平成31(受)558 総会決議無効確認等請求事件
令和2年9月3日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄差戻 広島高等裁判所
事業協同組合の理事を選出する選挙の取消しの訴えに,同選挙が取り消されるべきことを理由として後任理事等を選出する後行選挙の効力を争う訴えが併合されている場合は,特段の事情がない限り,先行選挙の取消しの訴えの利益は消滅しない
報道が出てこないので、事実確認から見ていきます。
被上告人は中小企業等協同組合法に基づき設立された事業協同組合であり,上告人は被上告人の組合員である。
①平成28年5月16日に行われた被上告人の役員選挙について,同法54条において準用する会社法831条1項1号に基づき,その取消しを求めるとともに,
②上記選挙中の理事の選出に関する部分を取り消す旨の判決の確定を条件に,平成30年5月28日に行われた被上告人の役員選挙の不存在確認を求める事案である。
分かりにくいかもしれませんが、会社と組合は違います。会社は営利追及社団法人という定義があります。組合法でいう場合は
第一条 この法律は、中小規模の商業、工業、鉱業、運送業、サービス業その他の事業を行う者、勤労者その他の者が相互扶助の精神に基き協同して事業を行うために必要な組織について定め、これらの者の公正な経済活動の機会を確保し、もつてその自主的な経済活動を促進し、且つ、その経済的地位の向上を図ることを目的とする。
とあるので、基本的には配当金を出さず業界の健全性を確保するための法人です。
そこで組合法では
第五十四条 総会の決議の不存在若しくは無効の確認又は取消しの訴えについては、会社法第八百三十条、第八百三十一条、第八百三十四条(第十六号及び第十七号に係る部分に限る。)、第八百三十五条第一項、第八百三十六条第一項及び第三項、第八百三十七条、第八百三十八条並びに第八百四十六条(株主総会の決議の不存在若しくは無効の確認又は取消しの訴え)の規定(監査権限限定組合にあつては、監査役に係る部分を除く。)を準用する。
手続きは会社法に従うこととしました。
(1)平成28年5月16日に開催された被上告人の通常総会において,理事を選出する原判決別紙選挙目録記載1の選挙及び監事を選出する同目録記載2の選挙が行われた。
通常の定時株主総会に相当します。
(2)理事会がした招集決定に基づき,同理事会で選出された代表理事である理事長が招集して,平成30年5月28日,被上告人の通常総会が開催された。同総会においては,本件選挙1及び2で選出された理事及び監事全員が任期の満了により退任したとして,理事を選出する原判決別紙選挙目録記載3の選挙及び監事を選出する同目録記載4の選挙が行われた。
任期満了で理事と監事の選挙は、会社で言うと取締役と監査役の選任選挙である株主総会に相当します。
(3) 上告人は,平成28年8月12日,本件選挙1及び2の各取消しを求める訴えを提起し(以下,この訴えに係る請求を「本件各取消請求」という。),平成30年7月26日,本件選挙1が取り消されるべきものであることを理由とする本件選挙3及び4の各不存在確認請求(以下「本件各不存在確認請求」という。)を追加した。
(1)がそもそもおかしいという訴えのようです。
(1) 事業協同組合の理事を選出する選挙の取消しを求める訴えの係属中に,後行の選挙が行われ,新たに理事又は監事が選出された場合であっても,理事を選出する先行の選挙を取り消す旨の判決が確定したときは,先行の選挙は初めから無効であったものとみなされるのであるから,その選挙で選出された理事によって構成される理事会がした招集決定に基づき同理事会で選出された代表理事が招集した総会において行われた新たに理事又は監事を選出する後行の選挙は,いわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り,瑕疵があるものといわざるを得ない(最高裁昭和60年(オ)第1529号平成2年4月17日第三小法廷判決・民集44巻3号526頁,最高裁平成10年(オ)第1183号同11年3月25日第一小法廷判決・民集53巻3号580頁参照)。
当然あるとは思っていましたが、似たような裁判があるのですね。
事業協同組合の理事を選出する選挙の取消しを求める訴えに,同選挙が取り消されるべきものであることを理由として後任理事又は監事を選出する後行の選挙の効力を争う訴えが併合されている場合には,上記特段の事情がない限り,先行の選挙の取消しを求める訴えの利益は消滅しないものと解するのが相当である。
株式会社は民間だからなのでしょうけど、政治関係はそうはいきませんね。一票の格差で選挙無効にはならないと。この二重基準はどうなんだろうと思いますが。
本件選挙1を取り消す旨の判決が確定し,本件選挙4に瑕疵があることになれば,本件選挙2で選出された監事が現在も監事としての権利義務を有することになり得るため(中小企業等協同組合法36条の2),依然として本件選挙2の取消しを求める実益があるのであるから,本件選挙4の瑕疵の有無が判断されていない現時点で本件選挙2の取消しを求める訴えの利益が消滅したとはいえない。
第三十六条の二 役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。
第一小法廷裁判官全員一致でした。
裁判長裁判官 小池 裕 妥当
裁判官 池上政幸 妥当
裁判官 木澤克之 妥当
裁判官 山口 厚 妥当
裁判官 深山卓也 妥当
この間に合った取引は、有効になるのでしょうか?重要な案件は理事監事が決めますからね。既に裁判沙汰になっているので、取引先は善意の第三者とはいかないでしょうし。その辺は実務的にはどうするのかなと心配になってきます。
中小企業の社長が、名誉職を巡って大喧嘩なのかなぁと勝手に想像しながら読んでみました。しかし、この組合は事実上の許認可権があるような団体なのでしょうか?法律論からすれば、手続きは妥当かとは思いますが収拾つくのでしょうか。
判決と関係ないのですが、第一小法廷には女性裁判官がいないのですね。
