akikoの「活動」徒然記

活動弁士佐々木亜希子の身の周りの出来事やふと感じたこと

『アクト・オブ・キリング』

2014-05-29 | 映画・芸術・エンターテインメント
先日ようやく観に行ったドキュメンタリー映画『アクト・オブ・キリング』は、衝撃的だった。

インドネシアの大量虐殺を、虐殺した当事者たちに再現させる(演技ですが)という前代未聞の手法で撮影されたこの作品は、社会の暗部を炙り出し、殺戮者たち自身にも大きな問いを投げかけ、双方に変化をもたらしている。

フォーカスされている虐殺者の一人アンワルは、映画好きのヤクザで、若い頃に観た残虐な映画の殺人シーンを真似てスター気分で1000人もの殺人を手掛けた。悪の共産主義者を、正義のため一掃するという軍の要請を受けてである。

彼らが自慢げに再現してみせる殺人方法は、どれも非情で残酷極まりないが、本当に恐いのは、こうした愚鈍なある意味普通の(アンワルは孫を可愛がる好好爺な一面も見せ、どこか憎めない)人間たちを大量殺人装置にしてしまう扇動勢力と、それを正当化したまま生きていられる社会である。
インドネシアは現在も、汚職と暴力の横行する腐敗した政治、恐ろしい常識の中で、多くの国民が諦めと屈辱と恐怖をかかえて生きている。
(この作品はそこに一石を投じ、変革の火種になっているのだから、映画の力も捨てたものではない)

人間は、生きる環境により、仏にもなれば、殺人鬼にもなりうる。
だから、個々の中にも社会にも、命の尊厳と人権、共生の哲学が必要だし、
流される点になるのではなく、全体を俯瞰して あるいは様々な角度立場から 真実を見る目が必要だし、
社会がおかしな方向へ流れ始めたらそれを口にする勇気も必要だ。
良識を常識とした教育も。

人間は変わる。歳とともに、体験によって、いや、一瞬一瞬。
何に触れ、誰に出会い、何を選択するか、どう捉えるかで。

アンワルはあの歳になって、自分の殺戮をカメラで客観視して、また殺害された人間を疑似体験して、本当の恐怖と向き合った。
罪悪感と、殺戮の恐怖、怨念、吐き気…彼は死ぬまで苛まれ続ける。それが彼の報いだ。

監督やスタッフが命懸けで撮ったこの作品は、世界中で類を見ないほどの賞を受賞、山形ドキュメンタリー映画祭でも最優秀作品賞を受賞しています。
渋谷のイメージフォーラムと、新宿シネマカリテで上映中です。
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2 コメント

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今度観てみます (ミラージュ・ドラゴン)
2014-05-31 19:04:35
昨年開催された山形映画祭にて上映された作品ですね。
確かに撮影方法としてはあまり聞いたことがない形です。

こういった作品は目にしたり耳にしたりする機会が少ないので(宣伝や告知という意味で)、そういう意味では本当に残念です。
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機会がありましたら (Akiko)
2014-06-02 14:09:48
機会がありましたら、ぜひご覧くださいませ。
返信する

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