久々の読書ネタ。
以前から書こうと思っていて、なかなか書けなかったこの一冊。
「約束の大地」角田房子 著 1977年
かなり前に出版された本ですが、内容は登場人物の名前こそ変えてありますが、主人公以外はほとんど実在の人物が生々と描かれています。
主人公の青年は日本で様々な挫折を経験し、故郷を追われるようにアマゾンに移民としてやってきます。
アマゾンに腰を落ち着けてからは 持ち前の研究心もあり、コツコツと「ジュート栽培」の研究に打ち込み 成果を上げます。
しかし 私生活では恵まれず、日本から伴った子供たち3人は 長男長女がそれぞれ出奔、次男は世話をする人があって勉学を続けるが、苦労してブラジルで子供たちを育ててきた両親を顧みようとしなくなってしまう。
大方のアマゾン移民の人たちがそうであったように、日本から遠く離れた土地で人間関係に悩み、子育てに悩み、慣れない農作業に悩み、様々な工夫と努力を重ねつつも 淡々と生きていった人たちの姿が等身大の姿で描かれています。
恐らく現在の日本人の人たちがこれを読んでも決して「等身大」とは思えないかもしれませんが、色々な方の話を聞くと、実際にはこの小説よりも もっともっと厳しい生活がそこにはあったのです。
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今年はアマゾン移民90周年ということで アマゾン各地で祝賀の式典が催されました。
アマゾンへの入植はパラ州トメアス入植地が最初でしたが、はじめは移民の人たちはマラリアなどの風土病に加え栽培するべき作物にも恵まれず、ずいぶん苦しい思いをしたと聞きます。
アマゾン移民が注目されるのは やはりアマゾン川流域の「ジュート栽培」とトメアス入植地の「胡椒栽培」でしょう。
特に偶然から「新種」を発見して 飛躍的に発展した「ジュート栽培」は現在のアマゾンにおける日系人社会の基礎を作ったといっても良いのではないかと思います。
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主人公の青年は、機会があって訪れたパリンチンスで かつてのアマゾニア産業研究所の朽ち果てた街並みの中で、昔 そこにたくさんの倉庫が並び 搬入されたジュートが山のように積み重ねられている光景を思い浮かべます。
そこに確かにあったはずのものが 朽ち果てていく姿を、自分の姿と重ねます。
彼は 病死した妻を 名前を刻まぬ小さな墓石の下に葬り、やがては自分もそこに葬られ アマゾンの土となっていくことを淡々と語ります。
彼のように淡々と生きて、そして静かにアマゾンの土となって行った人たちが たくさんいるのでしょう。
そんな「ごく普通に生きた移民の一人」である主人公が、表舞台で活躍した人たちを支えていったという物語の作りが、かなり昔の小説でありながら 何度読んでも飽きないものにしているのだと思います。