ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

仮設住宅について

2020-05-18 13:44:13 | 能楽の心と癒しプロジェクト
ぬえたちプロジェクトの東日本大震災の被災地での活動は、能楽師有志によって能の上演をする」ことで癒やしをお届けすることにあります。それなので特別な装備や物資は必要なく、それでご厚志により頂いた募金を節約して使わせて頂くことで今日まで活動を続けてくることができました。

思えば9年間も募金だけで(最近は現地で頂いた謝礼もありますが)活動を続けて来られたのは、我ながら驚くべきことでしょう。たしか震災の翌年には他のボランティア団体から「いまだに募金で活動しているのはあなたたちだけでしょう」と驚かれた記憶が。。

活動に奉仕する能楽師有志はボランティア参加なのですべて無報酬なのは当たり前として、どうしても必要になるのが現地までの往復の交通費と宿泊費です。

交通費については当初は被災地での活動計画を示して行政から「災害派遣等従事車両証明書」というものを発行して頂くことで高速道路の料金が無料になりましたが、この制度は1年しないうちに廃止になりました。続いて高速道路の管理会社が夜間に走行すれば通行料金が半額になる、という割引制度を打ち出したのでこれを利用し、能楽師は深夜0時に集合して夜通し東北道を北上して明け方に被災地に到着、そのまま避難所や仮設住宅で活動する、なんてことをしていました。なんか、若かったなあ。。とも思う昨今。9年前ですもんね。その後この割引制度も廃止されてしまいました。

宿泊は。。ぬえたちは恵まれていたと思います。震災の年の当初は避難所となっている小学校の教室に寝袋を持ち込んで雑魚寝したり、ボランティア団体さんの事務所に泊めて頂いたり。当時は寝袋持参が当たり前でしたが、無料で泊めて頂けることが多かったのです。もっとも現地で知り合った個人ボランティアさんの中には半年間テントで寝泊まりしている、というすごい方もありましたが。その後現地の住民さんと知り合うにつれ、個人のお宅に泊めて頂いたことも。

震災から1年くらいが経過した頃から、避難所も閉鎖になり、住民さんの生活も落ち着いてきて、あいかわらずボランティア団体さんの事務所に泊めて頂くこともありましたが、段々と現地の旅館やビジネスホテルに泊まることも増えてきました。このときに頂いた募金を節約して使わせて頂くために、宿泊費はひとり1泊5千円程度まで、食費は個人負担、というルールを設けました。時々「朝食つき4,800円」なんていう旅館を発見して喜んだり。

それでも少しでも支出を節約するために、活動が決まると現地の関係者さんに無料の宿泊の心当たりがないかお願いはしてみます。そうした中、何度か仮設住宅に泊めて頂ける機会がありました。

仮設住宅は学校などの避難所が本来の役割を取り戻すために閉鎖されたあと、自治体によって建設される本格的な公営住宅ができるまでの間に被災者に一時的に提供される、文字通り「仮設の住宅」です。このため正式な名称として「応急仮設住宅」または「応急仮設団地」と入口に記されているのを多く見かけました。仮設住宅の家賃は基本的に無料ですが光熱費は自己負担、というのが一般的な形だと思います。被災者はここを足掛かりとして自立を目指すのですが、高齢などの理由で自立が不可能な場合には、その後建設されて安価な家賃に設定された「公営災害住宅」に移り住むことになり、現在では ほとんどの仮設住宅は撤去されました。

仮設住宅や公営災害住宅にもいろいろと問題はあるのですが、とりあえずそれは措いておいて。。 今回は報道などで読者のみなさんも聞く機会が多かったと思われる仮設住宅をご紹介したいと思います。

じつは、これまで仮設住宅のご紹介を控えていたのは、自治体にもよるのでしょうが、基本的にそこに部外者が宿泊することはできない決まりになっているからです。仮設住宅が自治体からの「貸与品」だからでしょう。が、これまで何回か、そこに住む住民さんのお宅に「同居する」という名目で泊めて頂いたことがあります。今はもう仮設住宅もほとんど撤去されたので、何かのご参考になればと思い、ご紹介させて頂くこととしました。



