9/21国連人権理事会サイドイベント/沖縄における軍事化と人権侵害
での吉川秀樹さん(沖縄BD共同代表、SDCC国際担当)の口頭発表原稿の和訳を
掲載します。
英文は
こちらをご覧ください。
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沖縄の苦難の歴史強調 国連でシンポ、基地問題を討議
photo:
The International Movement Against All Forms of Discrimination and Racism (IMADR)
2015年9月21日
発表概要(英文が原文です)
国連人権理事会サイドイベント/沖縄における軍事化と人権侵害
沖縄における軍事化と環境権
沖縄・生物多様性市民ネットワーク
吉川秀樹
始めに
この重要な場で発表できる機会を頂き感謝する。私の発表は、1)沖縄における軍事化、環境問題、人権侵害の関係の概要、2) 辺野古・大浦湾における新たな米軍基地建設の2点についてである。
この発表では、人権と環境の問題を扱う国連特別報告者John Knox氏の報告(2014年3月の人権理事会での報告)に「手続き的義務」と「実質的義務」言及していく。その中でも、「安全、清潔、健康的で持続可能な環境への権利を保証するには、1環境情報へのアクセス、 2 問題解決への市民参加、3改善手段へのアクセスが重要である」というKnox氏の論点に言及していく。
沖縄戦
軍事化には様々な形があるが、最も破壊的な形が戦争であり、沖縄も沖縄戦を経験してきた。戦争の人的被害についてはある程度は把握できているが、Knox氏が重要視する、環境への影響についての情報は非常に限られている。事実、総務省の「全国戦災史実調査報告書」には沖縄の被害の記述がない。なぜなら沖縄戦により行政文書が焼失したからだ。
米軍基地の建設
戦中、戦後の沖縄において、土地を強制摂取し、建設された米軍基地は、軍事化の一つの形である。50年代には「銃剣とブルドーザー」で土地が強制摂取され、基地へと変えられていった。
米軍基地は、沖縄のランドスケープ/環境の一部となったが、それは環境問題の原因の一つとなっていく。PCBやダイオキシン、さらには劣化ウランによる土壌汚染、航空機の騒音、実弾演習による山火事、航空機の墜落などがあげられる。
しかしこれらの問題は基地内で起こる場合が多く、Knox氏が示す「手続きの義務」が実施されることは希だ。
基地に関する環境問題の情報のアクセスは殆どなく、仮に情報が提供された場合でもその情報の信憑性を確認できない。基地に関する環境問題の解決にむけて、市民が参加することは殆どない。
日米同盟が常に優先され、地位協定が「手続きの義務」を実質的に不可能にしており、沖縄の人々の安全、清潔、健康的、持続可能な環境への権利は否定されている。
辺野古・大浦湾における新たな米軍基地建設
翁長知事がある程度この問題については説明しているので、環境の面を焦点にする。
辺野古・大浦湾は、沖縄でも生物多様性の最も豊かな場所であり、260種以上の絶滅危惧種を含む5,300種以上の海洋生物が生息する。絶滅危惧種のアオサンゴや、絶滅危惧種であり、日本の天然記念物であり、沖縄の文化的アイコンであるジュゴンも生息する。
基地建設には埋立てが必要であり、2百1千万立方メートルの土砂が使われる。その内百7千万立方メートルは県外から運ばれ、外来種の問題もある。
これだけでも環境保全の観点から言うと、基地建設はNOである。
また辺野古・大浦湾の地域には、4500人が住んでおり、漁業、農業、エコツアーリズムに従事する人々がいて、その人たちの生活はこの地域が豊かな環境であることに依存している。
さらには、沖縄県は、やんばるの森をユネスコの世界自然遺産に登録しようと努力しているが、その森は辺野古・大浦湾からは20kmしか離れていない。
以上の環境に関する理由からも、20年近くこの基地建設に沖縄の人々は反対してきた。
環境権侵害の新たな形
ではなぜ日本政府は基地建設を進めるのか?なぜ国家的暴力にまで訴えて基地建設を進めるのか?
