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イスラム近代化を思想面から解く優れた手引き

2007-02-16 00:24:15 | 中東関連
八木久美子「マフフーズ・文学・イスラム --エジプト知性の
閃き」2006年の紹介、個人的評。大変読み応えのある本であっ
た。冒頭から余談であるが、日本とエジプトのある比較に大変
興味を覚えた。エジプトも19世紀半ばに、鉄道やスエズ運河開
通などで近代化に乗り出していて、日本の明治維新と相前後
していた。しかし、この二つの国で始まった近代化の結果は
大きく異なるものとなっている。日本がアジア唯一の先進国
となったのに対し、エジプトはうまく進まず植民地支配が進
行する。エジプト人は、日本が西欧列強の介入を避けること
ができ、近代化に見事に成功したのに、エジプトはなぜでき
なかったのか、としばしば口にするという(p. 11)。この
比較は大変興味があり、考えてみれば明治維新(1868)が極め
て時間的に近いことに気づいたのであった。

マフフーズは、エジプトを始めイスラム界の思想・制度上の
近代化を目指した知性の典型として、極めて重要な人物であ
る。時代や体制の変化に対応しながら、時に沈黙し、時に寓
話化しながら、マフフーズの思想・姿勢が進化していく様を
よく分析し追跡している。マフフーズは常に悩み、探求した
人物であった。私はこの書を読むことによって、エジプトの
みならずイスラム界が経てきた時代と現在かかえる問題をよ
く理解できるようになったと感じている。88年にノーベル賞
を受けたマフフーズは確かに重要な人物である。

「ハーン・アル=ハリーリー」という作品の中で、疑うこと
を知らない少年の信仰対象が、実はモスク内にあってもそれ
が象徴でしかないことを知って、少年の世界観、価値観が根
底から覆り、激しい衝撃を受けた様が描かれている(p. 154,
155)。科学に魅せられたマフフーズはイスラム教を理性的に
とらえるに至るが、イスラムを否定することなくむしろその
中に留まって答えを求めようとし、スーフィズムに答えを見
いだすに至る。スーフィズムとは制度化されたイスラム教で
はなく、より普遍的な愛、理想、社会正義を求める、修行を
へた個人対神の関係を指す(預言者的、理念的な)ものとし
てとらえられている。

私は八木久美子のこの書によって、イスラム世界の理解にお
いて大きな収穫を得たと感じている。ハーバード大学に提出
された博士論文を日本語に翻訳された労と意義を高く評価し
たい。


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