仮設住宅はご覧のようなプレハブの長屋形式の共同住宅ですが、自治体による違い、というか建設した業者の違いなのか、場所によってかなり異なった感じでした。



こちらは女川町の町営野球場に建設された仮設住宅です。たしか何かの賞を受けたはずですが、美しくて立派ですが、じつはこれは輸送用のコンテナを再利用したものです。

中心には交流スペースや仮設店舗の営業などが行われた大きなテントがあります。音楽家の坂本龍一さんの支援によって建てられたもので、「坂本龍一マルシェ」と呼ばれていました。これらの仮設住宅やマルシェも昨年に撤去されたそうです。





さてぬえたちが泊めて頂いた一般的なプレハブの仮設住宅内部はこんな感じ。場所は内緒にしておきます。入居される住民さんの家族の人数により部屋数の違いがあるそうですが、ここではふた間とキッチン、トイレ、バスルームがついていました。家電などの生活必需品も支給された物だと思います。













そして必需品といえば防災ラジオが必ず備え付けられていました。



仮設住宅といえば隣家の物音が筒抜けに聞こえるとか、結露がひどい、などとよく言われていますが、ある人が教えてくれたことによれば、もともと居心地が悪く作られているのだそうです。つまり住民さんに「こんな所から早く出たい」という気持ちを起こさせて自立を促すのだとか。。

とはいえ、いろいろな事情により自立できない方も多いわけで。。公営災害住宅の建設が遅れたこともあり、震災から9年を経た現在も、仮設住宅は完全に解消されたわけではありません。もともと仮設住宅というものは災害救助法の規定により2年間しか供用しないことになっていて、事情による特例措置として1年間の延長が認められることがあります。過去に阪神淡路大震災では5年まで延長された例がありますが、東日本大震災ではそれを遥かに超えた長期間の延長が繰り返されたのですね。ちなみに宮城県では昨年6月に10年目の「特定延長」が国から認められました。

能楽の心と癒しプロジェクト 第43~52次被災地支援活動 収支報告書 (2017年05月03日~2020年03月11日)

2020-05-15 17:17:13 | 能楽の心と癒しプロジェクト


能楽の心と癒しプロジェクト
第43~52次被災地支援活動 収支報告書
(2017年05月03日~2020年03月11日)


 〔決算報告〕

◎第43次(2017.05.03横山不動尊春まつり)

 【収入の部】
     前回活動繰越金       129,421円
     横山不動尊様より         20,000円       収入計  149,421円

 【支出の部】
  〈活動費〉 23,410円
    ◎交通費        23,410円
     (高速バス             8,830円)
     (新幹線              7,200円)
     (新幹線              7,380円)     支出計   49,714円

 【収支差引残額】                        残額    126,011円

◎第44次(2017.08.11 「3.11アートファンタジア能楽と花アート」石巻小学校)

 【収入の部】
     前回活動繰越金       126,011円
                                 収入計  126,011円

 【支出の部】
  〈活動費〉 10,000円
    ◎交通費        10,000円
     (ガソリン代            5,000円)
     (ガソリン代            2,000円)
     (ガソリン代            3,000円)     支出計   10,000円
 【収支差引残額】                        残額    116,011円

◎第45次(2017.10.21 「悟道の里山開所式前祭」)

 【収入の部】
     前回活動繰越金       116,011円
     寄付金(栗林祐輔氏より)     10,000円       収入計  126,011円

 【支出の部】
 ※主催者実施公演のため支出なし

 【収支差引残額】                        残額    126,011円

◎第46次(2018.01.28~29 気仙沼市浪板コミュニティセンター・歌津老人福祉センター)

 【収入の部】
     前回活動繰越金       126,011円
                                 収入計  126,011円

 【支出の部】
  〈活動費〉 6,804円
    ◎交通費        6,804円
     (ガソリン代            6,804円)     支出計    6,804円

 【収支差引残額】                        残額    119,207円
◎第47次(2018.03.11 名取市・閖上日和山)

 【収入の部】
     前回活動繰越金       119,207円
                                 収入計  119,207円

 【支出の部】
  〈活動費〉 5,980円
    ◎宿泊費        5,980円
     (宿泊費             5,980円)      支出計    5,980円

 【収支差引残額】                        残額    113,227円

◎第48次(2017.08.11~13 大槌町安渡公民館・気仙沼市羽田神社・石巻市洞源院・第二和香園)

 【収入の部】
     前回活動繰越金       113,227円
     寄付金(洞源院様より       20,000円)
     寄付金(第二和香園様より      5,000円)
                                 収入計  138,227円

