チェーホフ関係のいろんな資料で言及されている、1896年秋、サンクトペテルブルク・アレクサンドリンスキイ劇場『かもめ』初演初日の失敗の話は、何度触れても身につまされる。かなりいろいろな演劇人が「初日の夢」をみるようだが、ろくな夢ではないことが多いようである。チェーホフの才能にして、その悪夢が現実になったとは……。「現代能楽集」で近代劇を取り上げるのは昨年のイプセン以来だが、チェーホフの人物たちそれぞれの表現のややこしさに、かなり困惑させられている今日この頃である。
窓を開け放しにする。やはり冷房よりいい。夜、自転車に乗りつつ差していたビニール傘がおちょこになって壊れてしまった。……ちゃくちゃくと原稿進める。進行予定に比べるとかなり遅いんだけれども。前売り券を買ったが結局『アウトレイジ』観られず。……政府は2011年度予算案に徳之島の調査費計上を見送る方針を固めたようだが、日米共同声明に徳之島の名前が残っている以上、島民の不安は消えない。白紙撤回の明言が必要。ちゃんとしてほしいものだ。
参院選落選後、引退を示唆していた千葉法相が、国会での問責決議案をかわす狙いか、民主党政権下初の死刑命令。執行にも立ち会ったのは、執行された死刑囚が「検事、裁判官、法務大臣らが自ら執行すべきだ」とアンケートに答えていたからか。同死刑囚は「ほとんどの死刑囚は反省し、被害者のことも真剣に考えている」が、「死を受け入れるかわりに反省の心を捨て、被害者・遺族や自分の家族のことを考えるのをやめた」とも発言。千葉法相は「国民的な議論が必要」というが、執行後に存廃検討の勉強会を立ち上げてどうする。世論調査では85%超が死刑容認というが、千葉法相ら死刑廃止議員連盟は、死刑の代わりに「仮釈放を認めない終身刑」を推進しており、それも問題だ。
ちょっと今考えていることと関連ありそうな気がして映画『インセプション』。あまり参考にはならず。音楽が大仰すぎる。ネタばれにならないはずだが、ほぼ最初の30分で思った通りのストーリー展開で、意外性はない。最後は今さらわかっているからいいですよという感想が湧くというか、とってつけた感じに見えてしまうのは、肝腎なところを描ききっていないからかもしれないが、そこを描かない方がセンスがいいということでもあるだろう。「???」となる人が多いというのはそこなのかどうか知らないが。この監督の出世作『メメント』に近い。初心忘れず、ということか。
帰京。いろいろなことが終わらず。……スーパーのウナギ売り場での「中国産・加工静岡」という表示は、どこにプライオリティを感じているのだろう。救援ヘリ事故は起きるべくして起きたが、これで高齢者登山そのものがやり玉にあがるのは短絡的である。大雨で水が溢れることもある神田川沿い付近の住民としては、ゲリラ豪雨はいやだな。……それにしても社民党だいじょうぶか?
