ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

石巻にやってまいりました(その2)

2021-12-03 08:05:48 | 能楽の心と癒しプロジェクト
もう仮設住宅も仮設商店街も解消されて ぬえたち「能楽の心と癒やしプロジェクト」の活動の場もほとんどなくなってきまして、このところはほとんど毎年3月11日の震災の日に活動するだけになってしまいましたが、この度は石巻観光協会様からお招きを受けて主催イベントに出演させて頂きました。

その名も「~復興10年石巻からありがとう~ フィナーレ i 感謝祭」です。観光協会がある旧北上川を望む堤防直下に建てられた「石巻市かわまち交流センター」通称「かわべい」がその会場で、ぬえたちプロジェクトは午後と夕方の2回の上演をさせて頂きました。

このイベントは令和3年11月27日(土)~28日(日)にかけて行われたもので、各地の物産品の販売、菓子やお酒の無料配布、そして よさこいや音楽などのパフォーマンスなど盛りだくさんの内容でした。
震災後に石巻の再生に携わったボランティアさん。。だけでなく市民も含めて買い物などで広く石巻の経済を回してくれた皆さんへの感謝を込めた、お祭りのような楽しいイベントと ぬえの目には映りました。

この場所でプロジェクトとして午後の部は屋内で能「龍田」、夕方の部は屋外の川を見下ろす堤防の上で能「猩々」を、それぞれ短縮版で上演させて頂きました。







とくに夕景の旧北上川の川面に赤く染まった空が映りこむさまを見ながら舞うことになった「猩々」は至福の時間でした。体調不良で監督の立場の寺井さんに代わって笛を吹いた寺田林太郎くんも、何度もプロジェクトの活動に参加してくれ、今回もなんと日帰りで参加頂いた太鼓の大川典良さんも、申し訳ないが上演しながらこの風景を見ることはなかったでしょう。これは舞を舞うシテ方の特権かな!

そうして夕方の部の上演が終わって着替えてから、観光協会が設けてくれた宴席にご招待頂きました。「かわべい」に隣接する物産館の「元気いちば」の2階で、ぬえは観光協会の後藤会長様の隣席という特上のお席に座らせて頂きまして、おいしいお酒とお鍋を頂き、あまつさえこのイベントの終幕を飾る花火の打上もテラスで堪能させて頂きました。

さてこの宴席の冒頭で、観光協会様より プロジェクトをはじめこのイベントに遠方から参加した団体に感謝状が贈られました!



こういう思いは純粋に嬉しいものですねー。 もちろん感謝して欲しくてプロジェクトの活動を始めたわけでもなく、震災当時は無我夢中で活動を始めて、その後東北の皆さんの優しいお心に触れるに惹かれるように、いつの間にか10年間に渡って活動を続けてきたわけで、むしろ石巻観光協会様には上演場所やその控室の提供を頂いたり、お世話になりっぱなしだったのです。それなのに、石巻のために働いてくれてありがとう、と思ってくださってくださったとは。

上演する ぬえたち能楽師の側からも、受け入れをしてくださる被災地の方々からも、どちらも「ありがとう」と言い合って、それでプロジェクトの活動は成り立ってきたんだなあ、と、このとき ぬえは実感しました。

この日に打ち上げられた花火も、「観光協会の予算が少ないもので短時間で恥ずかしい」なんてあらかじめ言われていましたし、いざ花火が打ち上げられてもテラスで感慨深く見ている ぬえの後ろでは「もっと盛大にできればなあ」「昔はもっと派手にやったけど」なんて関係者の謙遜のお言葉が聞こえていましたが、ぬえは大感激してこの花火を見ていたのでした。「ここまで来たのか!」

感謝状を受けたのは能楽師のプロジェクトだけではなく、東京の音楽とパフォーマンスの団体「できることをできるだけプロジェクト」「調布から!復興支援プロジェクト」などの団体も表彰されていました。いずれも ぬえは知らない団体ですが、それぞれの活動で石巻の復興に地道に貢献しておられたのでしょう。

こうした、ずっと支援をしてきた団体の皆さんは ぬえと同様にこの花火を感慨深く見上げたことは間違いないでしょう。支援する側もがんばったけど受け入れる側もがんばった。10年と言う月日を経て、そのお互いの心の触れ合いが、たとえ規模は小さくてもこの花火に結実して大輪の花を咲かせたのです。そしてまた、この花火が上げられた場所は、10年前にあの阿鼻叫喚の地獄が起こった場所でもある。。これを乗り越えて感謝の花火を打ち上げるところまで、石巻が復興を果たしてきたことに ぬえは感動を覚えます。



10年前、ここに来れた ぬえはじめボランティアは幸せだと思います。直接被災はしていなくても日本人なら誰でも あの日それぞれの心に重大な傷を負ってしまったのです。ぬえたちは、幸運にもその後の復興に微力ながらも携わり、今日またここまで進んで来れた石巻の人々の姿を見届けることができた。ぬえはまたこの日の事を、心に傷を負った多くの人々に伝えたいと思います。

(能の上演画像は気仙沼の米倉三喜子さんから提供頂きました)