSA, STScI, Adam G. Riess (JHU, STScI)
図1.渦巻銀河“NGC 5468”。ハッブル宇宙望遠鏡の広視野カメラ3“WFC3”とジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”で撮影された画像を合成したもの。ハッブル宇宙望遠鏡でケフェイド変光星が見つかった銀河としては最も遠く、また“Ia型超新星”も出現しているので、両方の天体を使った距離測定の校正に利用できる重要な銀河となる。(提供:NASA, ESA, CSA, STScI, Adam G. Riess (JHU, STScI)


宇宙の膨張速度を表すハッブル定数の相違

私たちの宇宙の現在の膨張族度は“ハッブル定数H0”で表されています。
ハッブル定数は“地球から遠い銀河ほど速く遠ざかっている”という“ハッブル・ルメートルの法則”の比例定数になります。

白色矮星と連星をなすもう一方の星(伴星)の外層部から流れ出した物質が、主星である白色矮星へと降り積もる“降着”という現象があります。

この降着により、白色矮星の質量が増えて太陽質量の約1.4倍(チャンドラセカール限界)を超えてしまうと、自己重力を支えられなくなって収縮し、暴走的な核融合反応が起こって爆発してしまうことに…
この爆発を起こして星全体が吹き飛ぶ現象を“Ia型超新星”と呼びます。

“Ia型超新星”は爆発直前の質量がどれも同じで、爆発後のピーク光度もほぼ同じと考えられています。
なので、観測された見かけの明るさと比較することで、地球からの距離を測ることが可能になる訳です。
このような天体や現象は標準光源と呼ばれています。

超新星は明るい現象であり、発生した銀河が遠くても距離を測ることができるので、“Ia型超新星”は重要な標準光源の一つになっていて、宇宙の加速膨張が発見されるきっかけにもなったりしています。

この“Ia型超新星”の明るさから距離を求めてハッブル定数を導くと、およそ73.0±1.0km/s/Mpc(距離が1メガパーセク遠くなるごとに、銀河の後退速度が73㎞/sずつ大きくなる)という値になります。

一方、宇宙マイクロ波背景放射を使う方法でもハッブル定数を導くことができます。

宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background; CMB)は、ビッグバン後に発せられた“宇宙最初の光”の残光です。
宇宙膨張の影響を受けて波長が伸び、現在は電波の波長(マイクロ波)で観測され、どの方角からもほぼ同じ強さで到来しています。

宇宙マイクロ波背景放射の観測はビッグバン宇宙論の根拠として、また、その強度分布や偏光分布の観測は、標準宇宙モデルの確立に大きく貢献しました。

“宇宙マイクロ波背景放射”を観測したデータからハッブル定数を求めてみると、およそ67.4±0.5km/s/Mpcという値が得られています。

この2つの値が誤差などを考えに入れても一致していないことは、“ハッブル緊張(Hubble tension)”(※1)と呼ばれ、現在の宇宙論で最大の謎の一つになっています。
※1.宇宙の膨張速度を表す“ハッブル定数(H0)”には、近くの宇宙で測定した場合の値と、遠い宇宙で測定した場合の値に大きな差が生じる相違、ハッブル定数をめぐる緊張“ハッブル緊張(Hubble tension)”という大きな謎がある。


ケフェイド変光星を用いた精度の校正

ここで問題となるのが、銀河の距離を求める方法に未知の誤差がないかという点です。

宇宙で距離を測る方法にはいくつかあり、使える範囲がそれぞれ限られています。
そのため、遠い天体までの距離を測るには、近い距離を測る方法から順に複数の測定方法をつないで距離を求めています。
これを“宇宙距離梯子”と呼んでいます。

“Ia型超新星”の明るさと距離の関係は、“ケフェイド(セファイドとも呼ぶ)”というタイプの変光星から求めた距離を使って校正されています。

ケフェイドは個々の星を見分けられるくらい近い銀河でしか見えませんが、“明るいものほど変光周期が長い”という性質(周期・光度関係)があり、精度よく距離を決めることができます。

そのため、“Ia型超新星”が出現し、なおかつケフェイドも含まれているような銀河を使えば、“Ia型超新星”という“ものさし”の精度の校正が可能です。
この校正を行うには、“Ia型超新星”もケフェイドも含まれていて、しかもなるべく遠い銀河を使うことが条件となります。

ただ、あまり遠い銀河だとケフェイドを分解できず、別の星の明るさが混ざってしまう可能性が出てくるんですねー
実は、ハッブル緊張の原因として、この“光の混入”があるのではないか、っという指摘がされていました。


比較的新しい宇宙を観測してハッブル定数を求める

アメリカ・ジョンズ・ホプキンズ大学のAdam Riessさんは、“Ia型超新星”を使ってハッブル定数を精密に求める“SHOES”というプロジェクトを率いています。
Riessさんは、“Ia型超新星”の観測から宇宙の加速膨張を発見し、2011年にノーベル物理学賞を共同受賞した一人でもあります。

今回、Riessさんたちはジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を使い、計8個の“Ia型超新星”が出現した6個の銀河について、合計で1000個以上のケフェイドの光度と変光周期を高い精度で観測しています。

その中に含まれていたのが、おとめ座の方向約1億3000万光年彼方に位置する銀河“NGC 5468”でした。
“NGC 5468”は、ケフェイドが見つかった銀河としては最も遠いものになります。
図2.渦巻銀河“NGC 5468”で見つかったケフェイド変光星“P42”。左がジェームズウェッブ宇宙望遠鏡、右がハッブル宇宙望遠鏡による近赤外線画像。ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の方が大幅に分解能が向上している。(提供:NASA, ESA, CSA, STScI, Adam G. Riess (JHU, STScI)
図2.渦巻銀河“NGC 5468”で見つかったケフェイド変光星“P42”。左がジェームズウェッブ宇宙望遠鏡、右がハッブル宇宙望遠鏡による近赤外線画像。ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の方が大幅に分解能が向上している。(提供:NASA, ESA, CSA, STScI, Adam G. Riess (JHU, STScI)
観測の結果、ケフェイドの周期・光度関係の誤差を数百分の1に減らすことに成功。
このため、ケフェイドに別の星の光が混入しハッブル緊張が生じている可能性を否定することができていました。
でも、銀河までの距離は、過去にハッブル宇宙望遠鏡が“Ia型超新星”を観測して求めた値と、ほとんど変わりませんでした。

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡の組み合わせにより、両者の長所を活用することができました。
観測では宇宙距離梯子をさらに上って、ハッブル宇宙望遠鏡の測定が依然として信頼できることが確かめられたことになります。

“Ia型超新星”を使う方法は、いわば数千万~数億年前という、比較的新しい宇宙を観測してハッブル定数を求めています。
もう一方の宇宙マイクロ波背景放射を使う方法は、ビッグバンからわずか38万年しかたっていない時代の宇宙からハッブル定数を導いています。

この2つの時代の間に宇宙の性質がどう変わったのかについては、まだ直接観測されていません。
私たちは、宇宙の始まりと現在とをどうつなぐかを考えるうえで、何かを見落としているのかもしれません。
この何かを見つけ出す必要がありますね。


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