ノラならではの悲哀というか、性(さが)というか・・。
人間社会に暮らし人間の施し物に頼っているノラは、自然界(野生)の暮らしではあり得ないリスクを背負っている。事故や虐待はもとより、人間の残飯は塩分、糖分、脂肪などが必要以上に多くて病魔に侵される確率が高いからです。しかしノラは家猫と違って、病気になっても誰も面倒を見てくれない。ストレスに高血圧に腎臓病・・・、人間界でさえ現代病と言われる病魔にノラたちが対処できるはずもなく、彼らはじっと耐えるしかない。その身が朽ち果てるまで。
今年の2月に家裏に顔を出したルイは、春以降になってわが家への依存度を上げてきた。相変わらず通いではあったけど、多いときは1日に5回も6回も勝手口に顔を出す。夏には殆どわが家の周囲に陣取り、朝やってきては夕方に帰るというパターンを繰り返した。9月になると回数が減ってきたが、それでも1日に2、3回。おかわりして食べることもあった。わが家では猫用のご飯をあげているので栄養バランス的には問題ないと思うけど、いかんせん量が多かったかもしれない。わが家に入りたそうなルイに、とりあえずご飯を出して誤魔化していた。もう少しルイの健康を考えてあげるべきだった。
この夏には中に入りたいのか、家の猫たちに挨拶を繰り返したルイ
(手前窓の内側はニャー)
そのルイの訪問頻度が、今月になるとさらに減ってきた。
相変わらずの皆勤賞だが1日に1回か2回。2週間くらい前からは出したご飯を残すようになった。あの食いしん坊が? さては当家以外にもいい食事場を見つけたか。いろいろ話してみると、ノラが来ればおすそ分けを出しそうな家が当町会にも何軒かある。それに当家の出す食事がワンパターンなので飽きたとか。それでご飯を変えたり少し高級なのを出したりといろいろ試してみたけどルイの食べる量はさらに減り、先週には少し舐めるだけ、ついには匂いを嗅ぐだけで口もつけなくなった。1日の訪問回数もさらに減って、いよいよこれはどこかに鞍替えかと思うしかなかった。
まだ食べていた頃のルイの体型(1才半くらいの若猫♂です)
・・ルイの変調・・
これまでの恩を忘れないのか、それでも1日1回は顔を出す律儀なルイ。動きも随分ゆったりになって、抱き上げても抵抗しないほどになっていた。もともとルイは次のお迎え候補だし、当家の事情でレオのようにサクラ耳にするか迷っていた。静かで通いのルイにはお隣さんの苦情もない。3日ほど前のこと、相変わらず食べないルイを勝手口の上から撫でたとき、妙にお腹が左右に出ているように感じた。妻は、随分顔が細くなったと言う。おかしいな、どこかで食べてるんじゃないのかなと思った。次の日(一昨日)、ルイは夕方まで来なかった。ようやく来たルイに、休みだった妻が外に出てスープや何やらありとあらゆる物を与えてみても口もつけない。動くのも億劫そうで、何よりお腹が左右に異常なほど膨らんでいたと言う。そのときは便秘だったかくらいに思っていたが、メールで送られてきた写真を見て驚いた。これは・・・、そう、最近勉強したFIP(猫伝染性腹膜炎)の症状にそっくりだったのだ。今度来たら保護して病院に連れていく、妻にそう伝えた。
お腹が異様に膨らんだルイ:こんな姿になっていたとは・・衝撃の写真だった
昨日は自分が休みでした。朝から待っているのにルイは来ない。鳴く元気もなさそうなことを考えて、15分に1度くらいは勝手口の外を確認した。もう来ないんじゃないかと嫌な気分になった午後の2時半頃だったか、勝手口を空けるとボヤーッとルイが座っていた。そのまま抱き上げて、運び込んでケージに入れた。あれだけ毛並みが良くて毛色もきれいだったのに、薄汚れてくしゃくしゃになっていた。ガリガリに痩せてお腹だけが異様に左右に出ている。どこか他所で食べているだなんてとんでもない。ルイは、苦しくて食べれなかったのだ。このダメ保護者はまたしても大事なサインを見落としていた。一方ルイは、ケージの中で鳴きも暴れもせずに静かに休んでいた。
