令和2(受)1198 損害賠償請求事件
令和4年3月24日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 福岡高等裁判所
人身傷害保険について保険会社が被害者に対して自賠責保険分を含めて一括払することを合意した場合において,保険会社が自賠責保険から支払を受けた損害賠償額相当額を被害者の損害賠償請求権の額から控除することができないとされた事例
報道がなかったようなので、事実確認から見ていきます。
1 本件は,交通事故によって傷害を受けた上告人が,加害車両の運転者である被上告人に対し,民法709条又は自動車損害賠償保障法3条に基づき,損害賠償を求める事案である。本件においては,上告人の夫との間で人身傷害条項のある普通保険約款が適用される自動車保険契約を締結していた保険会社が,上記交通事故によって生じた上告人の損害について,自動車損害賠償責任保険から自賠法16条1項に基づく損害賠償額の支払として金員を受領していることから,上告人の被上告人に対する損害賠償請求権の額から上記金員に相当する額を全額控除することができるか否かが争
われている。
ある人が車にはねられたので損害賠償を求めた。自賠責保険から保険が被害者に支払われた。残りの支払いは自賠責で支払った分を差し引いていいかが争われました。
(1)上告人は,平成29年4月25日,普通乗用自動車を運転中,交差点において,被上告人運転の普通乗用自動車と衝突し,頸椎捻挫等の傷害を受けた。
所謂、むち打ち症ですね。
(2)本件事故により上告人に生じた損害の額(弁護士費用相当額を除く。)は,合計341万1398円であるが,本件事故における上告人の過失割合は3割であることから,上記割合により過失相殺をすると,上告人が被上告人に対して賠償請求することができる損害金の額(弁護士費用相当額を除く。)は,238万7979円となる。
(3)上告人は,本件事故によって生じた損害について,平成29年6月までに,被上告人が締結する対人賠償責任保険契約に基づく保険金23万8237円の支払を受け,平成30年3月12日には,自賠責保険から後遺障害による損害賠償額の支払として75万円を受領した。
損害金238万7979円のうち98万円ちょっとの支払いを自賠責保険から払われたので残り140万円ちょっとが未払いになります。
保険の契約内容は
ア 訴外保険会社は,被保険車両の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により,被保険者が身体に傷害を被ることによって被保険者等に生じた損害に対して,保険金を支払う。
イ 訴外保険会社の支払う人身傷害保険金の額は,人身傷害保険金額を限度として,本件約款所定の算定基準に従い算定された損害額(その額が自賠責保険から支払われる金額を下回る場合には,自賠責保険によって支払われる金額となる。また,賠償義務者があり,かつ,判決又は裁判上の和解において,賠償義務者が負担すべき損害賠償額が上記算定基準と異なる基準により算出された場合であって,その基準が社会通念上妥当であると認められるときは,その基準により算出された額のうち,訴訟費用等を除いた額となる。)から,人身傷害保険金の請求権者に対して自賠責保険によって支払われた金員等の既払額を差し引いた額とする。
ちっと厄介な条文がありますね。
ウ 訴外保険会社が支払った人身傷害保険金の額が上記イの損害額の全額に満たない場合には,上記債権の額から,人身傷害保険金が支払われていない損害の額を差し引いた額の限度で,上記債権が訴外保険会社に移転する
(7)上告人は,平成30年5月24日,訴外保険会社に対し,本件保険契約に基づく人身傷害保険金を受領するに当たり,「保険金のお支払いについての協定書」(以下「本件協定書」という。)を提出した。本件協定書には,上告人が,本件事故による上告人の被上告人に対する損害賠償請求権は,自賠責保険への請求権を含め,受領した人身傷害保険金の額を限度として訴外保険会社に移転することを承認する旨の記載があった。
保険会社は同意したんじゃないですか。これにつて最高裁は
(1)本件のように訴外保険会社が人身傷害保険金として給付義務を負うとされている金額と同額を支払ったにすぎないときには,保険金請求権者としては人身傷害保険金のみが支払われたものと理解するのが通常であり,そこに自賠責保険による損害賠償額の支払分が含まれているとみるのは不自然,不合理である。加えて,本件代位条項によれば,人身傷害保険金を支払った訴外保険会社は,人身傷害保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が,被害者について社会通念上妥当であると認められる判決等の基準により算出された過失相殺前の損害額に相当する額を上回るときに限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の賠償義務者等に対する債権を代位取得するものとされているので,本件のように被害者の損害について過失相殺がされる場合には,訴外保険会社が人身傷害保険金の支払により代位取得することができる上記債権の範囲は保険金支払額を下回ることとなる。・・・人身傷害保険金を受領した場合には,その額を限度として上告人が有していた賠償義務者に対する損害賠償請求権及び自賠法に基づく損害賠償額の支払請求権が訴外保険会社に移転することを確認するものとされており,対人賠償保険金の受領の場合と人身傷害保険金の受領の場合とで異なる説明内容となっている。
なるほど、保険会社の末端の人がやらかした可能性ですか。
したがって,上告人の被上告人に対する損害賠償請求権の額から,訴外保険会社が本件支払金の支払により保険代位することができる範囲を超えて本件自賠金に相当する額を控除することはできないというべきである。
自賠責は強制保険で、いくら民間会社が引き受けるとは言え、国営に準ずるようなものですから、任意保険より優遇する必要があります。
第一小法廷 全員一致です。
裁判長裁判官 安浪亮介
裁判官 山口 厚
裁判官 深山卓也
裁判官 岡 正晶
裁判官 堺 徹
