餅搗きの響き山河を喜ばす
小島健
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響きが出るのは、臼と杵だろう。これでぺったんこぺったんこの音が弾く。電気で動く餅搗き機械は、ゴーゴーゴーと回るだけで、遠くへ響き渡ることはできない。過去の日本の暮らしの音は、生き生きとしていた。活動が大っぴらだった。
臼は木製だったり石製だったりする。杵はもちろん木製だ。一人が杵を振り上げて餅を搗くこともあるが、炊き上げた餅米が冷えてはいけないから、掛け声を掛けながら数人で搗くことが多かった。杵を振り上げてもいいところだから、たいがいは野外でだった。
数軒が集まっていっしょに搗くこともあった。大勢の男達が代わりばんこに搗いた。力仕事だから、一人だけで一臼を搗くことは難しい。新しく入れ替わった人は力強いので、響きがそれだけ高かった。逞しい男達の力強い響きがした。それが山河に谺した。誠実に暮らしている人間たちの、暮らしの営みを聞いて、山河が歓喜した。
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山河はいつもは歓喜しないはずなのに、こういうときには遠慮せずに歓喜を表に出した。人間たちの歓喜の仲間に入りたがった。餅を搗く男達の掛け声が音頭を取った。
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小島健は1946年新潟県の生まれ。