雨に祟られつつ開幕。短編三本立ての上演だが、思いの外ボリウムもあり、しかし休憩を挟んで過度に重く感じることもなく、まとまったのではないかと思う。上演を重ねるごとにさらにこなれてくるはず。山元清多・竹内一郎両氏に改めて感謝。フィリピンの四俳優、本番の空気の中で、改めて一人一人の個性が際だつ。
雨が降る。雷が鳴る。物価は上がる。台本を書く。夜、theater iwato『サザン・アイランズ』ゲネプロ。外部台本執筆に追われてほとんど稽古場に行けず、山元清多・竹内一郎両演出家に現場をお任せしてきたが、いよいよ明日は幕が開くのだ。俳優達は、これが自分たち俳優によって作られる舞台だということを肝に銘じて、結果を出してほしい。
咳が出るので病院。その後は急ぐので仕方なくタクシーと思うがそういうときに限って拾えず。咳はクスリで止まる。午前中から長時間の会議。それぞれの原則論と真摯さ。theater iwato『サザン・アイランズ』場当たり、部分のみ立ち会う。舞台・道具の色、客席、字幕など確認。衣装も幾つか変更をお願いする。雨に濡れる。
とにかく今の私は台本を書くだけだ。そんな中でもいろいろ思い出してしまう。『コックサッカー・ブルース』を観に行ったのは、岡山でライバル高校(?)にいた井上康生の名がチラシに載っていたからだ。阿佐ヶ谷アルスノーヴァ。1981年。観る方も出ている方もみんな二十歳前後だったはずだが、ぜんぜんそんな気がしない。
訃報に茫然とする。ご病気とは聞いていた。綺麗な人だった。さばさばと優しい江戸っ子。『ジェノサイド』のとき「これは大人の芝居。歳とったらもう一度やる」と言っていたのをいま突然思い出した。川村毅が彼女のために書いたはずの『コックサッカー・ブルース』初演は演劇の幸福に満ちていた。舞台でなければ聴くことのできない声があった。忘れない。
稽古場での通し稽古を観るのは二回目。着実に進歩しているが、もうひとつ整理が必要。衣裳も決まってきて、フィリピン料理なども登場。フィリピンメンバーのテンポに食いついていく若手も出始めた。この劇で森下スタジオを使わせてもらうのは、あと一日。先月から聞いていた同じ森下のベニサン・ピット来春閉鎖の噂は本当のようだ。厳しい時代の予感。
ここ数日、目の前の仕事と直接関係はないのに(若干はあるか?)、トミー・リー・ジョーンズ監督・主演のこの映画を何度か想起していた。脚本のギレルモ・アリアガはイニャリトゥ監督との『アモーレス・ペロス』『21グラム』『バベル』といった時空を交錯させるシリーズよりガルシア・マルケス短編を思わせるこの素朴なストーリーが好もしい。
体調や諸々事情もあって、出るはずの会議に行けず。出席された方から連絡あり。議事は然るべき方向に進んだらしい。……自分一人がいなくても、世間はきちんと動いている。当たり前のことだが。いま書いている戯曲の内容とも絡むが、自分の存在価値を確認したいと思うより、自分のいない世界を想像するときの可能性の広がりを是としよう。
最寄り駅の自転車置き場は、年間登録料を払いステッカーを貼れば、自分の置き場は通年で確保でき、スムースだった。今やそのシステムがなくなり、駅前に置くには一日いちいち百円取られる。しかも満車の場合があったりする。手間と人件費を考えれば以前の方が合理的だしこちらとしても安上がりだった。ちゃんと考えているのか杉並区。
忙中二時間だけ出かけ父親としての用事。そういや昨日聴こえてきた中継でアナウンサーが選手を「ママさん投手」と呼んでいた。違和感ないのか。全ての選手をその方式で紹介したらどうなるのだ。「パパさんバッター」「おじいさん監督」「ゲイとストレートのペア」「一人っ子ランナー」……。ともあれ私は「パパさん作家」と呼ばれても黙殺する。
出来上がった本が届く。『海の沸点』『沖縄ミルクプラントの最后』『ピカドン・キジムナー』収録。内容はぎっしり。分厚い。コストパフォーマンス的にもお得である。三作が一冊にまとまっていることには、本の作り手側の、積極的な意志がある。早川書房さんの英断、かなり手間を掛けさせてしまった編集担当の鹿児島有里さんに、感謝。
栗山民也さん、松井るみさんらと、俳優座10月公演『スペース・ターミナル・ケア』の美術打ち合わせ。まだ戯曲が完成していないので、続きの展開など解説するのが作者の義務。続いて燐光群『サザン・アイランズ』美術打ち合わせ。部分的にしか稽古を見ていないのでわからないことだらけだが、例によって多くを森下紀彦舞台監督に委ねる。
『雪を知らない』にはジャンケンをするシーンが出てくる。日本とフィリピンでは、「ジャンケン、ポン」「ジャンケン、ポイ」の語尾の違いはあるが、やり方も、グー・チョキ・パーの形も同じ。ただ野球拳というものは日本にしかないようだ。「ジャンケン、ポイ」は「Jack and Poy 」という説もあるが、そうでないともいう。
イラクへの侵略戦争反対のときから続いている企画。今年は8月25日(月)・26日(火)の二日間。19時開演。会場は全労済ホール/スペース・ゼロ。題名は『9条は守りたいのに口ベタなあなたへ…』。台本は永井愛、演出は永井+西川信廣コンビ。何だかすごい豪華キャストだ。チケットはまだ余裕があるそうなので、ぜひ。(http://hisen-engeki.com/)
『雪を知らない』登場人物の一人はフィリピンから来日した、上流階層家のメイド。高給取り。年一度の帰省費用は雇い主負担という契約。母国で何十人の生活を担い、家を何軒も建てる。しかし本人は東京で狭いアパートに同じ境遇の何人かと二段ベッドで同居。教会行事や誕生日は気合いを入れ祝う。私もそういう場に同席したことがあるが、彼らの相互の情愛の深さに圧倒された。