夜道を歩いておりました。気持ちの良い暖かな夜でした。
坂道をゆるゆると登り見晴らしのよいあたりで立ち止まりました。
森の影と夜空の溶け合っているようです。
しかし目を凝らしていると月明かりのおかげか
空は少し光って、影は次第に濃さを増して行くようでした。
空は藍色に少し菫色がかかっていました。
前方に飛び切り大きな丸い樹冠が見えています。
するとその大きな樹冠の少し上からいきなり花びらのような白い粉が現れて
木に降り注ぎました。
木は次の瞬間真っ白な樹霜を纏い
夜空を背景に光りました。
それはほんとにあっという間の出来事でした。
そうして一本二本と真白な木々が闇に浮かんでいるのでした。
そんな夢を見た。
この頃あまり夢を覚えていなかったし、取り立てて覚えておこうと思う夢は見ていなかった。
この夢のなかの木がパッと白く変化する様子は、子供のときに縁日で的屋がしてみせる”砂絵”を思い起こさせた。
糊を含ませた筆でささっと紙に描き、その上にスプーンで掬った色砂をささっとかけてゆく。
色砂は何色かに分けて器に入っており的屋の手が3回ほど動くと夕焼けに映える富士山があっという間に現れた。
何度見ていても飽きない。
見ているうちにどうしてもその砂絵セットが欲しくてたまらなくなり、一緒に居たのは祖父だったか、ねだって買ってもらったことがある。
家に帰って早速教わった手順どおりにするのだがちっとも上手くできずに、的屋の鮮やかな手つきを思って悔しい思いをしたものだ。
あの頃、他に色紙絵を描く的屋が居た。色紙や半紙にしゅっしゅっと筆を走らせてめだかの群れやら金魚やらを描いてゆくのを子供心にとても感心して眺めたものだ。何故か今でもそのときに見ていためだかの描き方、竹林の描きかたを良く覚えている。あの的屋は一体何を売っていたのだろうか?色紙そのものを売っていたのか?お絵かきセットを売っていたのか?その辺の記憶がはっきりしない。
兎に角、今朝の夢にあらわれた大きな樹はその砂絵のようにあっという間に真白く変わり、それはたいそう美しくて、私は夢の中で歓声をあげていた。
私はその光景にカメラを向けて、「暗いんだよね~、暗すぎるなあ~」と一生懸命写真にとろうと苦労しては、ぼけてしまうのを悔しがっていた。