グローバル債券ファンドマネージャー 鈴木 英寿
提供:株式会社FP総研
上がり続ける原油相場
世界の金融市場は「小康状態」が続いています。3月のベア・スターンズ救済以来、株式市場は回復、金利は世界的に上昇、米ドル相場も回復という流れが続いてきましたが、5月に入ってからは比較的安定的な動きとなっています。金融市場は「次の展開がどうなるのか固唾を呑んで見守っている」という感じがします。
しかしながらその中で原油価格は高騰が続いています。NY原油相場(WTI)は4月末時点では110ドルそこそこでしたが、最近では130ドルまであと一歩というところまで上昇しています。
原油はなぜここまで上がっているのか?
なぜここまで原油価格は上がっているのでしょうか?さすがにここまで上がってくると、金融市場参加者の大半は既に「謎」というしかないと見ています。説明しようと思えば、中国、インドという大国の石油消費が爆発的に増えており、今後も継続的に増えることが予想されるという「需要増加要因」、原油を採掘する設備がすぐには増やせないという「供給制約要因」、世界の資金が行き場を失い原油市場に流れ続けていると言う「投機的要因」等に分解することができます。もしかすると「世界の原油が枯渇しようとしているかもしれないという『憶測があるため』かもしれません。どの要因がどれだけ効いているのかは皆目見当がつきません。
現実に原油価格がここまで上がっても、世界経済全体としては物凄く悪いような状況にはなっていませんので、現在の価格でも正当化できるのかもしれません。原油や鉱物資源などの商品価格は株式や債券や不動産と違って、それを持っているだけでは収益を生み出しませんので、その価格が適正かどうかを図る指針がありません。従って現在の価格が適正なのかあるいは高すぎるのか、はたまたまだ安いのか、誰もわからないのというのが実情です。
このまま原油価格が上がり続けるとどうなる?
仮に現在の値段が正当化されるとしても、今後も原油価格が上昇し続ければ、確実に景気にマイナスの影響を与えそうなことは容易に想像できます。数年前のように世界の景気がどんどんこれから良くなりそうな時であれば、原油の価格が上昇することは中東産油国の「オイル・マネー」を膨らませ、これが世界の様々な分野に投資することで世界経済の成長・発展に寄与するプラス面がありました。しかしながら、世界の景気が既にピーク・アウトしたと思われる現在では、オイル・マネーにとって魅力的な投資先がなくなってきています。むしろ、どこの国でも原油価格上昇が「コスト増」になっていて景気を冷やす方向に働いています。
従って、これは日本でもそうですが、世界経済は「景気は下降しているのに原油価格高騰によりインフレは進んでいく、いわゆるスタグフレーション」的な状況になってきています。今後原油価格が一段の上昇となれば、こうした状況はさらにいっそう深刻化してくるでしょう。世界経済は現在予想されている以上に悪化し、産油国や資源産出国だけが利益を得るという状況になることは確実です。
足元では加ドルや豪ドルが好調だが・・・
さて為替市場に目を移すと、足元で加ドルや豪ドルといったいわゆる「資源国通貨」が好調です。豪ドルは金利水準が高いこともあって、ここ最近の株式市場の回復による「為替キャリー・トレードの復活」の恩恵を受けて非常に好調となっていますが、上昇のベースにあるのは商品価格が好調なことであることは疑う余地がありません。
筆者はこのまま原油を中心とした商品価格の上昇が続けば、いわゆる資源国通貨はさらにいっそう好調になると見ています。ただ、その可能性が高いのか低いのかと問われれば、それは極めて不透明と答えざるを得ない状況だというのが実情です。また、資源国通貨は意外なほどにリスクが高い状態になっているかもしれません。以下のように、もしかすると暴落の可能性もあると考えています。
仮に原油価格の上昇が続き、世界の景気がいっそう悪化したとします。さて、それでも原油価格は上昇し続けるのでしょうか?原油価格上昇の要因のひとつに「需要増加要因」がありますが、世界経済の悪化により需要は少なくとも現在考えられているよりは減ります。それでも原油は上がり続けるのでしょうか?
上がり続ける可能性はあります。行き先を失ったマネーが原油や商品市場に流れ続ける構造に変化がなければ、商品価格上昇が続く可能性はあります。率直に言ってどうなるかはもう誰にも分かりません。
確実なのは、この先「スタグフレーション」の可能性があるのであれば、株式を持っている投資家にとって商品を保有すること、あるいは資源国通貨を保有することは「リスクヘッジ」になると言うことです。株が景気減速で下がったとしても、商品や資源国通貨が上昇すれば、損失を軽減することができるからです。現在、商品価格や資源国通貨が好調なのは、ひょっとするとこうした「ヘッジ需要」によるものかもしれません。
しかしこうしたポジションにも落とし穴があります。世界の景気が冷え、結果として商品価格も資源国通貨も下げに転じたとしたら、ポジションの全てが損失となるでしょう。現在の上昇が仮に「ヘッジ需要」に基づくものであれば、商品価格や資源国通貨は「ヘッジ外し」が活発化すれば暴落する可能性もあります。
商品価格や資源国通貨の現在の状況は以上のように非常に不透明です。どちらに転ぶにせよ、かなり大きなリスクを実は背負っているという認識だけはしておくべきだと思います。