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地球以外では高温の活火山があることが知られている唯一の天体! 木星の衛星イオのマグマの温度は1000度以上ある

2023年03月01日 | 木星の探査
木星を巡るガリレオ衛星の中で最も内側の軌道を公転しているのがイオです。
太陽系の衛星の中では4番目に大きく、半径は1800キロ強と地球の3分の1にもなります。
 木星を周回する4つの大型衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)は、ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で発見したので通称“ガリレオ衛星”と呼ばれている。衛星が大きいのでガリレオ手製の低倍率の望遠鏡でも見ることができた。
そのガリレオ衛星の1つであるイオには、太陽系全体で見ても特異な性質があります。

それは、イオが木星や他のガリレオ衛星から潮汐力を受け、内部が加熱されて高温のマグマを放出していることです。

イオは太陽系の衛星の中では、最も火山活動が活発なことが有名で、その表面に確認されている火山は400以上。
そこからは硫黄を含むガスが放出されているようです。

そのガスが凍り付いて地表に降り注ぐことで、イオの表面は黄色やオレンジ、赤といった暖色系の彩の模様で覆われています。

地球以外では、高温の活火山があることが知られている唯一の天体。
このことからも、イオは特異な天体として興味深い観測対象になっています。
図1.NASAの木星探査機“ガリレオ”が1999年7月3日に撮影したイオのトゥルーカラー画像。全体的な黄色っぽい色や表面に見られる複雑な模様は、現在も続く活発な火山活動によって形成されたもの。(Credit: NASA/JPL/University of Arizona)
図1.NASAの木星探査機“ガリレオ”が1999年7月3日に撮影したイオのトゥルーカラー画像。全体的な黄色っぽい色や表面に見られる複雑な模様は、現在も続く活発な火山活動によって形成されたもの。(Credit: NASA/JPL/University of Arizona)

天体そのものが変形させられて熱を持つ現象

木星の巨大な重力による潮汐力が、イオの火山のエネルギー源になっています。

木星を周回するイオの軌道が完全な円形ではないことや、イオが“潮汐ロック”によって常に同じ面を木星に向けていることで、イオは木星に接近すると決まって同一面方向に引っ張られることになります。
 潮汐ロックとは、主星からの潮汐力の影響で自転周期と公転周期が一致し、常に主星に対して同じ面を向け続けている状態。主星の近くを公転している場合など、受ける潮汐力が大きい場合に比較的よくみられる現象。月が地球に同じ面を向けているのも同じ現象。
これにより、木星から遠いときはほぼ球体のイオも、接近するに従って赤道方向に引っ張られ、極端にいえば卵のような形になるんですねー
そして、木星から遠ざかると、また球体に戻っていきます。

これを繰り返すことで発生した摩擦熱によりイオは熱せられているわけです。
このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を“潮汐加熱”といいます。
 木星の衛星エウロパ、土星の衛星エンケラドス、海王星の衛星トリトンといった天体では、潮汐作用による惑星内部の過熱“潮汐加熱”を熱源とした低温火山活動によって、地下から水などの物質が噴出していると見られている。
また、木星による潮汐加熱に加え、すぐ周囲をエウロパやガニメデなど、太陽系屈指の大型の衛星が公転しているので、これらの影響も受けることになります。

こうしてイオは変形させられて加熱されることで、火山活動が活発に起きていると考えられています。
図2.NASAの冥王星探査機“ニューホライズンズ”が2007年2月28日に撮影したイオ。宇宙からも見えるほど大規模な噴出を伴う噴火が3か所で起きていて、イオが地球以上に活発な天体であることを示す一つの証拠になる。(Credit: NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute)
図2.NASAの冥王星探査機“ニューホライズンズ”が2007年2月28日に撮影したイオ。宇宙からも見えるほど大規模な噴出を伴う噴火が3か所で起きていて、イオが地球以上に活発な天体であることを示す一つの証拠になる。(Credit: NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute)

イオには薄い大気が存在している

イオには地球の約10億分の1という、ほんのかすかな大気が存在しています。

その組成は、ほぼ100%が二酸化炭素。
でも、微量成分として一酸化硫黄や塩化ナトリウム、塩化カリウムも検出されています。

特に興味深い成分が塩化ナトリウムと塩化カリウムです。
これらは地球の火山でも検出されている成分です。

塩化ナトリウムと塩化カリウムは蒸発する温度が異なり、その成分比はマグマの温度に反映します。

このことから、イオの大気に含まれる塩化ナトリウムと塩化カリウムも、地球と同じく火山に由来する物質だと考えることができます。

イオの火山活動が薄い大気に与える影響

もし、イオの大気に含まれる塩化ナトリウムと塩化カリウムが火山に由来する物質だとすれば、それはイオのマグマの温度を調べるのに役立つはずなんですねー

塩化ナトリウムと塩化カリウムの大気中の寿命は、モデル計算によればわずか3時間になります。
でも、観測によれば、かなりの長期間にわたってイオの大気中に見つかっているので、火山による継続的な供給が考えられます。

ただ、これ以上の詳しい研究は、これまで行われていませんでした。
この手付かずだった領域に着手したのが、カリフォルニア大学バークレー校のErin Redwingさんたちの研究チームでした。

