平成26(あ)1197 電磁的公正証書原本不実記録,同供用被告事件
平成28年12月5日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所
土地について売買契約を登記原因とする所有権移転登記等の申請をして当該登記等をさせた行為につき電磁的公正証書原本不実記録罪が成立しないとされた事例
先ずは事実確認をします。
1 被告人は,A社の代表取締役であるが,指定暴力団松葉会岡一家総長Bが不動産の所有者等になることを隠蔽するため不実の登記をしようと企てた。
2 所有権が売主DからA社に移転した旨の内容虚偽の登記申請をするとともに,残りの1筆につき,売買予約を原因として,権利者をA社とする内容虚偽の所有権移転請求権仮登記の申請をして,いずれも虚偽の申立てをした。
3 真実の買主はBであるのに,同年7月19日,A社を名目上の買主として,売主E(以下,売主Dと併せて「本件売主ら」という。)との間で上記原野の売買契約を締結した。
4 内容虚偽の登記申請をして,虚偽の申立てをし,そのころ,情を知らない登記官をして,登記簿の磁気ディスクにその旨不実の記録をさせ,即時,これを同所に備え付けさせて,公正証書の原本としての用に供した。
暴力団は暴対法により、銀行口座も不動産の契約もできなくなっています。そこで、暴力団がダミー会社を作ってそれを使って取引を行い規制を逃れようとしています。今回の事件もその流れのようです。
実際交渉にあたったのはCではありましたが、金の出所は暴力団構成員Bであり、実態は暴力団の取引でした。
これについて検察側は、この一連の取引は「電磁的公正証書原本不実記録罪」及「同供用罪」として起訴しました。
しかし、不動産はA社名義に変更になったところが重要です。この点から最高裁は以下のように述べています。
本件各土地の所有権が本件各売買を原因としてA社に移転したことなどを内容とする本件各登記は,当該不動産に係る民事実体法上の物権変動の過程を忠実に反映したものであるから,これに係る申請が虚偽の申立てであるとはいえず,また,当該登記が不実の記録であるともいえない。
確かに、個人名義にしたわけではなく、事実に反しているわけではないのが重要です。
本件各土地の所有権が本件売主らからBに直接移転した旨の認定を前提に,本件各登記の申請を虚偽の申立てであるとし,また,本件各登記が不実の記録に当たるとして第1審判決を破棄し,本件公訴事実第1及び第2について被告人を有罪とした原判決には,事実を誤認して法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであって,原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
ということで、原審は有罪としましたが最高裁ではこの件については全員一致で無罪としました。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 大谷直人
裁判官 櫻井龍子
裁判官 池上政幸
裁判官 小池 裕
裁判官 木澤克之
確かに、純粋に電磁的公正証書原本不実記録罪か否かだけの論点であれば、最高裁の言うことは納得です。ですが、法人格否認の法理が一切議論されていないのが疑問です。検察は法人格の否認の法理を持ち出そうとしたのでしょうか。
この部分だけを以て、最高裁が法の正義というのはいささか勇み足の感が否めません。
平成28年12月5日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所
土地について売買契約を登記原因とする所有権移転登記等の申請をして当該登記等をさせた行為につき電磁的公正証書原本不実記録罪が成立しないとされた事例
先ずは事実確認をします。
1 被告人は,A社の代表取締役であるが,指定暴力団松葉会岡一家総長Bが不動産の所有者等になることを隠蔽するため不実の登記をしようと企てた。
2 所有権が売主DからA社に移転した旨の内容虚偽の登記申請をするとともに,残りの1筆につき,売買予約を原因として,権利者をA社とする内容虚偽の所有権移転請求権仮登記の申請をして,いずれも虚偽の申立てをした。
3 真実の買主はBであるのに,同年7月19日,A社を名目上の買主として,売主E(以下,売主Dと併せて「本件売主ら」という。)との間で上記原野の売買契約を締結した。
4 内容虚偽の登記申請をして,虚偽の申立てをし,そのころ,情を知らない登記官をして,登記簿の磁気ディスクにその旨不実の記録をさせ,即時,これを同所に備え付けさせて,公正証書の原本としての用に供した。
暴力団は暴対法により、銀行口座も不動産の契約もできなくなっています。そこで、暴力団がダミー会社を作ってそれを使って取引を行い規制を逃れようとしています。今回の事件もその流れのようです。
実際交渉にあたったのはCではありましたが、金の出所は暴力団構成員Bであり、実態は暴力団の取引でした。
これについて検察側は、この一連の取引は「電磁的公正証書原本不実記録罪」及「同供用罪」として起訴しました。
しかし、不動産はA社名義に変更になったところが重要です。この点から最高裁は以下のように述べています。
本件各土地の所有権が本件各売買を原因としてA社に移転したことなどを内容とする本件各登記は,当該不動産に係る民事実体法上の物権変動の過程を忠実に反映したものであるから,これに係る申請が虚偽の申立てであるとはいえず,また,当該登記が不実の記録であるともいえない。
確かに、個人名義にしたわけではなく、事実に反しているわけではないのが重要です。
本件各土地の所有権が本件売主らからBに直接移転した旨の認定を前提に,本件各登記の申請を虚偽の申立てであるとし,また,本件各登記が不実の記録に当たるとして第1審判決を破棄し,本件公訴事実第1及び第2について被告人を有罪とした原判決には,事実を誤認して法令の解釈適用を誤った違法があり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであって,原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
ということで、原審は有罪としましたが最高裁ではこの件については全員一致で無罪としました。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 大谷直人
裁判官 櫻井龍子
裁判官 池上政幸
裁判官 小池 裕
裁判官 木澤克之
確かに、純粋に電磁的公正証書原本不実記録罪か否かだけの論点であれば、最高裁の言うことは納得です。ですが、法人格否認の法理が一切議論されていないのが疑問です。検察は法人格の否認の法理を持ち出そうとしたのでしょうか。
この部分だけを以て、最高裁が法の正義というのはいささか勇み足の感が否めません。