午前中、ロンドンからの来客に会う。ナショナルシアターの人たちなので、まさに今私たちが稽古中の『ザ・パワー・オブ・イエス』を、彼らは本家本元で今月も上演しているのである。「あれが日本の観客にわかるのか?!」という反応は、同じ作者・同じ劇場の『パーマネント・ウェイ』の時と同様である。まあ、こちらとしても、そういう困難が面白いからやっているとも言えるのだが! 稽古は少しずつでも前進しているはずとはいえ、まだまだするべきことが多い。
午前中から、劇作家協会の理事会・運営委員会、三時間余。初参加の長塚圭史さんに「この顔ぶれがいればいろんなことができますね!」と言われ、考えてみれば豪華メンバーなのだなあと、今さらのように思う。協会も十七年、新鮮な気持ちを大切にしたいものである。……巷は時効廃止・改訂刑事訴訟法の話題も。確かに、「時間が解決してくれる」という問題と、そうでないことがある。だが、この「罪状引き上げ」によって、政治犯などの反体制的な服役囚への締め付けを恣意的にきつくする趨勢も出てくるかもしれない。例えば仮釈放などがよりいっそう認められなくなる可能性がある。今回の動きは「権力が強くなる」ことでもあるという点は、意識しなければなるまい。
まだまだ肌寒い。午前中、すごく久しぶりに日韓演劇交流センター委員会、総会。最近出席できていないので、浦島太郎気分。申し訳ないが早めに抜け出し稽古へ。専門用語の多さに苦しみつつ、とにかく前へ進む。まだまだ手間がかかりそうだが、こんな演劇を観たことはないということだけは確かだ。……小沢一郎氏に検察審査会の「起訴相当」議決。検察審査会について私が劇化した『危険な話 OFFSIDE』(而立書房刊)から二十二年の歳月が経っている。裁判員制度以前に「民意」の重さを背負うシステムだが、ずいぶん長い間、認知されずにいたものだ。
晴れても相変わらず肌寒い。地球温暖化という言説は、じっさいには氷河期が来るのを隠すためという噂があるが、まあどちらにしてもありがたくない話だ。まる一日稽古場に籠もっている穴ぐら生活の身だが、外の世界はぜひともさわやかであってほしい。
井上ひさしさんが亡くなられて以来、「あの人はもういない」という思いがフラッシュバックのように、時折、突然、響く。これから頑張って、すごい傑作を書いて、ぜひとも褒めてもらいたい、と思う相手に亡くなられては、張り合いがないではないか。悔しい、ほんとに悔しいぞ。そうだ。宮沢章夫さんがどこぞに私の発言として引用していたように、私は五年前の岸田戯曲賞選考会について、確かに「選考委員であるはずの私たちは、井上ひさし劇作塾の生徒のようであった」と書いたことがある。その思いは今も変わらない。六年前、雑誌「国文学」での井上さんとの対談のことも記憶に甦り、自分の進行の下手さ加減を思い出し、改めて自己嫌悪に陥る。短い期間でも、井上さんと「現役」どうしでいられたということの、ありがたさと、畏怖と。
久しぶりにちゃんと眠る。各方面から上演中の芝居の誘いをくださるのだが、観に行けぬ。申し訳ない。じわじわ稽古を進めるのみ。それにしても手強い戯曲。というか、デビッド・ヘアーのドキュメンタリー劇シリーズはいつもそうなのだが、その「いつも」に増して、イギリス以外で上演する可能性をまったく考えていない戯曲である。そこを工夫し、そこをプラスに転化したいのであるが! 日本語の台詞と向き合うJohn Ogleveeの試練を思えば、日本俳優たちは、まだまだ! ……稽古場にいると、あっという間に時間が経つ。寒いのも相変わらずだが、とにかく前進。
異常気象は続く。せめて雨が止んでほしい。完全徹夜でヘビー。午前中、取材を受ける。稽古はようやく一巡し、冒頭に戻る。最初の二場の不思議な面白さをつかみかけたかな。……今さらながら、テレビで観る政治家たち、みんな悪相である。「新党」という響きがほんとうに子供じみて聴こえて気持ちが悪い。
