上砂理佳のうぐいす日記

3月31日(月)から4月6日(日)まで銀座中央ギャラリーの「10×10版画展」に銅版画小品を出品します★

我らがパラダイス★

2023-01-07 | うぐいすよもやま日記
明日1月8日の夜からBSプレミアムでドラマがスタートするので、その前に原作を読みました。
前も書きましたが私は林真理子ファン!「ルンルンを買って~」いまだに家にありますよ(笑)。
エッセイにハマったけど、直木賞受賞作の「京都まで」とか、シバレン賞受賞の「白蓮れんれん」とか、小説も好きです。
真理子さんが前にエッセイで、
「小説家はエッセイではしばしば嘘をつく。たとえば私がエッセイで、“私って麻薬が大好きなの”と書いたら、大変なことになる。でも架空の物語で主人公に“私って麻薬が大好きなの”と言わせることは出来る。このようにして作家は、創作物に本音をしのばせてウサをはらすのだ」。
と書いてはって。
そう彼女の小説には「人間の本性」がこれでもかと滲み出ていて、そこが好きなんです。露悪趣味とでもいいましょうか。
特に、「ルンルン~」の頃は若い女性の様々な欲望本音が面白かったけど、出世して名士になっちゃったら、もうあの「ガツガツした滑稽な」エッセイは鳴りを潜めちゃって、つまんなくなっちゃった。

それでしばらく遠ざかっていたのですが、久々に「早く続きを読みたい!」と胸かきむしられる真理子ヒット作でした。
介護つき高齢者マンションで働く三人の50代女性の物語なんですが、それぞれ、老いて一人で生活出来なくなった親を抱えています。
助けてくれない兄弟や根性の悪い義理の姉妹、自己チューな夫や子供、金銭苦、精神的苦痛にどんどん追い詰められてゆく三人。
このあたり、「人間の愚かさ」の描写がね。真理子先生の真骨頂なんす。「いるいる!こーゆー人!」ってこっちも共感するし、書いてるご本人も痛快なんじゃないでしょうか。
嫌な人、嫌なことは、現実ではどうにも出来なくても、小説の中でコテンパンにすることは出来る。読んでるこっちも「いったれー!」とか「よっしゃ!」とか、感情移入が半端ない。

認知症も進む老親を見捨てられない。なのに自分たちが勤める高齢者マンションは、日本一と宣伝されている超高級施設。
ジャグジー付きのプール、シェフが腕をふるう優雅なレストラン、音楽ホールにはグランドピアノがあり毎月コンサートが開かれます。
入居金8000万なのですから、高級ホテルです。セレブな高齢者たちが余生を楽しみます。
自分たちの親と、入居者たちと、同じ高齢者で同じように頑張って長年働いてきたのに、この格差はなんなんだ。
三人はあることをきっかけに反撃ののろしをあげ、事態は膨らみに膨らみ収集のつかない展開に。。。

老い、介護、認知症、経済苦の現実から、目をそらさない真理子先生の筆致がすんごい迫力です。
今、私みたいに80代90代の親を介護中の人なら、「うんうんうん!」ってうなずいてしまう所がいっぱい。
同時にセレブの世界のリアリズム描写もすごくて、笑ってしまう。
終盤は「なんじゃそりゃ」感がありますが、全共闘世代なら解る感覚なのかも。
結局、人間は「パラダイスな老後」を得たかったら、それは自分で作り上げよ、ということでしょうか。

真理子さんは近年、100歳を越えたお母さんを看取られたそうで、その体験も生きている感じがします。
才女だったお母さんは作家志望だったのに、地方の町の小さな本屋の主になってしまった。
その娘は有名作家になった。
この母と娘の確執の物語もまた面白く、真理子さんの人生観に大きく影響していると思います。

うちのご近所でもどんどん高級高齢者施設(介護つき高齢者マンション)が建てられ、すぐ隣にスポーツジムやスーパーや病院があります。
建つということは需要があるわけで、どんな人が住むのか?
この小説に出てくるようなセレブな人たちなのか?
架空小説のようでいて現実味があり、分厚いけど面白過ぎる一冊なのでした★
コメント
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