 【支出の部】
  〈活動費〉 42,893円
    ◎交通費        31,553円
     (高速代              2,940円)
     (高速代              1,370円)
     (ガソリン代            7,300円)
     (ガソリン代            5,000円)
     (ガソリン代            8,000円)
     (ガソリン代            5,183円)
     (駐車代               840円)
     (駐車代               920円)
    ◎宿泊費        11,340円
     (宿泊費              11,340円)     支出計   42,893円

 【収支差引残額】                        残額    95,334円

◎第49次(2018.11.01 石巻たから保育園・せんだいメディアテーク)

 【収入の部】
     前回活動繰越金       95,334円
     寄付金(石巻ひがし保育園様ほか  50,000円)
     寄付金(佐久間智子様より     10,000円)      収入計  155,334円

 【支出の部】
  〈活動費〉 1,800円
    ◎交通費        1,800円
     (駐車代               800円)
     (駐車代              1,000円)     支出計    1,800円

 【収支差引残額】                        残額    153,534円

◎第50次(2019.03.11 閖上湊神社・閖上中央集会所・石巻鹿島御児神社)

 【収入の部】
     前回活動繰越金       153,534円
     寄付金(鹿島御児神社様より)   10,000円
                                 収入計  163,534円

 【支出の部】
  〈活動費〉 7,562円
    ◎交通費        4,000円
     (ガソリン代            4,010円)
    ◎会場費        1,500円
     (集会所使用料           1,500円)
    ◎雑費         2,062円
     (出演者弁当代           2,062円)     支出計    7,562円

 【収支差引残額】                        残額    155,972円

◎第51次(2020.03.11 鹿島御児神社)

 【収入の部】
     前回活動繰越金       155,972円
     寄付金(鹿島御児神社様より    10,000円)
     寄付金(佐藤栄一様より       5,000円)
                                 収入計  170,972円

 【支出の部】
  〈活動費〉 83,300円
    ◎交通費        64,562円
     (高速代              7,640円)
     (高速代              15,400円)
     (高速代              8,070円)
     (ガソリン代            6,460円)
     (ガソリン代            3,632円)
     (ガソリン代            1,900円)
     (ガソリン代            7,440円)
     (ガソリン代            3,000円)
     (ガソリン代            4,223円)
     (ガソリン代            6,797円)
    ◎宿泊費        15,840円
     (宿泊費              15,840円)
    ◎雑費         2,898円
     (出演者弁当代           2,650円)
     (ガムテープ             248円)     支出計   83,300円

 【収支差引残額】                        残額    87,672円



・プロジェクトの活動にかかる支出については節約を旨とし、おおよそ次のような基準を設けている。①高速道路の利用については体力や公演スケジュールも鑑みるが、休日・深夜割引を利用するなど工夫する。②宿泊は旅館等の宿泊施設を利用する場合はおおよそ1人1泊5,000円程度までに収める。③食費については旅行がなくても掛かる費用であること、酒食の区別がつきにくいため、宿泊プランに朝食が組み込まれている場合、楽屋弁当を除いて参加者の自費負担とする。
・収支差額は今後の活動費用として活用し、支出明細を明らかにする。
・プロジェクトでは従来活動資金を募金に頼っていたが、近来は一般からの募金は皆無で、その代わりに上演したことにより住民さんなどから出演者へ謝礼を頂く機会が増えた。その場合は合議によりその一部、または全部を活動資金に編入している。

 【募金振込先】三菱東京UFJ銀行 練馬光が丘支店(店番622)普通預金 口座番号 0056264
名義 ノウガクプロジエクト ハツタタツヤ

  令和2年5月12日              「能楽の心と癒しプロジェクト」
                               代表   八田 達弥
                             (住所)
                             (電話番号)
                                    E-mail: QYJ13065@nifty.com
【領収証添付欄】



















※ただ今緊急事態宣言のため自宅へ戻れず、スキャナーが手元にないため領収証は携帯画像にて失礼します。
 帰宅したら領収書欄をスキャンした画像と入れ替えます。

閖上での活動と石巻311奉納

2020-05-11 18:38:22 | 能楽の心と癒しプロジェクト
引き続きまして遅ればせのご報告です。。

■2019年

去年の3月11日の震災の日の奉納は、前日10日に名取市の閖上地区での神社への奉納と、新築なった公民館でのワークショップ上演から始まりました。

閖上での活動は2015年の旧閖上中学校(撤去済み)と、2018年3月11日の日和山での奉納に引き続き3回目になります。その2度目の活動のとき偶然現地で出会った新宮夕海さんのご紹介でこちらでの活動が実現しました。