なんという異常気象。寒すぎる。稽古場に暖房を入れる。郡山では雪が降ったという噂。マジかよ。今日から広い稽古場に移動、島次郎さんとの美術打合せもあって十時ぎりぎりまで。音響の島猛さんは上海万博の仕事に出かけたままだ。開会しないと帰ってこられないってわけなのだろうか。……帰宅後は溜まっていた原稿の校正を続ける。フランスの演出家による新国立劇場『西埠頭』はじめ観たい芝居が目白押しだが、たぶんどこにも行けないだろう。
稽古を終え、日暮里まで団体移動、杉山英之が客演している『パンドラ』を観る。私と似ているとされている田中壮太郎も出ている。しかし終演後ロビーで、壮太郎は私の顔を見て「え?」となった。私が先月ヨーロッパ滞在中、髭を剃ってしまっているからだ。しばらく渡辺美佐子さんと仕事をしないし(この辺りの事情はこのブログの2008-11-25「あごひげ」をご参照ください)、まあ気分転換である。とはいえ自分でもまだ髭のない顔には違和感がある。時折り鏡が目に入って、どきりとするのだが。
淡々と稽古を進める。……終えて九時頃から劇団有志(結果ほぼ全員)による焼き肉の会。二十歳そこそこの助手Mが「焼き肉が食べたい……」と言うのを聞き咎め発案。三十人ぶんをわしわしと焼く。良い会ではあった。豚タンが美味。こんなことしている時間があったら台詞をきちんと自分のものにせよ、と今日は言っても仕方あるまい。
午前中、あうるすぽっとチェーホフ演劇祭の記者会見。9月『現代能楽集 チェーホフ』で参加する。客演の剣幸さんと。他のプログラムの方々も賑やかで、ごまのはえ君やバンコクから帰ったばかりの矢内原美邦さんの姿も。チェーホフは44歳で亡くなった。昔それを知って、自分が44歳までに何ごとかを達成できるだろうかなどと思ったものだが、気づけばとっくにその年齢を超えてしまっている。……午後から稽古。合間に島次郎さんと話、美術プラン決定に向けて、もう一踏ん張り。徹夜のまま七時間ぶっ通し稽古はヘビーであった。
ずっと起きていてやっと昼寝のような睡眠。午後も机に向かい夕方少し外出。えらく久しぶりTSUTAYAへ。書店部分が広々と整理されている……のではなく、雑誌エリアの棚間隔を広くして、わりと普通に文芸・実業書が揃っていた通常書籍部門が「多く売れるものを売ろう」という方向に傾いている。書店のコンビニ化という言い方をされて久しいが。……徳之島で島民半数以上参加の米軍基地反対集会。鳩山政権は「地元」に正式に話していないことじたいお粗末。……杉並区山田区長が新党結成会見。その動きは察していたが、今日のこのタイミングは絶好であったか。
朝七時に窓外を覗くとうっすら雪が積もっていて愕然。寒いが晴れてきたので革ジャン(ユニクロのフード付き合皮製バーゲン品)を復活させ自転車通勤。午前中、北九州市から北海道演劇財団に移ったIさんたちと話す。正午から稽古。6時前に終え稽古場を出る。誘われている芝居が色々あるのだがうかがえず申し訳ない。今夜はチェーホフと取り組むと決めていた。月曜までに少しでもイメージを固めておく必要があるのだ。……しかしこの異常な寒さとアイスランド火山噴火に相関性があるように思えてしまうのは私だけか。二週間前なら私はパリに足止めだった!
ちゃんと眠れぬまま過ぎてゆく午前中。寒いし雨が降るので、自転車通勤を諦め電車で。稽古後に散髪。それにしても寒い。雪が降るか? ……深夜、ゴールドマンサックスが米証券取引委員会に提訴される報道。サブプライムローンを始めたのはリーマンではなくこの会社。今さら、だが、つまりは、遅すぎる、ということかも。『ザ・パワー・オブ・イエス』はそういう世界を描く芝居。私同様にもともと金融問題が苦手である人に、ぜひ観ていただきたい。
最近ほんとうに映画館で映画を観ていない。今年に入ってからは『キャピタリズム』『アバター』のみだ。アルモドバルやパク・チャヌクの新作もたまたま前売券を買っていたのに時間がとれず人にあげてしまった。ビデオも借りていないので、新作を観たのは飛行機の中でだけだ。『第9地区』とか『ゴールデンスランバー』とか。ひょっとしたら今年、映画鑑賞年間最低記録を作るかもしれない。