ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

梅若研能会7月公演

2017-06-30 02:42:10 | 能楽
来月…7月29日、師家の月例会「梅若研能会7月公演」にて ぬえは能『夕顔(ゆうがお)』を勤めさせて頂きます。去年 能『六浦』を勤めましたが、今回も同じ序之舞ものです。ところが『六浦』とはガラッと雰囲気が違う『夕顔』。かたや草木の精で太鼓序之舞を舞うのに対して、こちらは太鼓の入らない「大小序之舞」を舞い、そして主人公は『源氏物語』の登場人物である夕顔の上なので雰囲気が異なるのは当然なのですが、「姉妹曲」とも言うべき能『半蔀』と比べてしまうからか、重厚な本三番目鬘能という印象がある能です。

九州・豊後から石清水八幡宮を詣でるために都に上った僧(ワキ)が滞在中にあちこちの仏閣を巡るある日、五條に立ち寄ると、とある家の軒端から歌を吟ずる声が聞こえてきます。現れた若い女性(前シテ)にこの場所を尋ねると「何某(なにがし)の院」と答えます。僧は不審しますが、女は「紫式部がそう書いたのがこの場所なのでそう答えたのだが、じつは古く源融の大臣が住んだ”河原院”で、その後 光源氏が夕顔を鬼に取られて失ったでもあるのです」と教えます。さては名所に来合わせたのか、と喜ぶ僧の求めに応じて女は夕顔の上と光源氏との恋物語や、それがはかなくも夕顔が命を落としたことで破綻したことを語り、その夕顔の花は再び咲くことはないことを僧の夢の中に現れて語りましょう、と言うと姿を消してしまいます。

女が夕顔の上の霊と確信した僧はその夜、月の下に法華経を読誦して弔うと、果たして夕顔(後シテ)が現れ、自らが死に至ったことを語りますが、僧の弔いにより変成男子の望みを叶え、解脱を得て雲の中に消えてゆきます。

ある調査によると、『源氏物語』の中に登場する数多くの女性の中で、男性読者に最も人気があるのがこの 夕顔の上なのですってね。従順でナイーブ、内気な女性。。『源氏』の「帚木」巻の「雨の夜の品定め」で頭中将によって”常夏の女”と評される彼女ですが、「常夏」は「撫子」の古名で、頭中将も従順な女性と説明しています。「大和撫子」と言えば清楚な中にも気丈な女性を意味するようですが、当時はそれほど強い女性を意味しているわけではなかったようです。逆に女性読者の一番人気は六條御息所だそうで。。うう、このギャップが怖い。。

そんな夕顔の上ですが、源氏が逢瀬を遂げたその夜に物怪に襲われて急死してしまいます。能『夕顔』はそんな彼女の生と死を深くえぐる曲で、姉妹曲『半蔀』がひたすら純情な彼女と源氏との愛を描いて美しいのに対して、重苦しい生死の物語であるのが大きな特長でしょう。六條御息所を描くふたつの能。。『葵上』と『野宮』とが、彼女のまったく違うふたつの性格を描き分けているのと、ぬえは何かしらの因縁を感じます。

今回は土曜の昼間の公演という条件にも恵まれております。どうぞお誘い合わせの上ご来場賜りますよう、お願い申し上げます~

梅若研能会 7月公演

【日時】 2017年7月29日(土・午後2時開演)
【会場】 セルリアンタワー能楽堂 <東京・渋谷>

 仕舞 花 筐 キリ  梅若万三郎

狂言 文相撲(ふずもう)
     シテ(大名)   三宅右近
     アド(太郎冠者) 高澤祐介
     アド(坂東方の者)三宅近成

   ~~~休憩 15分~~~

能  夕 顔(ゆうがお)
前シテ(女)/後シテ(夕顔) ぬ え
ワキ(旅僧)福王和幸/間狂言(所ノ者)三宅右矩
笛 松田弘之/小鼓 幸正昭/大鼓 亀井広忠
後見 中村裕ほか/地謡 青木一郎ほか

                     (終演予定午後4時40分頃)

【入場料】 指定席6,500円 自由席5,000円 学生2,500円 学生団体1,800円
【お申込】 ぬえ宛メールにて QYJ13065@nifty.com

例によってこちらのブログで作品研究。。というか、上演曲目の考察を行いたいと考えております。併せてよろしくお願い申し上げます~~m(__)m