新宮さんは能楽写真家なのですが、この日が初対面でした。新宮さんは閖上と岩手県の大槌町との支援活動を続けておられるそうで、ぬえは新宮さん自身もその活動もこの日に初めてそれを知りましたが、一方新宮さんも我々の活動をご存じなかったようです。狭い能楽界ですが、ご縁がないと知らないこともあるんですね~。しかし新宮さんはその後積極的に ぬえらプロジェクトの活動をサポートくださり、その年の夏には新宮さんのコーディネートで大槌町での初めての活動が実現しましたし、この3月11日の閖上での活動もすべて新宮さんにご尽力頂いて実現したものです。(この記事の画像はすべて新宮さんに撮影・提供いただいた物です)

この日の閖上でまず行ったのは閖上湊神社での奉納舞囃子「高砂」でした。海の近くにあった閖上地区は震災でかなりひどい被害を受けたのですが、やや内陸に近い区域のかさ上げした地域に8年かけて街を再建したばかりで、ようやく自治会が発足したところで、湊神社も移転されてここに鎮座しました。こういうことを「高台移転」と表現しますが、当地の方々によればそうではなく「現地再建」と言ってほしいとのこと。なるほど、何度も閖上を訪れている ぬえが見ても復興工事のために行くたびに街並みから道路も何もかも変わってはいますが、新しく築かれた閖上の住宅街はかつてのその場所と ほんの少ししか移動していません。「高台移転」と「現地再建」。同じく再建ではありながら、現地の住民さんにとっては故郷を捨てたのではなく踏みとどまったのだ、という自負があり、この2つの言葉は大きな違いです。



さて湊神社ですが、ご神体が鎮座するのは。。「祠」というべき小さなものでした。しかし、それに不釣り合いな(失礼。。)ほどの大きな鳥居と神輿蔵に圧倒されます。

事情を伺ってさらにびっくり。なんとこの鳥居は伊勢神宮から寄贈されたものだそうです(!)。数年前の伊勢神宮の式年遷宮のとき取り替えられた旧鳥居が贈られたとのことで、それではもう10年以上前、ぬえが「道成寺」を披くときに参拝した、そのときの鳥居との再会なのですね。。

また巨大な神輿蔵も、内部をのぞき見ると、なるほどこれほどの蔵がなければ収蔵できない大きなお神輿が。これも寄贈されたものだそうです。神社の再建はまだ途上で、これから本殿や社務所の造営が計画されています。





神前での舞囃子は砂利の上で難しかったですが、ぬえたちは奉納のときは遠方への旅行で荷物になっても必ず着用する裃で「高砂」を奉納させて頂きました。

午後からは新築の公民館での上演+ワークショップです。準備を整えて海辺の物産商店街「メイプル館」で海鮮丼の昼食。



自治会が発足してその活動拠点となる公民館も新築なったばかりで、とても明るい建物でした。ここでは能「羽衣」を上演してから恒例の住民さんの体験教室を行いました。









終了後、閖上地区の震災のメモリアル施設「閖上の記憶」に立ち寄りました。以前は違う場所にありましたが、メイプル館の奥まった場所に移転していました。撮影することはとてもできなかったけれど、児童が作った紙粘土細工による。。彼らが目撃した津波の様子の再現に心打たれました。伺えば心理学の専門家の指導で、子どもたちには津波の被害だけでなく、震災前の街並みや、また彼らが思い描く未来の故郷の模型も同時に作らせているそうで、そうして心のケアを図っておられるそうです。



こうして閖上での活動を終え、新宮さんとここにてお別れし、ぬえたちは石巻に向かいました。

翌日の3.11は大雨。。
石巻の日和山の鹿島御児神社さまでの奉納は社務所内で行うこととなりました。
このときから8年前、震災の年の夏にプロジェクトは鹿島御児神社さまで奉納させて頂きたい旨お願いしたことがありますが、この時はとても受け入れができる状況ではない、とお断りされてしまいました。

それから月日は流れ、あるとき ぬえはなぜか思い立って鹿島御児神社さまにふたたび奉納のお願いをしたところ、神社さまもかつて奉納をお断りされた事をずっと気にしておられた、とのことで、この度の奉納を快諾頂きました。