日本政府によれば、前知事が基地建設のための埋立てを承認しており、またその承認やその他の手続きは、「基地を作っても環境に影響はない」とする環境アセスの結果に基づいている。
環境に影響がない、それゆえ環境権を侵害しているとはいえない、というのが日本政府の見解である。
基地建設に反対する沖縄の人々こそ、正当化できない要求をしている、とするのが日本政府の見解なのかもしれない。
環境アセスの問題
しかし日本政府の環境アセスは、専門家、NGO、沖縄県を含む多くの人から批判されてきた。辺野古・大浦湾の環境の価値と脆弱性を適切に評価していないこと、基地の影響を大幅に過小評価していること、影響の緩和処置を過大評価していると私たちは議論してきた。
環境アセスの専門家で、日本環境アセスメント学会の元会長の島津康男氏は、このアセスを日本のアセス史上、最悪のアセスだとしている。
この環境アセスの手続きで、非常に問題のある点は、「環境に影響がない」と結論を出した専門家が誰であるかが知らされていないことだ。日本政府は、沖縄の人々に対して「影響なし」の結論を鵜呑みにしろといっているのだ。
国連人権理事会の人権と環境の特別報告者Knox氏の「手続きの義務」においては、環境情報へのアクセスが大切だとされているが、それはその情報が正確なもの、正当性をもつことが条件とされている。少なくとも、情報の正確さや正当性について透明性をもって検証できることが条件だとされている。
その条件が満たされない場合、行われた「手続きの義務」そのものが環境問題を起こすことにつながり、人々の環境への権利を侵害することになる。現在、辺野古・大浦湾で起こっているのはまさにそれだ。
戦後、「銃剣とブルドーザー」によって、沖縄の人々は土地を奪われ、基地を建設されていったが、いま辺野古・大浦湾では、海保と警察からの基地建設に反対する人々に対する暴力と、この環境アセスが新たな「銃剣とブルドーザー」となっている。
米国の責任
この日本政府の情報を公開しないという動きは、米国防総省も影響を与えているようだ。2008年米国のジュゴン訴訟で、国防総省は、基地建設によるジュゴンに対する影響を検証するように命令された。
国防総省は、日本政府の環境アセスを分析し、取り入れ、ジュゴンに対する検証を行ったとし、また「環境に影響はない」という結論に至ったとし、建設工事を認めている。
しかし、日本の環境アセスをどのように分析したか、基地建設の影響をどのように自ら検証したかの情報を公開していない。またこの検証の過程において、沖縄人々の住民参加をさせていない。
翁長知事の取り組み
政府の方針に従うようにという日本政府から政治的圧力のなか、翁長知事は第3者委員会を設立し、埋立て承認と関連する環境アセスの検証を行わせた。そしてこの7月、同委員会は、埋立て承認は法的瑕疵があると判断をした。翁長知事は承認取り消しの手続きに入っている。
環境アセスや埋立て承認の問題点を訴えてきた私たちは、私たちの立場の正しさを立証されたものだと考える。
しかし沖縄県民と翁長知事は、これから非常に困難な状況に直面していくだろう。翁長知事も私たち沖縄の人々も、日本政府による訴訟が起こされるだろう。
ここで私から希望することは、国際社会にぜひこの基地建設問題に注目して欲しいといこと、そして国内外の専門家にぜひ基地による環境への影響の検証に参加して欲しいということだ。
結びにかえて
最後に以下のことを示しておきたい。普天間基地は米国の基地だけでなく、国連の施設でもある。沖縄の人々から奪った土地に建設され、人口が密集した市の真ん中に位置し、世界一危険な飛行場と呼ばれている基地は、国連の施設でもある。今辺野古・大浦湾で建設が強行されようしている基地も、普天間の代替施設というならば、国連の施設となるであろう。国連は自らの責務についても検証すべきである。