ピンク地底人3号による、初のオンライン演劇である『サバクウミ』は、「手話を使った声劇」の第一弾でもあるという。
演劇を映像化する際、最大のデメリットになる「俳優の声が致命的に平板になる」現象を逆手に取り、発語を使わない言語こそ、今、演劇が求めていることだと仮定した野心作だ、と、本作の製作陣は、謳っている。
じっさい、これは、実践を伴いながら、手話をモチーフに描く演劇であり、これまでに見たことのない劇空間が広がっている。
そして、そうした構造的実験に集中力を傾けているゆえか、シンプルにしないと新しい挑戦に向かいがたいと思ったのか、内容そのものは、何だか妙に素直である。私の知る限り、ふだんは男の子っぽく振る舞うことの多いピンク地底人3号だが、自身の描く登場人物の中にある、男性の甘え、身勝手、ナルシズム、マゾヒスティックともいえる依存傾向等、混乱と矛盾に満ちたその心象が、なんら恥じらうことなく描きだされ、展開されていく。どうやらこの男の子は、女子に叱られたいのである。その瞬間を素敵だと思っている。作者自身がそれを告白しているともいえる。
いま、ピンク地底人3号に注目する人なら、見逃せない、と思うはずである。
ともあれ、まず、日本初の本格的な「手話を使った声劇」として、観る価値がある。
そして、ピンク地底人3号の作品群の中で、一つの分岐点となる予感に満ちた作品なのだ。
映画『2001年宇宙の旅』への言及は、この映画への偏愛がなければなかなか消化しづらい面もあるだろうけれど、ジャームッシュや無声映画へのオマージュのようなモノクロ部分、三人の登場人物の静謐な集中力に満ちた眼差し等、作者の映画と演劇への愛がダイレクトに伝わってくる。
嘘がつけない男、自分の考えが自分でもよくわかっていないかもしれないがなぜか前へ前へと進んでいく男、ある意味、誠実なのかダメなのかわからない男を演じさせたら関西ではナンバーワンと言われている(はずである)橋本浩明は、この、彼にしか出来ない路線を、ぶっちぎりで走っている。もう十年以上前、彼は三年間ほど東京に出てきて私の劇団にいたことがあるのだけれど、自分にとって馴染みのいい関西に戻った。私は止めなかった。そこで、棚瀬美幸、樋口ミユ、ピンク地底人3号といった、彼の個性と才能を引き出す作・演出家と出会い直し、さらに独自の領域を拓いている。六年前、NHKのドキュドラマ『東海道五十三次合作絵巻 日本画を創った巨匠たちの旅立ち』の四人の主要人物を燐光群メンバーに演じてほしいというオファーがあったさい、猪熊恒和、大西孝洋、杉山英之の三人に橋本浩明を加えたのは、もちろん、彼の個性に一目置いているからである。
配信で演劇を観るのはどうも、という方も、お試しいただきたい。上演を収録した演劇ではない。映像を使うことで、演劇と映画の双方を批評しているのである。
おそらく皆さんの想像よりは上をやっている。
Don't miss である。(「見逃すな」である ※念のために翻訳)
オンライン演劇『サバクウミ』
2021年ひ2月23日(火)10:00〜2月28日(日) 23:59
動画配信サイト PIA LIVE STREAM にて公開
上演時間|63分
✔︎生の舞台のライブ配信ではなく、劇場にて収録された作品の動画配信となります。上記の配信期間であれば、24時間、お好きなタイミングでご覧いただけます。
※一部メンテナンスの時間がございます。(メンテナンス中はURLの引取ができません。)
✔︎一度チケットを購入いただければ、2月28日23:59まで、何度でもご覧いただけます。
販売期間| 2月23日(火)10:00~2月28日(日)18:00
料金|2000円(税込)戯曲データ付き (手話がわからない方にも戯曲片手にお楽しみ頂けます)
別途手数料がかかります。
ぴあシステム利用料: 220円
決済手数料:クレジットカード 0円 コンビニ振込 220円
ごく稀に、私が、立っている、この地面を、激しく、揺さぶる人が、現れる。
もう、私は、かつて暮らしていた、世界に、戻る事は、出来ない。
その人は、優しく、甘い、手話を、使った。
多くの「音」、についての、演劇を、作ってきた。
にも関わらず、彼女(彼)のような人が、客席に座る、可能性を、まるで、考えてこなかった事を、私は、恥じる。
と同時に、私は、欲望する。
あの人の、隣で、嗅いでみたいのだ。
あらゆる、手話の、「音」の、香りを。
ピンク地底人3号
【出 演】
高橋映美子
のたにかな子
橋本浩明
【スタッフ】
作・演出|ピンク地底人3号
撮影・編集|タニガワヒロキ
撮影協力|mtakeda/山崎正悟(junksharp)
舞台監督|小野かっこ
舞台美術|久太郎(Anahaim Factory)
照明|林 鈴美
音響|森永恭代(サファリ・P)
音楽|Ryushin Aizawa
戯曲協力|尾庭恵子
手話協力|笠井賢一郎
宣伝美術|chanmi
制作|秋津ねを(ねをぱぁく)
劇場|in→dependent theatre 1st
企画・製作|ももちの世界
https://momochinosekai.tumblr.com/next?fbclid=IwAR3v0gkFCND1aow005H3zHu2cPpvWdoAlsVu3QG6MwsNKSaN_jFLCIkSe9E