加えてこの前年にワキ方宝生流の吉田祐一氏と親しく話す機会があって、なんと氏が石巻の荻浦のご出身で、震災当時荻浦のご両親は避難されて無事だったながら、ご実家は津波により全壊の被害を受けられたことを知りました。氏も我々プロジェクトが震災以来ずっと石巻をはじめ被災した各地で活動していることをご存じなく、ぜひ協力したいと仰って頂いて、この日の鹿島御児神社さまでの奉納ではじめてプロジェクトの活動に参加されたのでした。

さらにはこれまで何度となくプロジェクトの活動に参加くださっている太鼓の大川典良氏もこの日の奉納から参加。前日の閖上での活動では笛の寺井宏明さんと二人きりだったのが、3.11奉納では一気に能楽師4人が参加して賑やかになりました。。のに大雨。

そんなわけで翌年になる今年(2020年)の3.11は鹿島御児神社さまにお願いして再度の奉納を、同じメンバーで行いました。今回は快晴!

石巻・洞源院さまにて奉納・仙台シンポジウムへの出演

2020-05-06 12:27:08 | 能楽の心と癒しプロジェクト
遅ればせながらまだご紹介を漏らしていた過去のプロジェクトの活動をご報告させて頂きます。

■2018年

一昨年(2018年)の夏のお盆のころ、大槌町と気仙沼での活動のあと、ご縁あって石巻市の洞源院さまで奉納させて頂く機会がありました。

洞源院さまは石巻市の中心部からは少し離れた、牡鹿半島の付け根部分、伊達政宗によって派遣された支倉常長らの慶長遣欧使節を記念したサン・ファン館のすぐ上の山の上に位置する曹洞宗のお寺です。



震災のときには近隣の住民さんおよそ400名が避難し、臨時の避難所となりました。小野崎秀通住職さまと奥様の美紀さんは避難者と協力し合って役割分担をし、その年の夏に避難所を解散するまでをみなさんが団結して乗り切ったのだそうです。

特筆されるのは奥様の美紀さんが避難者を勇気づけたり、ときにはたしなめたりされたお言葉、それから避難所生活の中で生まれた詩が、それぞれ本となって出版され、美紀さんご本人が朗読したCDも誕生したことです。奉納のあとご住職から本とCDを頂いた ぬえは帰途の車中でCDを聞いたのですが、本当に大変な状況だったのだな、と心に響きました。

ご本人の承諾を頂きました(2年前に…)ので、上梓された美紀さんの詩集「あったかい手」の一部をご紹介させて頂きます。

夕食の時

暗がりから差し出される両手

今まで会ったことのない人の、汚れた手
今まで会ったことのない人の「傷だらけの手」
ローソクの明かりが 照らしている

「………」

「いいんですよ。
がれきをかき分け、来られるなら
明日もお寺に 来てください
食事は九時と四時ですよ」

「………」

差し出された片方の手は
流れる涙を拭ってた

これがご縁で同じ年の秋ににはお寺が経営される幼稚園「たから保育園」ほかの園児たちをお相手に楽しいワークショップも行わせて頂き、このときは能「鶴亀」をモチーフにしたお遊戯のような出し物を作りまして、保育園の先生に にわかにお稽古をつけてシテの皇帝役を勤めて頂き、大勢の子どもたちは鶴さんと亀さんの役を即興で舞い遊ぶというものでした。楽しかった~。

洞源院さまでのお盆の法要に合わせた奉納の様子は画像がありませんので、宣伝チラシのみご報告させて頂きます。



11月1日には仙台の「せんだいメディアテーク」のロビーで開かれた「3・11の向こう側 仙台シンポジウム」の中で能「羽衣」を上演させて頂きました。

こちらは2017年に「石巻小学校」で行われた「能楽と花アート」の主催者である「花とアートで再生復興プロジェクト委員会」さまの主催によるもので、竹村真一さん、C.W.ニコルさんら豪華な顔ぶれの登壇者が討議する催しに ぬえたちが花を添えた形です。



主催者のリーダーである佐久間智子さんは敏腕の才女で、この後も本年の1月になんと松島の国宝・瑞巌寺で大規模なお茶会を催され、ぬえも仕舞で出演させて頂きました。



この時はいろいろアクシデントがあって、ビジュアル面でお客様を楽しませる役割は ぬえ一人だけになってしまったのですが、前日夜のミーティングからようやく参加した ぬえの意見やスタッフさんの要望にも佐久間さんは耳を傾けるし、当日も桜井松島町長、熊谷利府町長さまなどの重要な参加者や、芸術面での後援を得たイタリアのアーティスト団体「ピストレット財団」など重要な関係者の接待もありながら終始落ち着いて仕事をこなしていたお姿が印象的で、今後も被災地支援活動でご協力させて頂くつもりでおります。