令和2年9月3日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄差戻 広島高等裁判所
事業協同組合の理事を選出する選挙の取消しの訴えに,同選挙が取り消されるべきことを理由として後任理事等を選出する後行選挙の効力を争う訴えが併合されている場合は,特段の事情がない限り,先行選挙の取消しの訴えの利益は消滅しない
報道が出てこないので、事実確認から見ていきます。
被上告人は中小企業等協同組合法に基づき設立された事業協同組合であり,上告人は被上告人の組合員である。
①平成28年5月16日に行われた被上告人の役員選挙について,同法54条において準用する会社法831条1項1号に基づき,その取消しを求めるとともに,
②上記選挙中の理事の選出に関する部分を取り消す旨の判決の確定を条件に,平成30年5月28日に行われた被上告人の役員選挙の不存在確認を求める事案である。
分かりにくいかもしれませんが、会社と組合は違います。会社は営利追及社団法人という定義があります。組合法でいう場合は
第一条 この法律は、中小規模の商業、工業、鉱業、運送業、サービス業その他の事業を行う者、勤労者その他の者が相互扶助の精神に基き協同して事業を行うために必要な組織について定め、これらの者の公正な経済活動の機会を確保し、もつてその自主的な経済活動を促進し、且つ、その経済的地位の向上を図ることを目的とする。
とあるので、基本的には配当金を出さず業界の健全性を確保するための法人です。
そこで組合法では
第五十四条 総会の決議の不存在若しくは無効の確認又は取消しの訴えについては、会社法第八百三十条、第八百三十一条、第八百三十四条(第十六号及び第十七号に係る部分に限る。)、第八百三十五条第一項、第八百三十六条第一項及び第三項、第八百三十七条、第八百三十八条並びに第八百四十六条(株主総会の決議の不存在若しくは無効の確認又は取消しの訴え)の規定(監査権限限定組合にあつては、監査役に係る部分を除く。)を準用する。
手続きは会社法に従うこととしました。
(1)平成28年5月16日に開催された被上告人の通常総会において,理事を選出する原判決別紙選挙目録記載1の選挙及び監事を選出する同目録記載2の選挙が行われた。
通常の定時株主総会に相当します。
(2)理事会がした招集決定に基づき,同理事会で選出された代表理事である理事長が招集して,平成30年5月28日,被上告人の通常総会が開催された。同総会においては,本件選挙1及び2で選出された理事及び監事全員が任期の満了により退任したとして,理事を選出する原判決別紙選挙目録記載3の選挙及び監事を選出する同目録記載4の選挙が行われた。
任期満了で理事と監事の選挙は、会社で言うと取締役と監査役の選任選挙である株主総会に相当します。
(3) 上告人は,平成28年8月12日,本件選挙1及び2の各取消しを求める訴えを提起し(以下,この訴えに係る請求を「本件各取消請求」という。),平成30年7月26日,本件選挙1が取り消されるべきものであることを理由とする本件選挙3及び4の各不存在確認請求(以下「本件各不存在確認請求」という。)を追加した。
(1)がそもそもおかしいという訴えのようです。
(1) 事業協同組合の理事を選出する選挙の取消しを求める訴えの係属中に,後行の選挙が行われ,新たに理事又は監事が選出された場合であっても,理事を選出する先行の選挙を取り消す旨の判決が確定したときは,先行の選挙は初めから無効であったものとみなされるのであるから,その選挙で選出された理事によって構成される理事会がした招集決定に基づき同理事会で選出された代表理事が招集した総会において行われた新たに理事又は監事を選出する後行の選挙は,いわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り,瑕疵があるものといわざるを得ない(最高裁昭和60年(オ)第1529号平成2年4月17日第三小法廷判決・民集44巻3号526頁,最高裁平成10年(オ)第1183号同11年3月25日第一小法廷判決・民集53巻3号580頁参照)。
当然あるとは思っていましたが、似たような裁判があるのですね。
事業協同組合の理事を選出する選挙の取消しを求める訴えに,同選挙が取り消されるべきものであることを理由として後任理事又は監事を選出する後行の選挙の効力を争う訴えが併合されている場合には,上記特段の事情がない限り,先行の選挙の取消しを求める訴えの利益は消滅しないものと解するのが相当である。
株式会社は民間だからなのでしょうけど、政治関係はそうはいきませんね。一票の格差で選挙無効にはならないと。この二重基準はどうなんだろうと思いますが。
本件選挙1を取り消す旨の判決が確定し,本件選挙4に瑕疵があることになれば,本件選挙2で選出された監事が現在も監事としての権利義務を有することになり得るため(中小企業等協同組合法36条の2),依然として本件選挙2の取消しを求める実益があるのであるから,本件選挙4の瑕疵の有無が判断されていない現時点で本件選挙2の取消しを求める訴えの利益が消滅したとはいえない。
第三十六条の二 役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。
第一小法廷裁判官全員一致でした。
裁判長裁判官 小池 裕 妥当
裁判官 池上政幸 妥当
裁判官 木澤克之 妥当
裁判官 山口 厚 妥当
裁判官 深山卓也 妥当
この間に合った取引は、有効になるのでしょうか?重要な案件は理事監事が決めますからね。既に裁判沙汰になっているので、取引先は善意の第三者とはいかないでしょうし。その辺は実務的にはどうするのかなと心配になってきます。
中小企業の社長が、名誉職を巡って大喧嘩なのかなぁと勝手に想像しながら読んでみました。しかし、この組合は事実上の許認可権があるような団体なのでしょうか?法律論からすれば、手続きは妥当かとは思いますが収拾つくのでしょうか。
判決と関係ないのですが、第一小法廷には女性裁判官がいないのですね。