中国迷爺爺の日記

中国好き独居老人の折々の思い

「おいしい」

2007-04-29 09:09:17 | 身辺雑記
  私はテレビをあまり見ないほうだが、時折漫然と点けているときに、グルメ番組と言うのか、タレント、それもたいていは若い女性が有名な料理屋やレストランなどで料理を食べる番組に出くわすことがある。私は戦争末期から戦後の食糧難の時代を過ごしたせいか、食べることや食べ物には興味が惹かれるので、つい見てしまう。

 そのような番組を見ながら、いつも気になっていたことがあった。それはレポーターの若い女性が、料理を口に入れてすぐに判で押したように「うーん、おいしい」とか「おいしいです」と言うことだ。口に入れてすぐに味が判るものだろうか。やはり口の中でゆっくり味わわなければ、その料理の本当の味は判らないだろう。最近、こんな川柳があった。

 口に入れうまいと言う間短かすぎ 

  それに口の中に食べ物を入れたままで言うことも気に入らなかった。口の中に料理を入れたままだから「うーん、おいしい」もくぐもったような声になり聞き苦しい。昔は親から「口の中に入れたまま話しちゃいけない」と叱られたものだ。 

 もう1つ、これはちょっと酷な言い方かも知れないが、本当にこんな人生経験も浅いような若い子が、高級な料理の味など分るのだろうかとも思ったものだ。意地悪な言い方をすると、レトルト食品とは違う上等の料理だ、美味しいのに決まってるじゃないか。私などは有名料理店やレストランの料理をいただく機会などほとんどないから、何でも美味しいと思うね。だいたい、君が「おいしい」と言っても、どのように美味しいのかさっぱり分らないよ。

  ところが、さすがに一つ覚えのように「うーん、おいしい」では芸がないということになったのか、近頃では、口に入れた後の表情や感想にバラエティーが出てきて、何やらもっともらしいことも言うようになっているようだ。それとても、その料理の味がどんなものかは分るものではない。だいたい料理の味を言葉や文字ではっきり表そうと言うことは難しい。かと言って、「この味は私にはちょっと」とか「もう少し淡白な方が」などと批評はできまい。そうなると、やはり単純に「うーん、おいしい」くらいが無難と言うことか。

  聞くところによると、最近はこのような番組での食べ方や表情、言い方についてのマニュアルがあるそうだ。要するに演技指導書だ。テレビなんだ、結局すべてが演技なんだと言うことだろう。ただ、そのような演技指導の成果なのか、近頃は別に有名料理でなくても、タレントか何かが箸で料理を口に運ぶとき、真正面に持ってきてから口に入れるのには何か違和感がある。少しわざとらしいし、ぎこちないし、あまり見た目も良くないのでないか。私の箸の運び方が一般的なのかどうかは知らないが、そんなに真正面に持ってくることはなく、少し右斜めに持っていく。それに、時には真正面から大きなものを大口を開けて押し込むのは見苦しい。食べるときには小さく一口でと、これも以前は言われたものではなかったか。

 私は、食通とかグルメとか言うのはあまり好きではない。もちろん私自身がそのようなことからほど遠いからでもあるが、ことさらに味に拘り、あれこれ小難しいことを言うのは煩わしい。幸いそのような人物に出会ったことはないが、同席したら鬱陶しい思いをすることだろう。食事は楽しむもので、難しい顔をして肩肘張って、あれこれ言いながらするものではないと思う。

  食べることをテーマにした番組で、一番嫌いで見ていて不愉快になるのは、早食い、大食いを競うものだ。岩手の郷土料理の椀子蕎麦は椀を空にすると次々に新しく足していき、満腹すれば合図して止めればいいから、その様子を見ても不愉快になることはない。そうではなくて、味わうことなどまったく無視して、ただむやみやたらに口に押し込んでいるような番組では、終わり頃には口に食べかけのものを入れたまま大きく息をついて胸ををさすったりして、見ているだけで胸がもたれる感じになり、出演者が動物のように見えてくる。いや、動物でもこのような意地汚い食べ方はしないのではないだろうか。飽食時代の愚劣な番組だと思う。