今回は上演の画像がなくて申し訳ありません。。

ハマグリ、拾いました

2020-05-03 19:09:38 | 雑談
新型コロナウイルス問題で大変な昨今で、ついには能楽師の仲間を失うという最悪な結果になってしまいました。ぬえ個人としても(能楽師はみんな同じ状況ですが)、3月11日の東日本大震災の追悼のために石巻で奉納したのが最後の舞台活動になりまして、その後公演も教室もすべて休止となり、もうかれこれ1月半、何も仕事がなくなってしまいました。

3月に最初に公演が中止となって、教室も少しずつ停止になってきたので ぬえは父が遺してくれた茨城県の海のそばの家に、まあ最初は休養のつもりで滞在したのですが、その後政府から「緊急事態宣言」が出されたため東京に戻ることができず、家族とも離れてずっと一人で過ごしています。

梅が咲き、梅が散り。桜が咲き、桜が散り。いまはツツジが咲き始めました。何もすることがない。。

毎朝5時に海までジョギングをして、風がない午後には やはり海辺の堤防の上で本を読んだり(でも今日完読したのは「源平盛衰記」だったりするのが。。職業病)、あとは趣味のギターの練習に勤しんでいます。日課といえばこんなものですが。。

こんな事を書くと、なんだか優雅な休日のようですが、2カ月も能から離れるなんて事は ぬえも能楽師になって初めての経験で、精神的には少々追い詰められた状態でした。世間ではもっと苦しい状態の人がたくさんいると思いますが。。

それにしても田舎にいると、東京の感染者の増大は本当に恐ろしく思えます。ぬえ自身もそう思うけれど当地でもご近所さんからは「まさか東京に行かないよね?」と言われるし、先日車に給油したガソリンスタンドでは「。。今日こちらに来たんですか?」と尋ねられました。都内のナンバーの車だったからでしょう。それでも今日(5月3日)は海辺には子どもさんを連れた家族とか、外国人とか、普段こちらで見かけないような人々20名以上が遊んでいました。。

ちょっと情緒不安定でもあった ぬえですが、噂の「リモート稽古」もようやく始まりました。若い方少々だけですが、それでも新しい生徒さんもいらして、こちらはもう3日連続のお稽古ができています。一昨日には個人事業主対象の「持続化給付金」の申請が開始されましたが、盟友の寺井宏明さんから懇切丁寧にアドバイスを頂いて初日の午前中に申請を完了できました。

ああ、これから少しは好転するかも。と思い始めたら、毎朝のジョギングで浜辺でハマグリを拾いました!!



いや、ウワサには聞いていたのです。この浜辺でハマグリが打ち上げられて、早朝に行けばそれを拾うことができると。たしかに海岸にはハマグリの貝殻がたくさんありますが。。生きたハマグリが拾えるとは! そこでかれこれ1カ月、毎朝ジョギングがてら探すわけですが。。やはり見つけるにはコツもあるらしく、なかなか釣果? には恵まれず。それが昨日、とうとうハマグリをゲットしました! 貝の色は黒くて見栄えはあまりなかったですが、砂抜きをして焼き蛤にして美味しく頂きましたー。



あとは。。仙台でも2月にゲットしたアルコール消毒液を、当地でこまめに探したら、田舎だからかついにこちらもゲット! これは師匠に送ることに致しました。

それから鯉のぼり! 茨城県は鯉のぼりを派手に揚げる風習がありますが、それにあやかったのか、父が初孫を喜んで買った大きな鯉のぼりをこの家に残してありまして、ヒマを持て余して10数年ぶりに揚げてみました。ご近所さんも大喜び。



ああ、「緊急事態宣言」も延長されそうだし、5月いっぱい東京に帰れることはないでしょう。ずっと会えていない伊豆の子どもたちもどうしてるかな。。早く事態が終息して、元の生活に戻れることを祈っております。

幸い、かな。ぬえにとっては事務作業をまとめて行う良い機会かもしれません。こちらのブログも放置しっぱなしでしたが、東北の被災地支援活動など、ずいぶん長くご報告をしていないのを、これから取り戻していこうと考えております。

やはり時間を持て余しておられる方も、この機会に「リモート稽古」をなさってみては如何でしょうか! お好きな時間にいつでもお相手できますゆえ。。