「大逆事件」関係の詩 (2)
千九百十一年一月二十三日 佐藤春夫
大石誠之助は殺されたり
げに厳粛な多数者の規約を
裏切る者は殺されるべきかな
死を賭して遊戯を思ひ
民族の歴史を知らず
日本人ならざる者
愚かなる者は殺されたり
「偽より出でし真実なり」と
絞首台上のその一語その愚を極む
われの郷里は紀州新宮
かれの郷里もわれの町
聞く、かれの郷里にして、われが郷里なる
紀州新宮の町は驚懼せりと
うべさかしかる商人の町は歎かん
町民は慎めよ
教師等は国の歴史を更にまた説けよ
慶応在学中で19歳だった佐藤春夫は、同郷で親戚付き合い同様だった大石誠之助処刑の号外を読み、この詩を一晩で書き上げて「スバル」に発表したという。
当局の目をくらますために反語的内容とし、処刑の日もわざと違った日になっている。
彼の憤慨と・・絶望感が伝わってくる詩だ。
誠之助の死 与謝野鉄幹
大石誠之助は死にました
いい気味な
機械に挟まれて死にました
人の名前に誠之助は沢山ある
ただし、ただし
わたしの友達の誠之助は唯一人
わたしはもうその誠之助に逢はれない
なんの、構うもんか
機械に挟まれて死ぬやうな
馬鹿な、大馬鹿な、わたしの一人の友達の
誠之助
それでも誠之助は死にました
おお、死にました
日本人で無かった誠之助
立派な気ちがひの誠之助
有ることか、無いことか
神様を最初に無視した誠之助
大逆無道の誠之助
ほんにまあ、皆さん、いい気味な
その誠之助は死にました
誠之助と誠之助の一味が死んだので
忠良な日本人はこれから気楽に寝られます
たとえばTOLSTOIが歿んだので
世界に危険が断えたように
おめでたう
(詩歌集「烏と雨」大正四年刊より)
石川啄木、佐藤春夫以外にも、身の危険を顧みずに勇気ある詩を書き発表したのが与謝野鉄幹だった。ありし日の友情のために。
千九百十一年一月二十三日 佐藤春夫
大石誠之助は殺されたり
げに厳粛な多数者の規約を
裏切る者は殺されるべきかな
死を賭して遊戯を思ひ
民族の歴史を知らず
日本人ならざる者
愚かなる者は殺されたり
「偽より出でし真実なり」と
絞首台上のその一語その愚を極む
われの郷里は紀州新宮
かれの郷里もわれの町
聞く、かれの郷里にして、われが郷里なる
紀州新宮の町は驚懼せりと
うべさかしかる商人の町は歎かん
町民は慎めよ
教師等は国の歴史を更にまた説けよ
慶応在学中で19歳だった佐藤春夫は、同郷で親戚付き合い同様だった大石誠之助処刑の号外を読み、この詩を一晩で書き上げて「スバル」に発表したという。
当局の目をくらますために反語的内容とし、処刑の日もわざと違った日になっている。
彼の憤慨と・・絶望感が伝わってくる詩だ。
誠之助の死 与謝野鉄幹
大石誠之助は死にました
いい気味な
機械に挟まれて死にました
人の名前に誠之助は沢山ある
ただし、ただし
わたしの友達の誠之助は唯一人
わたしはもうその誠之助に逢はれない
なんの、構うもんか
機械に挟まれて死ぬやうな
馬鹿な、大馬鹿な、わたしの一人の友達の
誠之助
それでも誠之助は死にました
おお、死にました
日本人で無かった誠之助
立派な気ちがひの誠之助
有ることか、無いことか
神様を最初に無視した誠之助
大逆無道の誠之助
ほんにまあ、皆さん、いい気味な
その誠之助は死にました
誠之助と誠之助の一味が死んだので
忠良な日本人はこれから気楽に寝られます
たとえばTOLSTOIが歿んだので
世界に危険が断えたように
おめでたう
(詩歌集「烏と雨」大正四年刊より)
石川啄木、佐藤春夫以外にも、身の危険を顧みずに勇気ある詩を書き発表したのが与謝野鉄幹だった。ありし日の友情のために。