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なぜ? 膨張する赤色巨星に一度飲み込まれた領域内を公転する系外惑星は存在できるのか

2023年08月09日 | 宇宙 space
今回、研究の対象になっているのは、約530光年彼方に位置する太陽系外惑星“こぐま座8番星b(8 UMi b)”です。

“こぐま座8番星b”の主星は赤色巨星に進化した“こぐま座8番星”。
ただ、“こぐま座8番星b”が周回しているのは、本来なら膨張した主星に飲み込まれている軌道なんですねー

今回、発表されたのは、この存在し得ない惑星についての研究成果でした。
惑星はなぜ存在できているのでしょうか?
この理由について研究チームが考えたのは2つの説でした。
この研究は、ハワイ大学天文学研究所(IfA)のMarc Hon博士を筆頭とする研究チームが進めています。
合体前の連星を公転する“こぐま座8番星b”のイメージ図。(Credit: W. M. Keck Observatory/Adam Makarenko)
合体前の連星を公転する“こぐま座8番星b”のイメージ図。(Credit: W. M. Keck Observatory/Adam Makarenko)

赤色巨星を公転する系外惑星

2015年に韓国の研究チームが発見した“こぐま座8番星b”は、最小質量が木星の約1.65倍、表面温度は約730度の系外惑星です。

主星の“こぐま座8番星”から約0.46天文単位離れた軌道を約93日周期で公転しています。
1天文単位(au)は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当。
“こぐま座8番星”は質量が太陽の約1.5倍の赤色巨星で、半径は約0.05天文単位(太陽の約10倍)とされています。
国際天文学連合(IAU)が2019年に実施した太陽系外惑星命名キャンペーンの結果、主星の“こぐま座8番星”は“Baekdu(ペクトゥ、白頭山に由来)”、惑星の“こぐま座8番星b”は“Halla(ハルラ、漢拏に由来)”と正式に命名されている。

赤色巨星は核融合反応の変化により膨張と収縮を繰り返している

今回の研究では、恒星の振動を利用してその内部を探る星震学に基づいて分析を実施。
すると、“こぐま座8番星”は中心核(コア)でヘリウムの核融合反応が起こる“ヘリウム核燃焼”の段階にあることが判明しました。
分析には、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)”の観測データが用いられています。

赤色巨星は内部で起こる核融合反応の変化にしたがって、膨張と収縮を繰り返します。

ヘリウム核燃焼に進むには、中心核の水素を核融合で使い果たした後に、その周囲で水素の核融合反応が起こる“水素殻燃焼”という段階を経なければなりません。

そして、水素殻燃焼の段階に達した恒星は大きく膨張することになります。

“こぐま座8番星”の場合、半径が約0.7天文単位(太陽の約150倍)までいったん膨張し、ヘリウム核燃焼が始まってから現在観測されている大きさまで収縮したはずと推定されています。

赤色巨星の膨張により一度は飲み込まれた公転軌道

水素殻燃焼の段階に達し半径が約0.7天文単位まで膨張した“こぐま座8番星”ですが、“こぐま座8番星b”の公転軌道は0.46天文単位のままです。

つまり、“こぐま座8番星b”は、膨張した“こぐま座8番星”に一度飲み込まれたはずの領域内を公転していることになります。

“こぐま座8番星b”が公転しているのは、比較的真円に近い安定した軌道(離心率は約0.06)。
なので、ヘリウム核燃焼が恒星の寿命全体からすれば短期間しか続かないことも考慮すれば、膨張した主星に飲み込まれずに済む遠く離れた軌道から、現在の軌道まで短い期間で移動してきたとは考えにくいんですねー

そこで、研究チームでは、“こぐま座8番星b”が存在する理由について2つの仮説を立てています。

1つ目は、“こぐま座8番星”がもともと近接した2つの恒星からなる連星だったとする説です。
主星が晩年を迎えて赤色巨星に進化し始めた頃、外層のガスが伴星に流れ込むことで、中心核が剥き出しになり、主星は白色矮星に進化。
続いて伴星が赤色巨星に進化し始めると、主星だった白色矮星は伴星と合体して単一の赤色巨星になるというものです。
この時、中心核の質量はヘリウム核燃焼が起こるのに必要な質量を上回るので、外層が大きく膨張する前にヘリウム核燃焼の段階へ進み、“こぐま座8番星b”は生き延びることが出来たというわけです。

2つ目の設も“こぐま座8番星”は連星だったと想定されています。
でも、主星と伴星が合体するまで“こぐま座8番星b”は存在しなかったとする点が異なっています。
この説では、“こぐま座8番星b”は激しい合体にともなって形成されたガス雲を材料にして、新たに誕生した惑星だと予想されています。
“こぐま座8番星b”をめぐる3つのシナリオを解説した図(時系列は左→右の順)。(上)主星が単一の恒星だった場合、惑星は膨張した主星に飲み込まれてしまう。(中)主星が近接連星だった場合、大きく膨張する前にヘリウム核燃焼の段階に入るので、惑星は生き延びられる。(下)主星が近接連星だった場合、合体で生じたガス雲から惑星が形成される。(Credit: W.M.Keck Observatory)
“こぐま座8番星b”をめぐる3つのシナリオを解説した図(時系列は左→右の順)。(上)主星が単一の恒星だった場合、惑星は膨張した主星に飲み込まれてしまう。(中)主星が近接連星だった場合、大きく膨張する前にヘリウム核燃焼の段階に入るので、惑星は生き延びられる。(下)主星が近接連星だった場合、合体で生じたガス雲から惑星が形成される。(Credit: W.M.Keck Observatory)
これら2つの説の根拠の一つは、“こぐま座8番星”の大気で検出された豊富なリチウムの存在でした。

リチウムは若い恒星にはよく見られるものの、年月を経た赤色巨星にはわずかな量しか存在せず、他の星との相互作用を介して晩年に獲得された可能性が指摘されています。

今回の研究では、老いた主星が膨張し始めたとき、その近くにあるすべての惑星が滅亡する運命にあるわけではないことを示しました。

また、リチウムが豊富な赤色巨星は約1000個見つかっているようなので、その近くの惑星を探索することで、新しい知見が得られるかもしれませんね。


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