寒天のような大量の目やにが目を覆っていた
夕方の空いている時間を狙って病院に駆け込みました。先生は見るなり開口一番、「うーん、FIPの可能性が高いね。」 とりあえず採血して検査機関にコロナウィルスの測定をしてもらうこととした。先生からはFIPについていろいろ注意事項を聞きました。腹水が溜まる病気は他にもたくさんあるので、結果が出るまで待とうかと。そして例によってどこまでやるのかと訊いてきた。まともに調べたら相当高額になる可能性もあるし、結局FIPとなれば不治の病なので看取ってもらうしかない。ノラに対してそこまでやりますか、という確認だ。
ルイの元気な頃を知っているだけに話自体が不憫だった。でも感傷に浸っている余裕はない。ルイは目の前で苦しんでいる。腹水で内臓や肺が圧迫されて、食べられないどころか呼吸するのもしんどいはずだと先生は言う。腹水の抜き取りをお願いすると、診断が出る前に処置することに乗り気でない先生。闇雲に処置すれば途中でショック死する可能性もあると言う。すべてのリスクに対して自分が責任を持つからと、何とか先生にお願いした。実際看取るにしても、短い余生をこんな形で過ごすんじゃやり切れないだろうと思えたのです。
いざやると決まれば先生の手際はよかった。お腹の毛を剃ってエコー検査。複雑な画像を見ながら管を入れる場所を探す。腹水がしっかり出る場所でなければならないし、脂肪が詰まったり内臓に当たってもダメだ。やがて場所を決めると針を挿してシリンジで吸い始めた。黄色味を帯びたやや粘稠性の液体が吸う前から溢れ出す。蛋白が一緒に出ているのだと先生は言った。体内に残った水となけなしの栄養がどんどん出て行く。先生の心配するショック死の意味がわかった気がした。しかしルイは頑張った。結果的に1リットルの腹水を抜き取り、ルイの体重は4.6kgから3.4kgまで減った。体重の20%以上の水分を一気に抜き取ってしまうという荒業だった。
その後の処置として100ccの皮下輸液と抗生物質を注射した。自分にもわかるほど脱水症状がひどかったのです。液を抜いたり入れたり、生体の機能というのはややこしい。とりあえず呼吸は楽になったはず、食欲も出てくれればいいけどと先生は言った。しかし腹水はまた溜まってくる。どのくらいのスピードかはわからない。週末や即位の礼があって検査には1週間近くかかるかもしれない。それまでがルイの最初の峠だとも言われた。
ケージの中のルイを見守る(左から)ちび太、ニャー、チキン
昨日は家に戻ってからもルイは寝たきりで水も食べ物も口にしなかった。この先どうなるのかといろいろなことが頭を過ぎる。でも、まずはルイに楽になってもらいたい。腹水の漏れは家でも続いたが今朝には治まっていた。朝にはケージ内のトイレ砂にオシッコの小玉1個。水を少し飲んだ。食欲はありそうだが何をあげても2口くらいでピタッと止まる。食べたくてもお腹が痛いのか具合が悪いのか、保護する直前もこんな感じだったのに違いない。夕方にはシーバを数粒、ミオスープを少し飲んだ。さらに強制給餌で介護食を少し与えた。推定栄養摂取は必要量の10分の1程度。今後の食欲の回復がキーポイントだ。
わが家ではエイズの子も分け隔てなく一緒に暮らしています。でもFIPとなればそういうわけにはいかない。ルイは今のところおとなしいけど、少し元気になればケージから出たがるに違いない。FIPの余命は診断から数日の場合もあれば、長くても2ヶ月くらいらしい。まずは検査の結果を待とう。ルイには余生をできる限り楽しく暮らしてもらいたい。最後の力を振り絞ってわが家まで来てくれた、ルイの信頼に応えるためにも。
ルイは今日もとてもいい子にしています
※FIPや猫のコロナウィルスに関しては検索してみて下さい。
アニコム社監修の「猫との暮らし大百科」にある、猫の病気の頁がお勧めサイトです。