「おしっこが出る」
薬王華蔵
おしっこが出る/おしっこが出る出る/管理者のわたしを飛び出して行っても/恐くないらしい
ここは野っ原/野っ原にすすすっと消えて/元の元素に戻って行った/無有恐怖(むうくふ)/恐いことなんてないんだ
空の空/この地球上では/すべては爽やかに始まって/爽やかに終わるのだ/いやああ/どうだと言わんばかりだ
「おしっこが出る」
薬王華蔵
おしっこが出る/おしっこが出る出る/管理者のわたしを飛び出して行っても/恐くないらしい
ここは野っ原/野っ原にすすすっと消えて/元の元素に戻って行った/無有恐怖(むうくふ)/恐いことなんてないんだ
空の空/この地球上では/すべては爽やかに始まって/爽やかに終わるのだ/いやああ/どうだと言わんばかりだ
ショートショート「賽の河原」
薬王華蔵
ほほう/ほほう/ほほう/するとあなたは悔いてなんかいないんですね
賽の河原に来たことを悔いていないんですね
*
親鸞聖人は「地獄は一定住処(すみか)ぞかし」と仰せになられた/どれだけでも地獄を住処にしてよい、と
聖人は阿弥陀仏の信仰を得ていた/それを有り難いと思っていた/その有り難い信仰があれば/地獄は意味を持たなかった
悔いてなんかいなかった/悔いるなんてとんでもないことだった/いただいた信仰は/その真反対にあった
賽の河原は望むところであった/賽の河原も/それもいただいた喜びだった/すべてが歓喜の中にあった/すべての中には賽の河原も含まれていたのだから
*
ほほう/ほほう/ほうほう/梟が鳴いた
詩「これまでは全部正解」
薬王華蔵
飛び乗ったらいいさ/なんにも考えないで/このバスに飛び乗ったらいいさ/バスの運転手が僕に言った
バスの行き先は/「地球行き」と書いてあった/僕は何にも考えないで/何も持たずにバスに飛び乗った
それで正解だった/全部正解だった/美しい地球だった/僕は此処を愛した/1から10まで讃美するだけでよかった
帰りのバスの運転手もいっしょかもしれない/だったら/一言彼に言おう。「ありがとう/これまで全部正解だったよ」と
五行の詩 「蓮の池まで」
薬王華蔵
そんなにおっとうが好きか?
おお、そんなにもおっとうが好きだよ
じゃ、背中に乗れ
これから蓮を見に連れて行こう
蓮の池まで酒飲みおっとうはよたよた歩いた
わたしの詩 「髭面(ひげづら)おっとうは」
薬王華蔵
旨いと言へ
旨いと言へ
どうだ旨いか
おっとうのこしらえただご汁は旨いか
うまああああい
じゃ嬉しいと言へ
じゃ嬉しいと言へ
どうだ嬉しいだろう
うれしいいいいいっ
こうやって髭面(ひげづら)おっとうは
いつもいつも幼いこどもに強制した
うまあああああいとうれしいいいいっを強制した
旨いと嬉しいがとうとう70年続くことになった
大人のメルヘン「春の日の拍手」
薬王華蔵
1
嬉しくない日にしたら/カレンダーに/×印をつけてくださいな
はーい/そうします
嬉しい日にしたら/カレンダーに/○印をつけてくださいな
はーい/そうします
2
「はーい/そうします」氏は/そうしました/一ヶ月がたちました
そうしたら?
そうしたら/一ヶ月全部のカレンダーが/○印で埋まってしまいました
拍手拍手拍手です/よね
3
「はーい/そうします」氏に/そうするように勧めた声の持ち主は/誰だったんでしょう?
残念ながらそれは分かっていません/表に出て来て/名前を言わないから/誰も分からないのです
4
「はーい/そうします」氏が/立派だったからでしょうか?
いい日にしたのは/彼でしょうか?
それをそうしようとしたのは/その通り/彼かもしれません
5
春の日が静かに暮れていきました/ハクモクレンの花が/彼の庭先に白い蕾をつけだしました/たくさんたくさんたくさんの白い蕾です
「はーい/そうします」氏が/それを眺めてうっとりとしていたことも事実です
合唱曲「歌/歌ってよ」
薬王華蔵
歌/歌ってよ
歌/歌ってよ
歌/歌ってよ
歌/歌ってよ
歌/歌ってよ
五回目でやっと/風が/マダムバタフライの歌を/歌い出しました/ソプラノでした
リクエストしたのは誰?
リクエストをしたのは/そこにいたみんなみんなみんなです
だからリクエストが/そのまま合唱曲になっていました
歌/歌ってよ
歌/歌ってよ
歌/歌ってよ
歌/歌ってよ
歌/歌ってよ
次は野原が歌い出しました/こんどはリゴレットの歌でした/バリトンでした
楽しい楽しい春の日になりました
わたしの書いたメルヘン「草原のいきものたち」
薬王華蔵
元気にしてくれるものばかりじゃないか/元気にしてくれるものばかりだから/こうやってみんなみんな/元気にしておられるじゃないか
象さんが言いました/するとそれを聞いていたキリンさんが/長い長い首を折って肯きました/キリンさんの長い長い首を見ていたライオンさんが/そうだそうだそうだと吠えました
春でした/草原が春になりました/草も木も青々となりました/花が咲き出しました/小鳥がそこへ来て鳴きました/風が吹き渡りました/大空が西から東まで広がりました
詩を売りに行って来ようかな。大根の尻尾を切って、それを筆にして、墨を擦って、大きなお習字紙に、お習字にした詩を。お小遣いが稼げるかな?
お値段は? 材料費は大きなお習字紙だけ。100円ぽっちですんでいる。100円だと10詩が売れたとしても、1000円だ。儲けにはならないなあ。
大根の尻尾は捨ててあった分だから無料。筆と硯と墨は、こどもたちが昔々に使って、もう使われなくなっていたもの。
しかし、売りに行くったって、何処へ行けばいいのだろう? 何処にお習字用紙を広げておけばいいのだろう? どう言って買ってくれる人を呼び込めばいいのだろう?
これを読めばあなたは元気になりますよ、って叫ぶんだろうか? じゃ、読んだだけで買ってはくれないだろう。元気になって去って行くだけだろう。
ふふ、ふふふ、何処でどう売ろうとしたって、買ってくれる人なんていないだろうな、絶対に。
わたしの詩「いっぱいいっぱいもらった」
薬王華蔵
100幸福も1000幸福も/10000幸福も/100000幸福も/いっぱいいっぱいもらった/十分/十分/十分もらった
100日も1000日も/10000日も/100000日も/いっぱいいっぱいもらった/十分/十分/十分もらった
100景色も1000景色も/10000景色も100000景色も/それも/いっぱいいっぱいもらった/十分/十分/十分もらった
もらったもので/あふれている/もらったもので/あふれている/そのたんびに/わたしは/わたしを大きくしなければならなかったから/いまではわたしは大空になっているしかない