雨。意外に冷え込んでくる。稽古は一幕「あら通し」。あまり使ったことのない言葉だが、「荒い通し」ではなく「粗い通し」が正しい字とのこと。演劇用語にはいろいろと面白い言葉がある。稽古を終わるのを「取ります」と言ったり。位置を決めて印を付けたりするのをよく「ばみる」というが、「居所をとる」というのがフォーマルであると舞台監督の泉泰至さんに教わる。
原稿じわじわとしか進まず。嫌な雨。夕刻、読売演劇大賞授賞式、帝国ホテル。『BUG』島次郎さん優秀賞受賞の御祝いに馳せ参じる。他の受賞関係も既知の方々多し。新国立劇場運営財団遠山理事長の長すぎるスピーチ。いろいろ喋っていたが、二年連続で「大賞」をもたらした鵜山仁芸術監督を任期延長しなかったご本人の判断について、語ることはなかった。……翻訳家常田景子・ひさびさ手塚とおると白ワインをひっかけクールダウンして帰る。
稽古を終え、予定より早く阿佐ヶ谷LOFTへ。伊藤裕作さん還暦祝いと新刊「私は寺山修司・考 桃色篇」出版記念の会。盛会。私から見て年長者が九割だが大学院生などもいて、議員関係や出版・風俗業界等、顔ぶれは呆れるほど多彩。成田プロデューサー、トミーら映画界の面々、多忙な廣木監督も顔を見せる。ラスト、流山児氏は当然のように歌って締める、といってもまあだらだらと終わったのだが。伊藤さんとは今年で29年めのつきあいということになるらしい。二回演劇のプロデュースもしてもらったし、事務所用に留守番電話(ほんとに昔だ!)をもらったこともある、いろいろお世話になってきた。かつてのアングラ・ストリップ業界のプロデューサー、現在は島根で介護タクシー会社を経営するジョージ川上氏ともあれこれ話す。思い出話もいいが、やはり未来の話。
高橋源一郎の小説「さようなら、ギャングたち」をベースに、セリフ ダンス 歌 映像をコラボレーションした作品。『Hold the Clock:根の国のギャングたち』 横浜・象の鼻テラス みなとみらい線「日本大通り駅」1番出口より徒歩3分。2月26、27、28日毎夜7時30分開演。ニューヨークのYoshiko Chyumaのカンパニーによる作品。猪熊はかつて体操選手として鍛えた身体で果敢に挑戦。よろしく。
今日も二人きりのシーンの稽古が続く。ようやくラストシーンをあたる。……深夜、評判ばかりを聞いていた山中貞夫監督『丹下左膳余話 百萬両の壺』をついに観る。今まで機会がなかったのだ。どういうジャンルのものか判然としていなかったが、そうか、人情喜劇だったのか。昭和十年の映画なのだ。……こんなふうに「題名だけは知っている」ものは、考えてみれば幾らでもある。あるいは、とっくに観たつもりになっていて実は内容がわかっていないものも、たくさんあるかもしれない。
寺島しのぶさん受賞、新聞でも大きく載っている。過去に『ピカドン・キジムナー』『マッチ売りの少女』でご一緒しているわけだが、息子に「こういうこと(ベルリン映画祭での受賞)になると思っていた?」と訊かれる。初めて観た『常陸坊海尊』のとき、白石加代子さんと互角以上に渡り合う少女の存在感に震撼したのは確かだ。……テレビで五輪を覗く。カーリングとは何といじましい競技であることか。……夜は劇団ミーティング。
『兵器のある風景』、浅野雅博さん中心に二幕を部分的にあたる。なんだかんだ予定よりもちょっと多くやる。俳優陣が身体で台詞を読み込んでゆく過程。次第に密度濃く。やはり台本に書いてあることをきちんとやるのがだいじのようだ。……浅野さん差し入れの「塩けんぴ」、不思議においしい。芋けんぴの仕上げに塩が使われている甘辛味、いや、ほぼ甘いのだが。岡山産だというが知らなかった。……寺島しのぶさん、ベルリン映画祭受賞。おめでとう。
