何処にか我は宿らむ高島の勝野(かちぬ)の原にこの日暮れなば
高市黒人 万葉集より
*
近江の高島郡の勝野原野まで来て、この日が暮れた。この後、おれは何処に宿を見出そうか。宿にするようなところは見当たらない。闇が深くなると気が焦る。なければ野宿をするしかない。
*
万葉の時代に旅館ホテルはあっただろうか。ほとんどなかっただろう。なくてもやはり行くべきところがあれば、行かなければならない。旅に出れば日が暮れる。日が暮れたら寒くなる。作者は高貴の身分。一人ではあるまい。供の物も連れているだろう。牛車だろうか。駒に乗って狩りに出たのだろうか。歌からは読み取れない。
*
わたしの今日も、日が暮れた。といっても、何処へも行っていないから、宿を探す必要はない。それでも日暮れが寂しくもある。死んで此処を去って彼の地に向かって行けば、日が毎日暮れて行くだろう。もう此処へは戻って来れない旅である。宿る宿はあるのだろうか。