中国迷爺爺の日記

中国好き独居老人の折々の思い

食事の方式

2007-04-13 09:09:55 | 中国のこと
 ちょっと硬い話題を。

 中国社会科学院考古研究所の研究員の王仁湘(Wang Renxiang)の「中国飲食文化」(青土社)は古代以来の食に関する膨大な文献を調べてまとめた、日本語版で740ページほどの大著だが、内容は食の歳時、料理人、茶道、酒、薬膳、食事の方式、飲食芸術、食礼など多岐にわたっていて興味を惹かれる。その中の食事の方式についての章で「分餐と会食」について述べられている。

 それによると、中国では集まってする食事の形式は、みんなで食卓を囲む「会食」の形が多く、「賑やかになるし、盛大でもあり、たがいに分け隔てなく親密になる。この会食方式は中国の飲食文化の重要な伝統である」と言っている。中国料理の華やかさ、種類の多さは有名だが、調理の方法もいろいろあり、それはかなりこの会食方式に関係あるそうだ。実際これまで中国で食事した時には、寧夏回族自治区の区都の銀川で招待された宴席以外はレストランでも家庭でも、町でも田舎でも、すべてこの会食方式だった。家庭でも何皿かの料理をテーブルの中央に並べて家族がそれぞれ取って食べるからやはり会食だろう。



 この方式は、各人が個別に一人前づつ用意された料理を食べる方式が普通の私達日本人には少々抵抗があるようだ。もっとも日本でも鍋物やすき焼き、焼肉などの場合は会食の形式だが、確かに「たがいに分け隔てなく親密になる」効果はある。中国ではそれが常態化しているわけだろう。中国でも古くは個別に料理が供される分餐方式であったのが、それが時代とともに次第に会食方式に変わってきたようだ。

 しかし、王仁湘は「今日の中国人はもはやこの伝統を・・・・かならず取り除くことを断固として決意している」と言う。実際、政府が主催する国宴は早くから分餐方式になっているようだ。そして、「会食方式の改変はすでに不可逆的な趨勢にある」とも言う。この本が書かれたのは1993年だから既に10年以上たっているのだが、彼が言う趨勢にあるのかどうか、確かに大きな宴席ではそうなのだろうが、どこまで一般化しているのか経験の乏しい私にはよく分からない。

 彼も指摘していることだが、中国人でも会食方式を批判するのは、この方式によって唾液が混じり合うことにあるようだ。特に宴席などでは主人が客に自分の箸で料理を取り分けるのが礼儀になっているようだから、神経質になればなおさらだろう。SARSが流行した時には会食方式でも取り箸をつけることが薦められたようだし、私も取り箸をつけて出された料理は経験したことがある。SARSでなくても肝炎の感染のことも指摘されているようで、もっともなことではある。

 しかし私は中国では会食方式に慣れたせいか、料理を取り分けてもらうことにもあまり抵抗がない。西安の邵利明の家で夕食に招かれた時にはホスト役の父親が取り分けてくれた。上海の施路敏の東京の家で夕食を食べたことがあるが、彼女が自分の箸で蝦を取ってくれた時には、何か孫娘にサービスしてもらったように嬉しく思ったものだった。長い伝統的な食事方式は、庶民の間ではなかなか変わらないのではないだろうか。