研究チームが検討を始めたのは、アルマ望遠鏡で観測されたイオのデータのうち、2012年から2018年のデータ。
対象となったのは主目的である塩化ナトリウムおよび塩化カリウムと、イオの大気の主成分である二酸化硫黄の濃度でした。

これらの物質が全て火山由来である場合、そこには相関関係があるはずです。

また、解像度に限界があるものの、これらの空間的な分布を調べて、火山の位置とどの程度関係しているのかも調べられました。

その結果分かってきたのは、大気の主成分である二酸化硫黄の濃度と、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムの放出の間には、あまり関係性が見られないこと。
つまり、塩化ナトリウムと塩化カリウムが検出されたときに、二酸化硫黄の濃度は必ずしも上がるわけではないということです。

相関関係が見られない大気の成分

これらの物質は、火山から放出されると考えられることから、一見すると理にかなっていません。

でも2つの仮説から、この不一致を説明することができるんですねー

1つ目の仮説は、二酸化硫黄の一部が火山以外に由来するというものです。

イオの大気における二酸化硫黄の濃度については、赤道から中緯度の地域(緯度30~40度まで)の方が濃いという空間的な偏りがすでに知られています。

二酸化硫黄はイオの表面では凍り付き、霜として表面に堆積しています。
でも、低緯度地域では昼間に蒸発するほど高温になるんですねー
そう、霜の蒸発は火山活動とは無関係なので、相関関係がないことの説明になる訳です。

2つ目の仮説は、マグマの温度の空間的な偏りです。

塩化ナトリウムと塩化カリウムが多く検出されているのは、主に高緯度地域です。
その位置にある火山では、イオの深部に由来するかなり高温のマグマが噴出していると考えられています。

高緯度地域は気温がより低いので、火山から噴出した二酸化硫黄はすぐに凍り付いて霜となり、昼間でもほとんど蒸発しません。

これにより、二酸化硫黄がほとんど放出されていない、という観測結果が得られます。

一方で、二酸化硫黄が凍りにくい低緯度地域ではマグマの温度が低く、塩化ナトリウムや塩化カリウムの放出が少ないことから、相関関係が見られないことも矛盾なく説明が可能になります。

高温の供給源から気体として供給されていた

では、そもそも塩化ナトリウムや塩化カリウムがマグマ由来であるという推定自体は正しいのでしょうか?

これは、塩化ナトリウムと塩化カリウムの比率から推定できます。

イオの塩化ナトリウムに対する塩化カリウムの比率は、太陽系の平均組成の指標となるコンドライトと比べてかなり低いことが分かっていて、表面からのスパッタリングでは説明しづらいことを示しています。

活火山の見られない月や水星でも希薄な大気中で塩化ナトリウムや塩化カリウムが検出されていますが、これはスパッタリング由来であると考えられています。
 スパッタリングとは、宇宙線や太陽風などの高エネルギーな粒子線が岩石表面に照射され原子が放出される現象。
その場合だと、太陽系の平均組成であるコンドライトとそれほど大きなずれのない値として検出されるはずです。

また、低層大気中の塩化ナトリウムに対する塩化カリウムの比率は、高層大気中と比べてわずかに低く、イオから逃げ出すジェットではさらに低くなります。

これは、塩化カリウムが塩化ナトリウムと比べて気体になる温度が200度ほど低いことが理由になっていると考えられます。

気体になる温度が低い分、塩化カリウムは優先してマグマから蒸発するので、低層大気中の存在率は高くなります。

一方で、放出された後は速やかに個体となって落下するので、大気の高層部になればなるほど塩化カリウムの比率は低くなるというわけです。

これらのことからも、高温の供給源から気体として供給されたというマグマ起源説が最も矛盾なく供給源を説明できます。
図3.塩化ナトリウムと塩化カリウムのどちらか、あるいは両方が観測されたときの大雑把な分布図。円の範囲に供給源となった火山があると推定されるものの、解像度の低さとイオの火山分布の高さから、どの火山であるかを確定することは難しい。ただ、高緯度地域の方が噴出が多いなどの傾向を見ることはできる。(Credit: Redwing, et.al.)
図3.塩化ナトリウムと塩化カリウムのどちらか、あるいは両方が観測されたときの大雑把な分布図。円の範囲に供給源となった火山があると推定されるものの、解像度の低さとイオの火山分布の高さから、どの火山であるかを確定することは難しい。ただ、高緯度地域の方が噴出が多いなどの傾向を見ることはできる。(Credit: Redwing, et.al.)
また、これは限定的な証拠ですが、塩化ナトリウムや塩化カリウムの分布は、最近プルーム(火柱)活動のあったいくつかの火山と一致しています。

活火山の密度が高いことや、分解能が荒すぎることから決定的な証拠とはなりませんが、上記の推定と矛盾しない観測結果になります。

これらの証拠から示唆されるのは、イオのマグマの温度が1000度以上の高温であること。
この温度は、これまでの観測結果と一致するものでした。

ただ、この結果はかなり荒い観測結果から推定されたもの。
なので、より高精度な観測結果が得られれば、より詳細なマグマの温度の推定が可能になります。

そうなれば、イオの内部におけるマグマの循環など、かなり広範囲で詳細なダイナミクスが推定できるはずですよ。


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