妥当でしょうね。
令和4年3月24日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 福岡高等裁判所
人身傷害保険について保険会社が被害者に対して自賠責保険分を含めて一括払することを合意した場合において,保険会社が自賠責保険から支払を受けた損害賠償額相当額を被害者の損害賠償請求権の額から控除することができないとされた事例
報道がなかったようなので、事実確認から見ていきます。
1 本件は,交通事故によって傷害を受けた上告人が,加害車両の運転者である被上告人に対し,民法709条又は自動車損害賠償保障法3条に基づき,損害賠償を求める事案である。本件においては,上告人の夫との間で人身傷害条項のある普通保険約款が適用される自動車保険契約を締結していた保険会社が,上記交通事故によって生じた上告人の損害について,自動車損害賠償責任保険から自賠法16条1項に基づく損害賠償額の支払として金員を受領していることから,上告人の被上告人に対する損害賠償請求権の額から上記金員に相当する額を全額控除することができるか否かが争
われている。
ある人が車にはねられたので損害賠償を求めた。自賠責保険から保険が被害者に支払われた。残りの支払いは自賠責で支払った分を差し引いていいかが争われました。
(1)上告人は,平成29年4月25日,普通乗用自動車を運転中,交差点において,被上告人運転の普通乗用自動車と衝突し,頸椎捻挫等の傷害を受けた。
所謂、むち打ち症ですね。
(2)本件事故により上告人に生じた損害の額(弁護士費用相当額を除く。)は,合計341万1398円であるが,本件事故における上告人の過失割合は3割であることから,上記割合により過失相殺をすると,上告人が被上告人に対して賠償請求することができる損害金の額(弁護士費用相当額を除く。)は,238万7979円となる。
(3)上告人は,本件事故によって生じた損害について,平成29年6月までに,被上告人が締結する対人賠償責任保険契約に基づく保険金23万8237円の支払を受け,平成30年3月12日には,自賠責保険から後遺障害による損害賠償額の支払として75万円を受領した。
損害金238万7979円のうち98万円ちょっとの支払いを自賠責保険から払われたので残り140万円ちょっとが未払いになります。
保険の契約内容は
ア 訴外保険会社は,被保険車両の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により,被保険者が身体に傷害を被ることによって被保険者等に生じた損害に対して,保険金を支払う。
イ 訴外保険会社の支払う人身傷害保険金の額は,人身傷害保険金額を限度として,本件約款所定の算定基準に従い算定された損害額(その額が自賠責保険から支払われる金額を下回る場合には,自賠責保険によって支払われる金額となる。また,賠償義務者があり,かつ,判決又は裁判上の和解において,賠償義務者が負担すべき損害賠償額が上記算定基準と異なる基準により算出された場合であって,その基準が社会通念上妥当であると認められるときは,その基準により算出された額のうち,訴訟費用等を除いた額となる。)から,人身傷害保険金の請求権者に対して自賠責保険によって支払われた金員等の既払額を差し引いた額とする。
ちっと厄介な条文がありますね。
ウ 訴外保険会社が支払った人身傷害保険金の額が上記イの損害額の全額に満たない場合には,上記債権の額から,人身傷害保険金が支払われていない損害の額を差し引いた額の限度で,上記債権が訴外保険会社に移転する
(7)上告人は,平成30年5月24日,訴外保険会社に対し,本件保険契約に基づく人身傷害保険金を受領するに当たり,「保険金のお支払いについての協定書」(以下「本件協定書」という。)を提出した。本件協定書には,上告人が,本件事故による上告人の被上告人に対する損害賠償請求権は,自賠責保険への請求権を含め,受領した人身傷害保険金の額を限度として訴外保険会社に移転することを承認する旨の記載があった。
保険会社は同意したんじゃないですか。これにつて最高裁は
(1)本件のように訴外保険会社が人身傷害保険金として給付義務を負うとされている金額と同額を支払ったにすぎないときには,保険金請求権者としては人身傷害保険金のみが支払われたものと理解するのが通常であり,そこに自賠責保険による損害賠償額の支払分が含まれているとみるのは不自然,不合理である。加えて,本件代位条項によれば,人身傷害保険金を支払った訴外保険会社は,人身傷害保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が,被害者について社会通念上妥当であると認められる判決等の基準により算出された過失相殺前の損害額に相当する額を上回るときに限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の賠償義務者等に対する債権を代位取得するものとされているので,本件のように被害者の損害について過失相殺がされる場合には,訴外保険会社が人身傷害保険金の支払により代位取得することができる上記債権の範囲は保険金支払額を下回ることとなる。・・・人身傷害保険金を受領した場合には,その額を限度として上告人が有していた賠償義務者に対する損害賠償請求権及び自賠法に基づく損害賠償額の支払請求権が訴外保険会社に移転することを確認するものとされており,対人賠償保険金の受領の場合と人身傷害保険金の受領の場合とで異なる説明内容となっている。
なるほど、保険会社の末端の人がやらかした可能性ですか。
したがって,上告人の被上告人に対する損害賠償請求権の額から,訴外保険会社が本件支払金の支払により保険代位することができる範囲を超えて本件自賠金に相当する額を控除することはできないというべきである。
自賠責は強制保険で、いくら民間会社が引き受けるとは言え、国営に準ずるようなものですから、任意保険より優遇する必要があります。
第一小法廷 全員一致です。
裁判長裁判官 安浪亮介
裁判官 山口 厚
裁判官 深山卓也
裁判官 岡 正晶
裁判官 堺 徹
妥当でしょうね。