『兵器のある風景』は、ジョー・ピンホールというイギリスの劇作家の作品だが、稽古すればするほど味わいが出てきて感心する。……カレーの出てくるシーンを初めてあたる。イギリスといえばインドを領地にしていただけあってカレーはよく食べられている。イギリスでは「美味しいものを食べたければ毎食、朝食メニューにすればいい」と言われるように、ローストビーフくらいしか名物料理のない、料理に情熱のない国である。もちろんB&B(ベッド&ブレイクファスト)と呼ばれる民宿の朝食は充実しているということでもあるのだが。「何を食べるか困ったらカレーが無難」という。ともあれこのカレーのシーン、たいへん楽しいものになりそう。
日本劇作家協会が社団法人化するための設立時社員(代議員)総会準備会・総会。いろいろと手間をかけてここまでたどり着いた。事務局・関係者の方々、おつかれさまでした。実際に機能するのは四月からではあるのだが。久々にケラリーノ・サンドロヴィッチ氏も参加。終わってしばらく四方山話。……稽古は一幕一場を着実に確認してゆく。見えていたはずではあったストーリーが、登場しない人物たちとの関係を掘り下げることで、これまでと違う陰影で、くっきりと浮かびあがる。
衣裳打合せ、稽古。演劇の「面白さ」とは何か。いろいろ考えさせられる。……そして夜は、スズナリで関西のニットキャップシアター公演アフタートークに出る。とぼけているわけではなく実は常に真剣な主宰「ごまのはえ」氏と二人だが、なんだかよくわからないトークであったのでは。
パソコンを前に椅子で寝てしまい結局ちゃんと眠れぬまま、午前から『兵器のある風景』舞台美術打合せ。島次郎氏と模型を眺め、あれこれ。午後から一幕一場・二場稽古。俳優にとってはヘビーな四人芝居、とにかく進める。合間、稽古場に大友良英登場、オリジナル音楽打合せ。映画音楽二本と並行で多忙な様子。「五人目の俳優のつもりでよろしく」とお願い。豪華な演奏者布陣になりそう。ほっておくといつまでも稽古を続けそうな私を宮越洋子演出助手が止めてくれて終了。帰路は有楽町線~都営新宿線ルート。ちょっとだけ遠回り感。五輪フィギュアスケート、高橋大輔選手は顔も全身も表情がいい。
赤坂シナリオ会館でシナリオ講座講師。午後、夜の二コマ。部屋を借り間の時間で連載原稿仕上げる。受講者に『仁義なき戦い』等の笠原和夫氏の名を知らない人が多くいて驚く。質疑応答で「ライターのA氏に『恋愛しないとシナリオは書けない』と言われましたが、恋愛はしなくてはならないものでしょうか」という質問が出て、「書くことを目的に恋愛しなくてもいいんじゃない」と答える。そういえばシナリオ業界には昔、受講者全員に「自分の初体験をみんなの前で話せ。それができないような覚悟のできていない者にシナリオは書けない」と言った講師がいたそうだ。……帰路、うっかり小田急線を急行で成城学園前まで乗り過ごしてしまう。寝ていたわけではない。もう皆は吉祥寺シアターを出た頃。千秋楽おつかれさま。
ベルリン森鴎外記念館館長のベアテさん来てくださる。『アイ・アム・マイ・オウン・ワイフ』の主人公シャーロッテは実在の人物だが、ベアテさんと親交があり、私が三年前に講演したことのある同記念館のあの調度品等はシャーロッテ本人から譲り受けた、まさにグリュンダーツァイト期のものが多いという。びっくりした。ベアテさん曰く「シャーロッテは激しい人だったわよ!」。
「バレンタインデーにぴったり」と一部に評判だった(?)『アイ・アム・マイ・オウン・ワイフ』だが、いよいよ火曜日に公演終了。観客席も舞台美術空間として創作された作品は過去にもあるだろうが、やはりこの劇でやっていることは前例のない部分が多いと思う。役者陣も日々成長している。未見の方はぜひとも足を運んでいただければ幸いである。15日月曜は夜七時半開演。16日火曜は午後二時と七時の二回公演。吉祥寺シアターのバルコニー客席は意外と席数が多くとれているので、当日券も用意してあります。
稽古は荒立ち状態に。各場ごとの内容を把握するためにやってみる感じ。……稽古場のある小竹向原と劇場のある吉祥寺との行き来が、どの交通ルートが一番適切かの判断がまだできない。環七に小竹向原と高円寺を繋ぐバスでもないものだろうか。明日は渋谷まで出て副都心線を試す。急行に乗ることができれば速いはずだが。