先日の住宅にも「意地の」というタイトルを付けさせていただいたけれど、
東京・横浜や関西圏などの過密密集地の家づくりの現実は、
まことに一棟一棟がプロジェクトX的な物語性に満ちている。
そのなかでも、書けない部分を含めて(笑)
この「六ツ川の家」はまさにその代表的な事例だと言えます。
敷地のことは、本当にどこまで書いてもいいのか悩むほど。
シンデレラストーリーというのか、シンドバットの冒険譚なのか、
まさにスリリングな展開の末に、この敷地に家を建てられることになった。
バスで大勢でこの土地に向かうには、
数百メートル離れたバス通りで下りなければならない。
それも、セブンイレブンの敷地に片側を乗せて、
数分間のウチに下りなければ、交通に迷惑を掛けることになる。
そこから徒歩で胸まである傾斜の坂道を上っていく。
途中、軽自動車トラックが坂道を下りてきたけれど、
それと当方人間が行き交うのがやっとという狭小道路が連続し、
以降は自動車の入れない道を上っていく。
近年大相撲の力士は地方出身が減って、体力があるのは
都会の子どもたちだとされますが、
こういう自動車の使えない地域というのは、大都会の方に限られる。
必然的に足腰が鍛えられていくのだろうと推測します。
で、ようやく接道の明瞭でない入り口を抜けてこの建物にたどりつきます。
敷地面積自体は176.21㎡だけれど、半分以上は擁壁部分のよう。
マチュピチュの空中都市を思い起こさせるたたずまい。
家の中から見ても、いかに傾斜面に建っているかが明瞭。
横浜は空襲で中心部が焼け野原になった結果、
その地域の街割り、都市計画はクッキリとした状態になっているけれど、
それ以外のいわゆる「住宅地」はほとんどが山を敷地にせざるを得なかった。
敷地が狭小の上に道路もモータリゼーションに対応できるはずもなかった。
そもそもギリギリの一間道路が関の山では、重機による作業も行えない。
基礎工事に使う生コンクリートはどうしたのか、とふと自然な疑問。
・・・書けません(笑)。まさに波瀾万丈ストーリーであります。
で、さらに建築材料は「どう運ぶのか」というこれまた素朴な疑問。
即座に「テハコビです」というお答え。
とっさに「手運び」という動作名詞への漢字イメージが浮かんでこない。
まさに北海道やその他地方からは、想像も超える世界。
片や人手不足で機械化・合理化が必要と声高に言われている現代で、
ひたすら、現場には人力主体で建材を搬入するのだという。
「その経費は?」とこれも常識的質問ですが、
「積算の方法もわからないけど、体感的には700-800万円」という答え。
よく「現場経費」の違いが過密地域からは言われますが、
ニッポンはいま、大きく合理化が進んでいる国と、
そういう点ではむしろコアの部分で「自然に帰っている」国が共存しているのかも。
まさに不思議の国に迷い込んだアリスの気分で
夢の中のような住宅取材をしておりました。あしたに続きます。