湯を浴びて来ました。あたたまりました。ここは温泉です。こんやは此処に泊めてもらうことにしました。7階のシングルルームから、山々が見えます。空はどんよりして、曇っています。夕食まで時間があります。
もう雨は降っていません。降っていませんが、夕暮れ時のように何処も此処も暗くなっています。
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やっぱり暗いよりは明るいのがいい。明るいのがいいなあ。
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といっても、しようがない。明かりを付けて明るくするしかない。
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蛍は器用だ。暗い闇を飛ぶ。お尻にライトを付けて飛ぶ。お爺さんは不器用だから、とてもそんな真似はできない。
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もうすぐお爺さんは死にます。死後は、暗いのかな? それとも明るいのかな? お天道様がいて明るくして下さっているのかな?
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明るくして下さっていないと、見えないよね。何処にいるのかも分からないよね。何処に向かって行けばいいのかも分からないよね。
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此処(現世)はともかくも風景が見えているので、安心できる。安心させてくれている風景さんに感謝しなくちゃならないね。此処に留まってもいられる。
おはようございます。雨になっています。ただし1mmほどの。
一日中降るらしい。だったら、少しは畑の土が潤うかもしれない。
今日は畑には出られない。家の中にいることになる。図書館から借りてきている本がある。
童話だ。お爺さん童になってそれを読もう。
畑の白菜が巻き始めたようだ。
殺虫剤を使っていないので、虫の巣窟になる。虫は寒さを避けるために、中心へ向かう。
一株試しに抜いて調べてみたら、虫が8匹出て来た。青虫よりもでかい。
外葉を食い散らしている。網状になってしまっている。
虫を捕獲した後、包丁で真っ二つに切ってみた。白菜は、中心が黄色くなって、完成していた。
さあ虫との戦いが始まるぞ。白菜の畑の虫はどの位いるか見当もつかない。
いい一日でありました。
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お風呂に入る。湯船で目を瞑る。
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声が出る。
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一日は、ほんとうは無色透明。色づけは自由。
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一人一人が絵師。
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いい一日でしたと言うとそこで一日がいい一日に豹変する。
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いい一日が絵になる。美しい絵になる。その絵に感歎をする。
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こんなに美しい絵の中におれは今日を生きていたのか。
おれはこの風景を美しいと思う。思っている。
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それでいい。
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たとい百人から否定されても、否定が意味を持たない。持ち得ない。
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おれが美しいとすれば、風景はそこでいよいよ美しさを増し加えて行く。
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おれはただただそこでうっとりとなっている。
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こんなことでエクスタシーが起きている。軽い目眩がする。
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庭の一隅に石蕗が咲いている。黄金に咲いている。日が翳ってもそこだけが妙に明るい。
この先がどうなるかは分からないけど、今現在のこの瞬間を生きている,生きていられるって、いいよね。
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いいよね、だけにする。
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透明ガラスを通して部屋中に朝の光が差し込んでいる。
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よくないこともある。あるけれど。それは当分の間、かくれんぼをさせておく。
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「いいよね」を風船にして空気入れで空気を入れてどんどんふくらませる。
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そうやって遊ぶ。ああ、いい。ああいい。いいよね。うん、たしかに。たしかにいい。
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何がいいのか、そんなことはどうだっていいのかもしれない。
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おれが今日を生きている。窓の外には秋の青空が広がっている。
一杯の朝の味噌汁がおいしい。とろりとした里芋の味噌汁。味噌汁に浮かんでいる小葱が青い。白菜の間引き菜も加えてある。
一杯の朝の味噌汁がおいしい。湯気までおいしい。こんなにおいしく食べていいだろうかと思うほどに。
畑の高菜を間引きして、日に干して、それを一夜漬けにしてもらった。白いご飯の上にそれを載せる。これもおいしい。香りまでがおいしい。
おはようございます。2022年11月27日、日曜日。午前7時。わたしには初めての今日。
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初めて会って二度と会うことがない日、今日。与えられた一度きりの今日を、では、わたしはどう生きるか。
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よろこんでいたい。にっこりしていたい。悲しい目をしていたくない。寂しいこころに沈んでいたくない。
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今日を生きなさい、と青空が言う。あなたの好きなように今日を生きていいのですよ、と風が言う。あなたの傍でわたしも生きています、と着飾った山が言う。