打合せなど終え。岡山駅前から犬島行きバス。高校時代の通学路に近い道を通る。船からは懐かしい海沿いランニングコースが見える。景色はいくらか変わったが。維新派作品は、タイトル通り「共時性」をさらに越えたシンクロニシティを現前させる高度な作業。借景の見事さ。音楽の洗練。言葉を鮮明にするところとぼかすところのバランスの絶妙さ。衣裳メイクも含めたモノトーンの世界が一瞬、カラフルになる瞬間の幻惑。身重の妻を残し日本に帰る男の台詞の絶妙なタイミングに観客席から本物の赤ん坊の泣き声、鳥肌立った人も多いはず。それにしても知り合いがいっぱい犬島に来ている! 松本雄吉氏と船出発時刻ぎりぎりまで飲んでしまう。
祖母一周忌の法事。やはり長寿の話題になる。満百歳、数え百二歳だったのだ。お寺は涼しいと思われていますがそんなことはないんですよ、と住職さん。……岡山県北も暑い。雷、一瞬の豪雨。そして吉井川沿いの道を日没時南下移動するのは、なんだか涼しげだったが。崖崩れやらの警告標識も多々。それにしてもPHSの電波が見事に入らない場所ばかりである。……朝に仕上げた原稿を修正。次の原稿に進む。
とにかくさまざまな原稿を仕上げなければならない。日中しかできない雑務にも追われつつ、移動中も含めて書き進める。11月新作のノートもじわじわと。……それにしても、昨年よりも暑いですよね、と言われ、曖昧に頷くというのも、ここ毎年のような気がする。
金賢姫来日について日本の人々の感想にチャーター機のことなど「税金の無駄遣い」という指摘が目につく。韓国メディアの皮肉な反応も伝え聞く限り理解できる。いずれにせよ、ちょっとズレている気がする。そういえば韓国滞在中の今月7日、ソウルで講演していた駐韓日本大使が石を投げつけられた事件があり、翌日、現場に居合わせたという関係者に話を聞いた。犯人は独島(竹島)問題を言挙げしていたそうだが、この件について日本側が何も考えていないというか、ボケているように見えることへの苛立ちも、動機であるように思われる。
劇作家協会打合せ、ケラ・横内両氏に9月シンポジウムの件。高円寺まで行ったが「座高円寺」には寄れず。下高井戸で映画『脳内ニューヨーク』、独特のシナリオで知られるチャーリー・カウフマン初監督作。奇妙というより怪作だが、主人公と同じ職業故に、いろいろ考えさせられる。
帰京。原稿書き。夕方から新宿SPACE ZERO。非戦を選ぶ演劇人の会、ピースリーディング。カンパ集め係など手伝う。御陰様で満席。自らの被爆体験を語る鈴木瑞穂さんが、圧巻。
午前より劇作家協会地域支部会議。沖縄以外の全支部から揃う。午後は富良野演劇工場へ。倉本聰作・演出『歸國』観劇。演劇工場を案内していたただく。公共劇場を民間NPOが運営する第一号がこの場所。夕食をご馳走になる。チーズ豆腐。サメ頭スライス。牛乳納豆茶漬け。美味! 倉本さんの質問「地球に残された石油備蓄量は富士山の容積の何倍あるか?」、意外というより衝撃的な正解! 充実した一日に感謝。札幌での劇作家大会から十一年半、北の国から何かが始まるリアルな予感。
ひさしぶりに散髪。夏らしく短く。東京外国語大学でシンポジウム、谷川道子さんたちと。途中で出させてもらって最終接続便で北海道へ移動。札幌で盛岡からのくらもち君に合流。十一時前に芦別に着く。かつては炭鉱の町として栄えた。人口七万が一万代に減ったという。途中で鹿が前を横切る。劇作家協会地域支部の人々がほぼ揃うが、夜も遅いので早めに寝る。
暑いのにクーラー入れず。いろんなことが進まず。思うように捗らない。同時並行原稿数かつてない分量に。……合間、『ゲゲゲの女房』観てしまう。『おしん』以来連ドラ得意の貧乏物語、成功後の展開はかえって難しいかも。久しぶりマブティー出ている。……息子とふたり週末特売ユニクロ行って、夏物やら下着やら買う。……いろいろ観たいものがあるが、行けない。韓国コンモッキルは満席というので行かず。前売券買った『アウトレイジ』も観てない。……ここ数日、電車に乗らず。結果的に杉並・世田谷地域への引きこもり。といっても、日が変わればまた東京を離れる。
スウェーデン型椅子を引っ張り出したついでに、この5年間使っていた椅子を息子に譲る。たいして大きくもない部屋だが妙に広くなった気がする。……夜は劇団女子の清水邦夫作『楽屋』稽古を覗く。指導は清水さんの木冬社門下生でもある南谷朝子さん。私の清水ワールドとの出会いは70年代、映画『竜馬暗殺』、そしてこの『楽屋』である。上京して最初に観たのが木冬社『あの、愛の一群たち』、松本典子・岸田今日子・吉行和子の豪華競演だった。現代劇作家において、「詩的な台詞」という感想がちゃんと褒めコトバになるのは、清水戯曲をおいて他にない。