隠れ蓑
大阪南部の熊取では、一部の農家が早くも田植えを始めました。
私が子供の頃は、梅雨入り後に、両親が稲藁で編んだ蓑(みの)を着て雨の中でも田植えをしていたことを覚えています。
現在ではこのような田植え風景を見ることはありませんが、この蓑を使った言葉に「隠れ蓑(みの)」があります。
今日はその語源を調べました。
「隠れ蓑」とは、それを着ると身を隠すことができるという蓑のことです。
伝説上の生き物である鬼や天狗は、着ると姿が見えなくなる蓑を持っていたとされています。
そこから転じて、真相を隠す手段を指す言葉となり、マスコミなどでも「税金逃れの隠れ蓑に別名義の会社を作っていた」などと使っています。
天狗の隠れ蓑については、熊本県に次のような民話があるそうです。
「民話」
彦一の家の近くの山に住んでいる天狗は、着ると姿を消すことのできる隠れ蓑を持っていました。
彦一は天狗の隠れ蓑が欲しくてたまりません。
そこで彼は知恵を働かせ、竹を一本切り、あたかも遠くを眺めているかのようにはしゃぎます。
それを見ていた天狗は「それは何か」と尋ねたところ、「これは遠眼鏡じゃ。遠くにある物、何でも見えよる」と言いました。
天狗は譲ってくれと頼むも、彦一は譲りません。
それならば隠れ蓑と交換してくれと天狗が言うと、彦一はすぐさま竹筒を手放し、素早く隠れ蓑を身に付けてしまいました。
一方、竹筒を覗いても何も見えず、騙されたと知った天狗は怒るも、既に蓑をつけた彦一の姿は見えません。
彼はまず家に帰って妻を驚かせます。
調子に乗った彦一は色々と悪戯を思いついては実行し、あげくの果てには酒屋に忍び込み、好物の酒をぐびぐびと呑んでしまいました。
そして酔っぱらった彼は家に帰って熟睡してしまいました。
その間に、妻が蓑をがらくたと勘違いしてかまどで燃やしてしまいます。
目を覚ました彦一は蓑がないので妻に問い質したところ、「蓑を燃やした」と言われびっくりします。
しかし、試しに残った灰を体に付けてみたところ、ものの見事に姿を消すことが出来たので、彼は喜び、まだ呑み足りないのか再び酒屋に駆け付けました。
でも、今度は酒を呑んだことによって、口の部分の灰が剥げてしまい、彦一の口だけが空中に浮いている形となり、それを見て「お化けだ!」と驚いた酒屋の主人に追い回されます。
そして最終的に彦一は川に落ちて灰が全部流れ、みっともない裸をさらしてみんなの笑い者になってしまったというお話です。